2016年12月15日木曜日

【年間ベスト】2016年個人的ベストライヴ トップ5





師走である。

昔やってたブログで「年間ベスト」企画をしていた。

ベストアルバム(50枚)、ベストソング、ベストライヴ、ベストムービーを自分なりに選んでた。頑張ってたな。

中でも年末といえば年間ベストアルバムであった。


あの頃は洋楽雑誌もまだ盛んでロッキングオン、クロスビート、snoozer辺りなんかよく見ていた。ロキノンは鼻で笑い飛ばしてたが。まだ発売してないコールドプレイのアルバムが年間一位ってなんだよ。


当時は個人ブログでもやってる人多かったしね。

とまぁ、やってたんだけど、年々洋楽の購入枚数が減っているので、まぁいいかと。映画も本数観てないし。

でも、せっかくブログやってるし、何かしらはやろうということで、ベストライヴトップ5やります。









5位 星野源/星野源2016年全国ツアー『YELLOW VOYAGE』







今年初めてのライヴでもあったこのツアー。幸運にも友人共々当選してさいたまスーパーアリーナ公演2日間に参戦した。

自身最大のヒットとなったアルバム「YELLOW DANCER」を引き連れたツアー。

アルバム曲を中心に聴かせるライヴから魅せるライヴへの変容が感じられるツアーであった。

星野源がこんなに動きまわることがあっただろうか。
星野源がこんなに客を煽ったことがあるだろうか。

それでも、恒例の弾き語りコーナーがあったり、昔の曲もしっかり聴かせてくれて、大満足のライヴだった。
どうでもいいが、このブログ最初のライヴレポを書いたライヴでもある。


【ライヴレポ】
【レポ】星野源全国ツアー「YELLOW VOYAGE」さいたまスーパーアリーナ part.1
【レポ】星野源全国ツアー「YELLOW VOYAGE」さいたまスーパーアリーナ part.2
【レポ】星野源全国ツアー「YELLOW VOYAGE」さいたまスーパーアリーナ part.3



4位 THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016 -YOKOHAMA SPECIAL day.1







遂に復活したイエモン。
すっかりハマった。CD全部借りて、チケットも取ってくれたので代々木二日目、さいたま2二日目、そしてこの横浜アリーナ初日に参戦できた。

復活ツアーとはセットリストを大幅に変えてきて"RAINBOW MAN"から始まる「SICKS」を中心としたセットリストだった。
復活後初めて披露された"天国旅行"は圧巻であった。

もちろん通常の復活ツアーも最高だったけど、あのスペシャルライヴならではの何が起こるか分からない特別感を味わえたので、このライヴにした。


【ライヴレポ】
書いてなかった 今気付いた

【レポ】THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR @国立代々木競技場第一体育館 DAY.2 part.1
【レポ】THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR @国立代々木競技場第一体育館 DAY.2 part.2
【レポ】THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR @国立代々木競技場第一体育館 DAY.2 part.3


3位 Radiohead / SUMMER SONIC '16 TOKYO







圧倒的であった。

夏の2日間全てこの人達に呑み込まれてしまった。

新作中心ながらも"Airbag"や'No Surprises"などが挟まれて披露され、アンコールではまさかの"Let Down"。

これだけでも感涙ものであったけど、トドメに演奏された"Creep"。あれほどまでにスタジアム全ての人間が1つになる瞬間を見たことがあるだろうか。
しかし、その中には1人ひとり、様々な想いが詰まっていたのだ。


【ライヴレポ】
【レポ】SUMMER SONIC 2016~Radiohead編


2位 ポルノグラフィティ/ 横浜ロマンスポルノ'16~THE WAY~






4度目となった横浜スタジアムライヴ。初日は雨バンドらしく雨。

ポルノのライヴはいつでも楽しい。それは徹底的なまで研ぎ澄まされたエンターテイメントだからだ。

これだけのキャリアを重ねても挑戦を止めない2人。アコースティックという意外な始まり、意表を突いたアレンジ、シングルも多かったライヴだけど、最も凄いと思ったのは、最近の曲も全く昔の曲に劣っていないことだ。

"THE DAY"の力強さは凄まじいものがあった。

ライヴという空間は、なんでこんなに幸せなのだろう。


【ライヴレポ】
【レポ】横浜ロマンスポルノ'16〜THE WAY〜 part.1
【レポ】横浜ロマンスポルノ'16〜THE WAY〜 part.2
【レポ】横浜ロマンスポルノ'16〜THE WAY〜 part.3
【レポ】横浜ロマンスポルノ'16〜THE WAY〜 part.4
横浜ロマンスポルノ'16〜THE WAY〜セットリスト・使用ギターまとめ



1位 ハルカトミユキ/LIVE TOUR 2016 'LIFE' FINAL − 約束の地・野音!










僕はどこまでもポルノグラフィティが好きである。ライヴが見れればほぼ無条件で1位にしたいと思うほどだ。

そんな僕ですら、今年はこのライヴを1位にしたい。

今年リリースされたハルカトミユキのアルバム「LOVELESS/ARTLESS」は大傑作であった。

47都道府県全てを回ったハルカトミユキの2人、その最後の地点となった野音。

ライヴレポでも書いた通り、昨年の野音は完成度もしては少し気持ちが空回りしてしまった部分があったと思う。それでも想いはしっかり届いたが。

しかし、今回のハルカトミユキの野音、内容は完璧であった。

ハルカトミユキを好きで良かった。もっと言えば音楽を好きでいて、信じていて良かった。

音楽は世界を救うことはできない。でも誰かの心は変えることができるし、時にはその人を救うことができる。

そんな音楽が鳴った瞬間に立ち会えていることが何より嬉しかったのだ。

同時に、そんな素晴らしきライヴが決して動員的には成功しなかったことが何より悲しい。
あと惜しむらくはあの韓国との交流イベントとの音かぶりである。絶対友好にはならない。


【ライヴレポ】
【レポ】ハルカトミユキTOUR "LIFE"FINAL 約束の地・野音 part.1
【レポ】ハルカトミユキTOUR "LIFE"FINAL 約束の地・野音 part.2
【レポ】ハルカトミユキTOUR "LIFE"FINAL 約束の地・野音 part.3


ということで、トップ5を選んでみました。

今年のあなたのベストライヴはなんでしたか?








このエントリーをはてなブックマークに追加
 

2016年12月14日水曜日

【歌詞表現】桜井和寿や新藤晴一の目になって世界を見てみたいと思ってしまう






エッセイが好きだ。

面白いエッセイを書く人というのは、普通にしては気づかないような目線で世の中を見る視点を持っていて、それを鮮やかに切り取っている。

たとえば僕がその辺散歩して記事書いても面白くないが、穂村弘さんがエッセイにしたらとても面白くなるようなものだ。

そこで難しい言葉を使わなくても、切り取り方や目線が面白いからこそ、他の人には真似できない独特の表現になる。

それは面白い歌詞を書く人との間にも通じる感覚で、そのことについて書いてみようと思う。









ストレートのある歌詞、じゃない歌詞




ここ何年も歌詞の世界で言われ続けてる言葉がある。


「表現が直球すぎて、含みが全くない」


よく言えば素直で誰にでも分かりやすい歌詞、ということだ。

「君がこんなに好きだから、とても会いたい」

たとえば、このような表現は「ストレートな表現」と呼べるだろう。


「落ち込まないで、ほら君は1人じゃない。同じ空を見上げよう」


以前TSUTAYAでひたすらファンキーモンキーベイビーズのベストが流れてて、ほぼ全部こんな歌だった。

というように、とても想いを素直に伝える。


では、日常の風景をちょっと違った目線で作られた歌詞はどんなものがあるだろう。


冷たい骨を晒した解体途中のビルの上を舞うムクドリ
その巨体は少しずつ時に体を啄まれ ようやく眠るのか
ポルノグラフィティ/素敵すぎてしまった


ガラスの向こうには 水玉の雲が
散らかっていた あの日まで
スピッツ/楓


日常の光景で、言われればパッと頭に思い浮かぶような情景なのに、とても詞的な表現だと思う。



表現




ストレートとストレートじゃない例を挙げてみた。それで別に優越をつけたいわけではない。

ストレートの歌詞の方がいいという人も当然いる。しかしそればかりになってしまってもいけない。それは逆も然りではある。どちらかだけになってしまってもツマラナイ。

それこそが表現者毎の個性であり、その中から自分に合う表現をする人を見つければいい。

たとえば、日常の切り取り方ひとつで、表現は無限にできる。


世界は誰にでも門を開いて待っている
平等の名の元に請求書と一緒に

Mr.Children/もっと


ひとつも難しい言葉を使ってないけれど、こんな表現は見たことがない。前半と後半との落差がちょっと短歌的だなとも思ったりした。平等を歌う歌詞はたくさんある、それでもそれを伝える上で「請求書」を引き合いにだす歌詞は見たことがない。

こうしたちょっとした視点の変化で、表現は無限に生まれる。

新藤晴一やMr.Childrenの桜井和寿は特にそうした独自の目線で世の中を見ていることが歌詞から伝わってくる。

ちなみにスピッツの草野マサムネは目線とかそういう次元でさえなく、もはや何もかもが異次元だ。


表現とは、辞書で見てみよう


表現
[名]心理的、感情的、精神的などの内面的なものを、外面的、感性的形象として客観化すること。また、その客観的形象としての、表情・身振り・言語・記号・造形物など。「情感を表現する」「全身で表現する」


あるコラムで心に残っていることがある。どのサイトか失念してしまって引用元が思い出せないのが恐縮だが、少し引用すると「歌詞表現とはその人らしさを表に出すものだ。だから見た時にその人と分かるような歌詞は素晴らしい」というような内容であった。

ストレートな歌詞はいきすぎると、個性も何もないものになってしまう。
そんな中で同じ「愛」とか「好き」という感情を自分なりに表すため、日夜頭を捻らせている。

僕はやっぱりそういう歌詞が好きになってしまったのである。

でも疲れるとストレートな歌詞聴きたくなるよね。








このエントリーをはてなブックマークに追加
 

2016年12月12日月曜日

【ショートストーリー】Part time love affair






人混みの中を泳ぐように車を走らせる。


夜を迎えた街にはイルミネーションが灯り、年の瀬の街を彩っている。磨きあげられた車のボディには、その光たちが反射し輝いていた。
だが、車の中から見える景色はどこか幼稚な幻にも見える。

助手席に座る女はどこか虚ろな目をして車窓を眺めている。
少し前にあの男に抱かれていたはずの身体をドアに寄りかからせながら。

あの男と彼女の関係を作ったのは、他でもない、この私だ。
時間、場所、行為、いくつかのルールを決めて男と彼女を会わせていた。

男の、彼女へ抱く想いを知っているからこそ、叶わぬ夢を少しでも見せてやった、それに過ぎない。

今夜、あの男は…



目的地に到着して、車を停めサイドブレーキをかける。
ノブに手を掛けようとした彼女を強引に引き寄せる。身を翻した拍子に女の背中がクラクションを鳴らした。

また口が嘘を零す前に、塞いだ唇。
女の嘘が残ったような舌先のざらたき、僕はそれに舌を絡ませた。

首筋に付いた傷が目に入った。
まるでタトゥーのような模様になったそれは、なるほどあの若造が私宛につけたものか。


エンジンを止め、君を車から連れ去り、エレベーターへ乗り込む。
女は右上に光るランプと、徐々に上がっていく階数の数字を交互に見ていた。

自宅に入ると、天窓から月光が射し込んでいた。

並べたグラスに、ワインを注ぐ。
一口飲むと女はこのグラスのように繊細な声をそっと零した。

あの男とのことを聞いてみるが、女は顔をそらして目を伏せてしまった。まぁいいだろう。


ボトルがほとんど空いた頃、彼女の肩に手をかけた。
少しだけビクッと反応を示したが、すぐにその身を寄せてくる。そして、また夜の海へ漕ぎ出した。

何度身体を交わしたか分からない。なぜ身体と心を競わせるのだろう。
まるでずっと寄り添ってきた悲しみを抱いているかのようだ。


横で眠る女を横目にベッドを抜け出した。
メモ帳から1枚抜き、愛用の万年筆で書き置きをした。

昼間とはまるで違う表情を見せる窓の景色。夜になってしまえば、ただ果てしない闇が広がっている。果てしない黒は、すべてを塗りつぶす。

そんな夜を登る太陽が静寂を焼き尽くす。

今朝は清々しいほど晴れて海がよく見える。この景色を求めて、彼はこの街を選んだのだ。

磨きあげた車に朝陽が写る。

あの別所という男はどうなったのだろうか。そう思いを巡らせながら、ゆっくりと左に下る坂道を曲がる。





話は少し前に戻る。


彼女はひとり天窓を見ていた。

夜中に目が覚めた時に見えた天窓の外の星。あんなに綺麗に輝いていても、私のところには届かない。

いっそ、水槽に水を張って水面に星や月を写せば手が届くのだろうか。いや、まさかそんなことはない、と小さくかぶりを降った。


朝になり目を覚ますと、あの人はもういなかった。

あの人のものであった身体が、ほんの少し震えていた。
ただ都合のいい女、それが私なのだろうか。


私はあの男を思い出す。私は" ルール"を破った。
あの時、彼が出ていくのを引き留めようとしてしまった。理由は自分でも分からない。けれど彼を止めなければ二度と戻ってこない、そんな気がしたのだ。しかし彼は出ていってしまった。いつもと違う、険しい顔で。


私の感情は飴のように溶けてしまった。しかし、こうして朝になるたびに、また形となって現れる。


彼はきっとここへは帰って来ないだろう。

この、横浜の街に。

女はタバコにそっと火を点けた。

このタバコが真っ白な灰になったら、ここを出よう。

私のことを誰もリリーと呼ばない街へ、そう誓って。



【関連記事】
【ショートストーリー】株式会社ポルノグラフィティ新入社員の岡野くん
Part time love affair歌詞解釈〜パートタイムの恋人



















このエントリーをはてなブックマークに追加
 

2016年12月11日日曜日

【映画】「この世界の片隅に」あらすじ&ネタバレ感想






映画「この世界の片隅に」を観てきた。

2016年の終盤に、とんでもない作品がきたものだ。

方々でも云われている通り「2016年のベストムービー、オールタイムベストに入るレベルの作品」である。

いや、日本映画史上に残るべき作品だと思う。

そんな映画がこれくらいの公開館数というのは、ちょっと残念でならない。

見終わったあと、こんなに心に色々なものを遺していく作品は、本当に久しぶりだ。
自分の中では「トイ・ストーリー3」以来かもしれない。

そんな胸に込み上げてきたものを簡単に言葉にできるほど、単純な話では決してない。でも、この作品が1人でも多くの人に届けばいいと思い、クラウド・ファンディングにも参加してない僕は筆を取ることにしよう。

この手の映画は場面場面を思い出す度に涙腺がやられオーオーと泣いてしまうので、感想はなかなか進まないものである。


あらすじ




1944年広島。18歳のすずは、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。やがて戦争は激しくなり、日本海軍の要となっている呉はアメリカ軍によるすさまじい空襲にさらされ、数多くの軍艦が燃え上がり、町並みも破壊されていく。そんな状況でも懸命に生きていくすずだったが、ついに1945年8月を迎える。


監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社)
音楽:コトリンゴ
アニメーション制作:MAPPA

声の出演:
のん
細谷佳正
稲葉菜月
尾身美詞
小野大輔
潘めぐみ
岩井七世
澁谷天外
配給:東京テアトル







感想(ネタバレ含む)




ここから先はネタバレを含む。

と書いたが、この映画で起こる1945年8月6日に広島で起きる悲劇は、観る人のほぼ全員が知っていることである。

だからこそ、主人公すずが歩んでいく人生、出てくる日付が同時にカウントダウンでもある。

この作品は戦争の時代を描いたものではあるけど、戦争の悲惨さや反戦メッセージを訴えかけているだけの映画ではない。

この映画は"その瞬間にその土地で生きている人々"が描かれているのだ。だからこそ、空襲の中でも、防空壕の中でも時折クスッと笑ってしまうようなシーンが随所に挟まれる。

だからこそ「みんなで笑って暮らせたらええ」という台詞が上っ面の綺麗事に聞こえないのだ。
ちなみに、そうした笑いが入るのは原作が週刊連載だったためである。そのオチの要素がそのまま映画でも受け継がれている。

1人の少女の目を通した戦争下の日本の当たり前の日常とすずの成長を描いた作品だ。

その上で、映画に感情移入するとこは、主人公すずがいかに魅力的で感情移入してしまうようなキャラクターかにかかってると思う。

それを踏まえて映画を観ると、最初の海苔を届けるために、舟に乗っているすずの一連のシーンだけで、観る人全員がこのすずという女の子の可愛らしさに魅了され、この子を応援したくなることだろう。

普段はおっとりして、ちょっと天然なすずだからこそ、終戦の日に怒りを露にし、畑で泣くすずの姿に胸を打たれるのだ。





キャラクターとしては原作漫画でもしっかり描かれているけど、映画化において、それをさらに推進させているのが、主人公すずの声を演じたのんの力によるものだ。



のんの声優



僕はアニメ作品には疎いので声の演技というものは、比較できないけれど、この作品におけるのん(能年玲奈)の演技は最高である。

この作品はすずの声がのんでなかったら、決してこれほどのアニメ作品とならなかったと断言できる。健気さの中に儚さがある声で、時代ごとや出来事によるすずの声の変化も素晴らしいものだった。

何より声の温度が良いと思って、すずというキャラクターに文字通り"命を吹き込んだ"のだ。

広島出身じゃないのに広島弁上手い。個人的にだけど、ポルノファンだけあって、広島弁の日常会話はわりと分かったので嬉しい。

ある女の子の目を通して時代に移り変わりを描いていくというのは、まさに朝ドラではないか。というところものんの配役がさらにぴたりと当てはまっているように思えてしまうのだ。


原作との相違点



僕もご多分に漏れず、映画を観たその足で原作を購入した。

上中下巻を読んだけど、そこで思ったのは、原作の映像化という面でも、ほぼこれ以上ないと言っていいほど原作への愛を感じる映画である。

原作だけにあるシーンもあって、それもまた素晴らしい。
特に中巻の最後の白木リンの

「人が死んだら記憶も消えて無うなる」
「秘密はなかったことになる」
「それはゼイタクな事かも知れんよ。」

この言葉を原作では終盤ですずが回想していたりする。

さらに、ここで出てくる茶碗の話がすずの最後の「笑顔の器になる」(原作では「記憶の器」)という言葉に繋がってるんだろうと思う。

夫である周作もリンの関係も描かれており、リンというキャラクターがさらに深くなる。




また、すずと周作の間に子どもができないことへの2人の関係も描かれている。

細かな時代背景などもあるので、じっくり原作読んでから映画を観るとまた新しい発見があるだろう。



その他細かな覚書



ここからはいくつか箇条書きで。


・選ばなかった道

すずと周作が橋の上で語り合うシーン。周作は選ばなかった道は覚めてしまった夢のようなものであると

そこでは哲にまつわる話を示すように思うが、この言葉はさらに先で時限爆弾により晴美を失ったのシーンにまで繋がっていくのは気付いた時にまた泣いた。
晴美がもしも左側にいたら、あそこに逃げていればなど「たられば」を巡らせるすずだけど、それは周作が語っていた選ばなかった道なのだ。

この「たられば」を抱えながらすずは生きていく。

この「選択」の話は以前歌詞の解釈の時にも書いたが「選ばなかった道がどうなるか知る由はない。だからこそ、選んだ道をしっかり進みその道を正解にするしかない」という言葉を思い出した。


・姉・径子を巡る話

すずの義理の姉にあたる径子のストーリーが特に心を抉られる。




夫の死後実家に娘の晴美を連れて戻るが、晴美を時限爆弾で失ってしまう。

連れていたすずに辛くあたるシーンから胸が痛くなる。ある程度、その後すずを許して仲を再び呼び戻すシーンは来るなとは思っていた。予想はしてたけど、もちろん泣いた。

しかし、その後でひっそりと娘の名を呼びながら泣いている径子が映ると、感情抑えられるわけがないだろう。


・キャラクター

上ですずの魅力について書いたけど、この作品は他のキャラクターが誰も彼もが魅力的である。

おそらく原作が週刊連載でじっくりと各キャラクターを書き分けられていることが大きいのだと思う。

それにしてもすずをはじめ「ありゃー顔」がみんな可愛い。





・食事描写

書き上げるとキリがないくらい、食事の移り変わりや食事の描写が秀逸である。

この映画は空襲シーンこそあれど、その時にどんな戦況だったとかそういうのはあまり描かれない。それはあくまでも庶民であるすずの目線を通したからだ。

そのすずを通したこの時代を最も反映していたものが、食事である。





配給が減ってきたことや終戦後の白米、とにかく食べてるものを追っているだけでもそれがどういう状況下であったのかが分かるようにできている。


・音楽

これもあちこちで言われてるがコトリンゴさんの音楽が素晴らしすぎる。今ならサントラ聴いただけで涙出るレベル。

細かな演出だけど、すずが料理してて包丁とまな板でバイオリンのように構えて鍋に切ったはこべを入れていくシーンでバイオリンが流れたり、こういう細かな演出も上手いなぁと思った。





・客層

話には聞いていたが、とても年齢層が高かった。本当にリアルタイムで経験したような人たちもいたくらいだった。

横にいたおばあちゃんが時折身体を前のめりにして見入っていたのが印象的だった。


・最後の最後の演出

この映画は絶対エンドロールの最後の最後まで観るべき作品である。

クラウド・ファンディングの賛同者の名前が流れたあと、最後に流れる"ある手の演出"で、僕はまた泣いてしまった。



もうね。この映画、良いところかありすぎてどこから褒めればいいのか分からなくなる。

とにかく、こんな素晴らしい作品が今劇場で見られるんだから、とにかく1人でも多くの人に観て欲しい。


町山さんと宇多丸師匠の解説がとてもタメになるので、観た後に是非聴いてください。

























このエントリーをはてなブックマークに追加