映画「シン・ゴジラ」について、総監督である庵野秀明と東宝の話が目に入った。
これである。
庵野監督のインタビューであるが、この中に日本の映画会社の悪い体質がとても表れていると感じた。
早い話が映画会社のお偉いさんの考えがもう通用しないということだ。
しかしながら、それが未だに横行していて映画が制作されているという現実に対する嘆きである。
1つずつ紐解いて行こう。
感動路線問題
記事を見ていくとこんな言葉がある。
ゼロ稿には方向性のズレというか。東宝プロデューサー陣の各種要望を足していった結果、僕が最初にやりたかった映画とは全く違うものになっている事を強く実感しました。打ち合わせの度に東宝側の要望が入り、その都度本来の方向からズレていっていた感じです
ここで云う「ゼロ稿」とは脚本家の書いたものである。
もう少し具体的にその要望を見ていこう。
主人公らのバックボーンや再度ストーリーなどのいわゆる感情ドラマ部分が増えてウェットな印象に変わっていました。ちょっとこの違和感を言葉にするのは難しいですね。
なぜ日本のお偉いさんは感動路線を入れないと売れないと思っているのだろうか。
ちょっと話が変わるけど、僕は日テレのスポーツ実況が嫌いなんですね。野球は見ないから、サッカーをやった時とか、オリンピックとか駅伝くらいだけど。
サッカーでいうと、今まさに試合をしているのに実況が「この選手は○○で〜」とか急に選手のバックボーンの資料読み出すんだよ。
一応所属チームのこととかは、まぁ無いけど一応いいとしても、急に両親の話題とか言い出す。そして、なんかその選手に思い入れを持たせようとか、あわよくば感動路線に持ってこうとするんすよ。
いや、実況せえと。サッカーなんて、秒ごとに展開変わってくんだから。
これも同じだよね。
感動の押し売りなんだよね。
映画も実況も上の人がこういう考えだから「客や視聴者は感動路線で作れば自然と感動するし動員が伸びる」となるのだ。
別に感動するような展開に悪いことはないよ。しかし一番の問題は「感動路線を入れることによって本筋を潰す」ことである。
分かりやすい例でいうと映画「LIMIT OF LOVE 海猿」で今まさに沈み行く船の中から伊藤英明が延々とプロポーズするシーンである。なぜこのシーンで感動になるのか僕には終ぞ分からない、むしろそんなこと言ってる間に船沈んで死ぬぞ。脱出劇におけるタイムリミットサスペンスとはなんなのか。
というように感動路線にしたいあまり、ストーリーの脈絡がなくなってしまうのだ。
バックボーン問題
さて、インタビュー記事でもう1つ問題となるのが、主人公たちのバックボーン問題である。
「シン・ゴジラ」では登場人物のバックボーンはほぼ描かれない。そこにプロデューサーが一言もの申したくなったのだろう。確かにプロデューサーの言いたいことは分かる。それはバックボーンをしっかり描くことで主人公たちに感情移入をさせやすくなるからだ。
しかし裏を返せばこうとも取れる「お前ら話の筋だけ追ってても登場人物のバックボーン読み取れないだろ。ちゃんと丁寧に説明してやるよ」
要は説明しないと分からないだろとバカにされているのだ。
では「シン・ゴジラ」ではどうだっただろうか。
こう言っては元も子もないが、そもそもこの作品において人間たちのバックボーンなどどうでもいい。つまり「ゴジラに翻弄される人々」という本筋以上のものは求めてないのだ。
誤解のないように断っておくが「シン・ゴジラ」ではストーリーを追いながらもしっかり登場人物たちの人間性がちゃんと描かれていて、説明しなくても過不足があるというわけではない。断片からしっかり観客が読み取って想像できるようにできている。そこが素晴らしい点というわけで。それは先のインタビューの後半にも書かれている。
万が一そこにさらにバックボーンを入れていたら、映画のテンポを壊滅的にしていただろう。
配給会社からしたら超大作として作られる作品はそれなりの興行をしなければいけないことは分かるが、そのための興行アップの理論付けが感動路線というのは、もう止めようよ。
というか配給会社に従い大コケして酷評された「進撃の巨人」はなんなんだ。
[追記]
と思っていて、タマフルの春日太一さんの言葉を思い出した。
東宝側の反省もあって、今回は庵野指揮に逆らいきれなかったのもあるのかなと思った。
まとめ
感動路線問題とバックボーン問題どちらも同じ結論に至る。
映画業界の出資者が「良い作品よりも儲かる作品」を作りたいと思っているということだ。
とりあえずこんな感じで作っときゃ客入って感動するっしょ?みたいな思想が透けている。
最近の作品でいえばまさにこの「シン・ゴジラ」もそうだし、「この世界の片隅に」もそうであるが素晴らしい作品にはしっかりとした評価が与えられて口コミなどでしっかり動員にも繋がっている。
何より「後世に語り継がれてくであろう大傑作」になっているじゃないか。
<この世界の片隅に>興収10億円、動員75万人突破 勢い止まらず
そんな作り手の想いが溢れ出るような作品を、僕は見たい。
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