2019年9月25日水曜日

ポルノグラフィティの生存戦略 描く未来図としての海外進出








少し前のカフェイン11で「これからのポルノグラフィティ」という話があった。

その話があまりに興味深く、ファンとしてスルーできないようなものだったので、ここにその記録を書いておきたい。
一部、ポルノ展の「聴く年表」コーナーの話に触れる部分があるので、そこまでがっつりとしたネタバレではないが、地方で見る予定で真っさらな気持ちで見たいという方はご注意を。


ポルノグラフィティの生存戦略







世界基準




まず、カフェイン11の内容について。

この放送は2019年9月9日にされたもの。つまりは東京ドーム翌日だが、収録は東京ドーム前のものだ。

話は今後のポルノグラフィティについてである。

現マネージャーとの話の中で新藤晴一は「海外も視野に入れていかなくてはいけない」という旨の言葉を述べた。

その中で特に語気を強めたのが、海外を視野に入れることが「挑戦」ではなく、ポルノグラフィティが今後生き残っていくために必要な手段、すなわちは「死活問題」だというのだ。

日本のアーティストとして、ある程度には順風満帆である。東京ドーム2daysはソールドアウトするほどである。
収録時の新藤晴一はまだ東京ドームが大成功をおさめることを知らない。もちろん成功を信じてはいるだろうが、まだ東京ドームでさえ終わっていない時に、その言葉には「危機感」を感じた。

「危機感」という言葉が正しいかはわからない。しかし、「このままではいけない」という想いが何よりも強く感じられた。

東京ドーム2日前、僕らはどんな心境でいただろうか。東京ドームで何が起きるか、そればかりに夢中になっていた。無論、結果的にはなかったが、そこで何か"次"が発表になるのではという意識はあったにせよ、能天気な僕のようなファンがそう思っていた時に、この男はそれを考えていたのである。


言うまでもないが、それは東京ドームを疎かにしている訳ではない。東京ドームへの万全なる準備の上で、そこまで見据えていたのだ。

それは「しまなみロマンスポルノ」が中止になったことに僕らファンがあれこれやってた中で、もう未来を向いていた姿とも被る。

なぜ海外に目を向けなければならないか、それにはいくつか理由があったが、そのひとつが興味深い。


「日本でやれることは大体やった」


それは「全て」ということではない。
日本でもやっていないことはまだある。それを踏まえても「それだけでは足りない」という意識を抱いているのだ。

ひと昔には、たとえばONE OK ROCKが海外に進出していた時期には、こんな言葉を言っていたように思う。


「自分たちの時には海外を目指すなんて考えもしなかったけど、彼らはそれを目指して挑戦している」


この言葉がまだ胸のどこかにあったからこそ、先の言葉に驚かされた。後輩たちへ向けられていた言葉が、今この時に自分たちのものへと変わっている。

それでも、この時でさえ「挑戦」と言っていたと思う。











ポルノグラフィティと海外




ポルノグラフィティが海外でライヴを行ったのは2013年。ロサンゼルスのライヴハウスで初めて海外のライヴを行った。同年には韓国と台湾のフェスに出演している。

そこでの思い出をポルノ展で語っていた。

特に印象的だったのは韓国のフェスでの体験。
途中で野外で花火が上がったりしたこともあったりで、途中で抜けていく人たちが多かったと溢した。

日本ではある程度の知名度で名前が知れているけれど、そうでない場所で、客たちの足を止められなかった自分たちをとても悔いているように感じた。たとえば、ROCK IN JAPAN FESで6万人の観客を前にした。それでも「ポルノグラフィティ」というネームバリューのもとに人が集まっていた部分もある。

日本で知れ渡っているヒット曲たちさえ、海外ではまだそうではない。それに対して悔やむ気持ちもあったと思う。けれど、その体験がポルノグラフィティにとって、大きな経験ともなったのではないか。

それを思うと、特にここ数年の新藤晴一の曲にある思いが浮かんだ。

"ANGRY BIRD"
"Part time love affair"
"カメレオン・レンズ"
"MICROWAVE"

どれも初めて聞いた時に、かなり驚かされた楽曲たちだ。

打ち込みを多用したアレンジであり、かなり現代のヒット曲のようなアプローチが為されている。アレンジャーの力でもあるが、それは新藤晴一が思い描く楽曲のイメージを叶えているものが反映されているはずだ。

メロディは日本的だが、リズムに関しては特にダヴだったり、R&Bだったりビートを効かせたクラブミュージックのアプローチがかなり色濃く出ている。EDMのアレンジにしても、ひと昔前のものより、どちらかというとダウナーな曲調で用いている。

わかりやすい例だと"カメレオン・レンズ"のイントロとかはEd Sheeran(エド・シーラン)の"Shape Of You"をかなり意識しているように聴こえる。

それらをポルノグラフィティなりのポップソングに落とし込んでいるような印象だ。







一方、岡野昭仁も、たとえば"海月"でEDMテイストのアレンジをしている。

だが、その辺りに関しては特に新藤晴一の方が意図的に狙っている感が強いような気がする。その分、岡野昭仁がA面を支える強烈なメロディの曲たちを創っていっているというのが面白い。

だからこそ「RHINOCEROS」以降、その両者の特徴が顕著になり、その絶妙な2人のバランスが。更に世界を広げたのだ。

思えば少し前に新藤晴一が「研修」と称してニューヨークでミュージカルを見るなどしていたことも繋がってくる。


しかしながら世界に対してどんなアプローチができるか、世界のトレンドを取り入れた時に、どれだけ自分たちのものにできるか、という問題に直面するという意味でもある。



ポルノグラフィティが海外に挑むには




日本の音楽は西洋の文化を取り入れながら、独自の感性を入れることで築いてきた。特にロックとは、海外の模倣から始まった。

しかしながら、今の若いバンドマンたちは、今や邦楽と洋楽の垣根などない。自由に音楽を楽しみ、自由に音楽を創っている。

YouTube、iTunes、Spotify、或いはフェス体験、今や音楽に世界の垣根はない。だからこそ、オリジナリティをどこに見い出すか、それが鍵となる。

日本より海外で評価されているタイプのミュージシャンは、日本だけでなく海外を見ても独自のサウンドで世界観を築いている。

ポルノグラフィティは洋楽のバンドたちに憧れを抱きながらも、その世界観を築いている要素として、歌詞の魅力が大きいことが否めない。

たとえば僕は"カメレオン・レンズ"を圧倒的に評価しているが、それはあの曲調と歌詞があってこそだ。もちろん篤志によるアレンジは超一流だし、メロディも良い、けれど曲だけで世界を圧倒できるだろうか。それは難しいと思う。

世界とは、それほど壁が高く厚いのだ。

欧米に寄せるほど、歌詞の行間には意味が置かれない。
それは全くという訳ではない。しかし、ポルノグラフィティは英訳できない、日本語だからこそ深い世界になる歌詞が魅力なのだ。

そこに、どう切り込むのだろうか。

それでも、2013年の挑戦で得たのは、韓国の悔しさだけではない。

ロサンゼルスという舞台で、ライヴを成し遂げたのだ。それはアニメファンが中心だったからかもしれない。けれど、そういう人たちだからこそ、偏見なくちゃんと受け止めてくれる。

世界は、広いのだ。


そして、一番忘れてはいけないこと。それは海外に行くことがポルノグラフィティにとってのある種の「生存戦略」であるとした理由、それは。

海外での経験を積んで、また日本で新しいポルノグラフィティを見せるため。

新藤晴一という男は、そこまで見据えている。

本間昭光の言う「ポルノグラフィティを甘やかしてはいけない」。しかしファンが思う以上に、ポルノグラフィティは甘えなど抱いていない。

ポルノグラフィティは20年走り続けたのだ、メジャーという舞台で。それが如何に楽ではないか、彼らが一番わかっている。

だからこそ、新藤晴一は「BUTTERFLY EFFECT」ツアーで言ったではないか。
ライヴレポでも引用したが、また引用したい。



こうして18年やってきて、18年までくれば、じゃあ20年って軽く考えてしまう。でも200m走の最後の20mを足がもつれつつ走って、なんとかゴールではいけないのよ。
デビューしたころは、そこは可能性の大地で、どこを見ても可能性しかなかった。そこからいくつかを選んでここまでこれた。でも「もうやれることないんじゃないか?」と思ってしまうこともあって。でもさっきの新曲の"カメレオン・レンズ"みたいに新機軸になるような曲を、自分たちで探していかなければいけないし、長いツアーだけど1本1本可能性を見つけていきたい



1年は当たり前には過ぎてくれない。
それを積み重ねていかなければ、25周年も30周年もやってこない。

だからこそ、東京ドームを前にした段階でそれを語る新藤晴一に、僕はやっぱりこの人には勝てないなと思ってしまうのである。



【ライヴレポ】ポルノグラフィティ “NIPPONロマンス ポルノ'19~神vs神~” Day.1
【ライヴレポ】ポルノグラフィティ “NIPPONロマンス ポルノ'19~神vs神~” Day.2


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2 件のコメント:

  1. アミューズの中で今メインのミュージシャンとなると
    (大御所サザン&福山さんは別にして)
    Perfume、BABYMETAL、ワンオク、高橋優、
    そしてポルノになるのでしょうか(順不同)。
    やはり日本語の歌詞による世界観が強いこともあるし
    時代とか世代的なこともあるのでしょうが、
    どうしても経験長いとまず国内から、になりますね。
    というより、先に海外へ飛び出してしまったワンオク、BABYMETALが
    日本のガラパゴスな音楽ビジネスからいえば異端だったのでしょうが。
    Perfumeもサウンドとダンスで魅せられるから
    海外へ撃って出たといえなくもない。
    そう思うと色々な意味でも
    ポルノグラフィティがここから海外へ、というのは
    やはり大きな挑戦であることは確かですね。  NAONYA/なおにゃ

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    1. コメントありがとうございます。
      ポルノは90年代ギリギリですが、その世代にとってYouTubeが当たり前の世代との世界への認識の壁は大きいかと思います。
      ポルノグラフィティとしてどんな戦略でいるか、その先にどんな姿になっているか、それを楽しみにしていきたいと思います。

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