先日"ヒトリノ夜"を聴いていて、そういえばこの曲の視点は不思議だなと思うことがあった。
今まで普通に聴いていただけに、その引っ掛かりについて考えるほど、深みにハマってしまった。
答えが出るかわからないが、書きながら考えていきたい。
ポルノグラフィティ "ヒトリノ夜"歌詞解釈
100万人のために歌われたラブソング
100万人のために唄われたラブソングに
僕はカンタンに想いを重ねたりはしない
「恋セヨ」と責める この街の基本構造は
イージーラブ!イージーカム!イージーゴー!
出だしからして、強烈なパンチラインだ。
しかしながら皮肉混じりの言葉は、裏返しの強がりでもある。「恋セヨ」というメッセージが街には溢れている。それを振り払うように、吐き捨てるような言葉を放つ。
それは、恋そのものではない。街に溢れる「イージー(お手軽)」な恋愛に対しての嫌悪なのである。なぜなら、主人公は忘れたいほどに忘れたくない人がいる。だからこそ、お手軽な恋愛を求める街に嫌気がさしている。
そう考えると「ヒトリノ夜」のシングルのカップリングが"ジレンマ"なことが興味深い。まさにイージーそのものな「お手軽なの」を望む2人。しかし、曲が進むうちに主人公の心情が変わっていってしまう。これは以前記事にしたので、是非読んでいただければと思う。
Hi!Everybody!街に行ったかい?インチキ恋愛ゲーム
そうカンぐりたくもなるんだ
甘く見んなよ永遠のテーマを
これは"Century Lovers"の歌詞だが、"Century Lovers"は元々2ndシングルになる可能性があった。モーニング娘。の"LOVEマシーン"の「Fu-Fu-」とかぶってしまうのでシングル化が見送られたという話もある。
そんな"Century Lovers"にもこんなフレーズが登場するし、言ってしまえば"アポロ"もあのような歌詞になっていたのも、新藤晴一にとって、「咬まさなければならない」という意志がとても強かったのだと思う。
だからロンリ・ロンリー 切なくて壊れそうな夜にさえ
ロンリ・ロンリー 君だけはオリジナルラブを貫いて
あの人だけ心の性感帯
忘れたいね…
今回、記事にしたいと思ったのがこのフレーズのせいだった。
実は今までそこまで意識していなかったのだけど、「君」と「あの人」は同じなのだろうか。
漠然とだけど「君」と「あの人」は同じ人をさしていると思っていた。
けど、もし違ったとしたら。
2番では、自分の想いより君に対してのことが歌われる。
「君」は携帯電話で繋がることへ抵抗はないが、主人公は「それで充分かい?」と問う。
このどこまでも届くクリアな音の携帯は"アポロ"の「アポロ100号はどこまで行けるんだろう」とも通じる。どれだけテクノロジーが進歩しても、人が恋や愛に翻弄されるのは、いつの世も変わらない。
どんな綺麗な通話音も、向かいあった笑顔には敵わない。だからこそ、笑顔をいつでも浮かべられるように。
ここで取り沙汰される「ケータイ」は1番の「イージーラブ!イージーカム!イージーゴー!」と対になっていて、「お手軽」に人と繋がれる手段である。
それによって対比されるのが、「カンタン」には繋がれなかった「あの人」を思い出してしまうのではないかとさえ、勘ぐってしまう。
君とあの人
かのように2番の歌詞をどう捉えるか実は今も迷っていて、取りようによってはどうとでも取れる。
本間昭光作詞版のインディーズバージョンは、比較的明確に、主人公の男の孤独が描かれる。2番の歌詞を比べてみよう。
だからベイビー・ベイビー抱きしめたい Come back to you連れ去って
ベイビー・ベイビーもう一度 僕の事だけを見つめてくれ
ロンリー・ロンリー苦しくて Come back to me 叫びたい
ロンリー・ロンリー悲しくて君の事まだ求めてる
これを踏まえ、シングルリリース版を見てみる。
だからロンリ・ロンリー甘い甘い メロディに酔わされて
ロンリ・ロンリー口ずさむ痛みのない洒落たストーリー
ロンリ・ロンリー精一杯 強がってる君のこと
あっけなく無視をして涙は頬に流れてた
思い出だけ心の性感帯
感じちゃうね…
主人公は自分の孤独ではなく、まだいた頃の君を思う。
君が口ずさむのは「甘いストーリー」。それはきっと100万人のために歌われたラブソング。
僕が想いを重ねることはない、甘いメロディ、甘い言葉を君は口ずさむ。
主人公との対比が2人を運命を決定的に分かちてしまうことを象徴する。
全てがあべこべで、全てが裏腹となる。
最後にそんなに甘いラブソングを最後まで引きずってしまったのは、主人公の方だった。100万人のために歌われたラブソングが自分のものとなったとき、失意と孤独は押し寄せる。
それは想いと裏腹に流れる涙のように。
浮かべるのは今どこかにいる君ではなくて、かつて確かにそこにいた君。この歌詞アレンジによって、切なさは確実に何倍にもなっている。
想像の余地と余白がかなりあるので、隙間はどうとでも埋められてしまう。たとえばそれは、友達のまたその友達がツイートした風の便りかもしれない。
涙の先に歩みだしたあの人と、思い出にすがり一人なく僕。ツヨクヨワイ心、それは強がりの心。
最後の英語の歌詞。
それは歌詞カードには表記されていないフレーズ。
Nobody knows what means love song.
Do you know how love song goes on.
誰もラブソングの意味はわかっちゃいない
ラブソングがなんで終わらないから知ってるかい
意訳ではあるが、上で書いたように、いつの世もラブソングが時代を彩ってきたこと、それは人の愛に終わりはないからだ。
主人公は思っていたのだ、100万人に聴かれたラブソングよりも特別な恋に落ちているのだと。しかし、最後に気づかされる。100万人に聴かれた歌は100万人分の想いが重ねられていると。
ポップミュージックとは。ポピュラーとは、そういうことなのだ。
ポピュラーとは「ありふれた」という意味にも取れる。しかし、それは人が「何度も繰り返してしまう過ち」の裏返しでもある。
逆説的なようだが「売れようと思って作られた曲」は「売れる曲」ではない。
それだけ多くの人が想いを重ねて”しまう”曲こそが、より多くの人を動かすのである。
人は誰しもが特別であり、特別ではない。誰もが個性的だと思っていても、それは別の誰かの個性でもある。
究極的に人は個性的になれることは、そうない。音楽に限らずその一線を超えた人たちに、僕らは想いを重ねてしまうのだから。
それでも主人公が重ねた想いとは、真に曲と向き合った想いであり。決して「カンタン」に重ねた想いではない。
「自分のために歌ってくれている」そう思えた瞬間に、ポピュラーは自分にとってのスペシャルとなる。
食らいついたラブソングは、噛み殺した涙を呼び起こした。
全てを噛みしめた。
孤独な夜が過ぎてゆく。
そんな夜にこそ、特別な「自分のため」が流れている。
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