曲の存在そのものがミステリ。
そんな歌詞を持つのがポルノグラフィティの"ミステーロ"だ。
この曲メッセージ性よりも、情景描写を描くことを目的としている。
だからこそ、見方によって様々な装いに変化する楽曲だ。
人によってその解釈も多様であり、今回僕の書くものはその一つに過ぎないということを念頭に置いていただきたい。
というか、そんなこと言ったら今までも全部そうだけど。
ポルノグラフィティ
”ミステーロ"歌詞解釈
ありのままの真実
歌詞について、最も解釈を難儀にさせている「あなた」という存在。まさに、追いかけてはすり抜けてく 浅い夢のような存在として、雲のように掴めない人物像だ。
まずは、結論として自分なりに思い描いた「あなた」を定義づけたい。
僕が思う「あなた」とは、亡くなってこの世を去った人物ではないかと思う。
「となりのトトロ」でさつきとメイは実は死んでましたという都市伝説とはちょっと違って、以下はその理由について、歌詞を追ったり追わなかったりしながら書いていきたい。
黒いベール 巡礼の列 欠けた月と砂漠の都
追いかけてはすり抜けてく 浅い夢のような あなたは Mistero
前にどこかで書いた気がするが、ギュスターヴ・クールベの絵画『オルナンの埋葬』がとても好きである。
そして"ミステーロ"の冒頭を聴くと、いつもこの絵画のような光景が思い浮かぶ。
「巡礼の列」というだけでも解釈の余地は様々なのだが、僕は上記の理由により葬儀の列という想像を膨らませた。
この絵が好きな理由は、写実主義の性質だ。
徹底したリアリズム、写実主義は人が見てみぬ振りをしている真実さえ捉えてしまうということにある。
多くの人が葬式、埋葬のシーンを描きなさいと言われたら、悲しむ人の顔ばかりを描くことだろう。しかし、現実にはそこで笑顔に近い顔を浮かべている人だっている。けれど人は「あるべき姿」として現実さえ歪めてしまう。
これで何かを思い出さないだろうか。
ありのままの真実など 誰も見ていやしない
色を変えたり 歪めたり カメレオン・レンズみたいに
~"カメレオン・レンズ"
そう"カメレオン・レンズ"だ。
人は精神的な心象風景を現実に投影して世界を見ている(ついでに言えば「欠けた月」は満ち欠けもあるが、月蝕の夜という想像もできる)
僕はポルノグラフィティの2人は、多かれ少なかれリアリストの要素を持っていると思っている。とりわけ、新藤晴一という人は、作家性としてそういう面が強く出ていると。
"ミステーロ"の主人公も、クールベのようなリアリストとして「あなた」を見つめているのだと思う。しかし、だからこそ「あなた」の存在がいつまでも掴めないのだ。
なぜなら、「あなた」は主人公とは違った目線で世界を見ているからだ。
まるで、写実主義に対しての印象派のように。
"ミステーロ"について、触れなければならない大切な要素がもうひとつある。それは、新藤晴一が「劇場版 名探偵コナン 業火の向日葵」に向けて制作した楽曲ということだ。
既知の通り、結果的には岡野昭仁が作曲した"オー!リバル"が採用され、"ミステーロ"の元となった曲はボツとなるはずだった。
それが巡りめぐって楽曲として形になり、アルバムに収録されたという経緯だ。
映画はフィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホの「ひまわり」がテーマのアートミステリだ。正直、ミステリとしてはストーリーが色々と……(連載開始からのコナン好きたちにも確認しても「ストーリーはまあ……」という満場一致した)。なので、クールベの『オルナンの埋葬』を思い浮かべたのは、そういう側面もある。
ゴッホは初期こそ農民の姿を描いた作品が多いが、後期は一般的に「ゴッホ」といって思い浮かべるような、新印象派の影響で大胆で明るい色彩をつかった絵画を残していく。これはクールベの写実主義とは全く方向性が異なるように見えるが、実は「私には世界はこう見える」というのが、印象派の作家たちに見えている世界だ。
つまり、世界というものは、視点によっていくらでも姿を変えてしまうのだ。
「あなた」という存在
不意に陰る茜色の瞳 理由などはないわと言うけれど
ドアを叩き時を告げるベルマン ほんの少し戸惑ったのはなぜ?
神話の中に捨てた首飾りまで 不吉なカナリアに奪い去られた
その心が疲れたなら体を脱ぎ捨てればいい
この世界の傷口から吹きつける風に 投げたらMistero
"ミステーロ"の「あなた」は、「理由などはないわ」という(かといって女性が「理由なんてない」といっても、大抵は心に理由を秘めているものだ)
「神話の中に捨てた首飾り」や「不吉なカナリア」などは不穏な心を描くための象徴としてであり、それ自体に特に意味は持たせていないと思う。
あえて言えばカナリアは黄色であるという点がポイントになると思う。黄色は占いでも太陽の象徴だ。月は太陽によって姿を見ることができるが、地球が太陽と月の間に入ってしまうと、地球が影になり、月蝕が起きる。影(陰)というのは「不意に陰る茜色の瞳」もそれを想像させるフレーズだ。
そして月は女性の象徴とされている。
1番のサビについては、おそらく「あなた」から問い掛けに対しての主人公の葛藤や苦悩のようなものではないかと思う。
闇に映える白馬に魅入られて 道を照らすランプを落としてた
間違いだけで作る可憐なドレス 不実なLaceがきつく締め上げる
2番に入ると、「間違い」を描くシーンが続けて描かれる。
最初のフレーズはその瞬間に魅了され、歩んでいく先に必要な存在さえ見失ってしまったことのメタファだろう。
ただし、ここで「間違い」としているのはあくまでも、主人公の思う過ちであり、「あなた」がそれを過ちと思っているかはまた違う、という点を意識する必要があるだろう。おそらく、その齟齬こそが主人公がいつまでも「あなた」を掴めない存在にしている理由ではないだろうか。
「体」というものに対して、纏うドレスは美しいかもしれない。けれど「あなた」にとっては、それが身体を締め上げるものとなっているのだ。
ドレスということから、「あなた」がある程度の身分ある女性であると思われる。
ならば、ドレスというよりもドレスが意味持つ身分というものに窮屈さを感じているという可能性もある。
美しさと醜さ
確かなもの欲しいのなら あいにく
ここにはどうもないみたいさ バイバイバイ
花の色に意味があると信じているうちは まだ I miss you
その体が美しいほど醜い明日を愛せない
謎掛けではたどり着けず 言葉が死んでゆく サイレントMistero
確かなもの欲しいのなら あいにく
ここにはどうもないみたいさ バイバイバイ
というフレーズ。
どこへと去っていくのだろうか。
ここからは僕の想像の域だが、「あなた」は「若さ=美しさ」という呪いに魅せられ、美しさを保ったまま死にたいと願ったのではないだろうか。
「醜い明日」というフレーズは、昨日よりも1日老いてしまった自分と取れるからだ。そうした時に「ここにはない」というフレーズの「ここ」とは、現世(=老いていくだけのこの世)という意味に見える。
そんな想いの一方で、主人公は決してそう考えてはいない。
主人公はずっと、いつまでも「あなた」のことが美しいと思い続けていくはずだった。
だからこそ、いつまでも理解することができない、永遠の謎(Mistero)として心に抱き続けることとなってしまった。
どれだけの言葉を重ねて行っても、言葉が死んでゆく、あなたは永遠の沈黙の中に行ってしまったのだから。
最後に。
花の色に意味があると信じているうちは まだ I miss you
この花とはなんだろう。
新藤晴一が描いてきた世界観で、花が印象的なもの。
深紅のバラもワインも 色を失くし泣いてるの?
~"カメレオン・レンズ"
たとえば、先の"カメレオン・レンズ"では深紅のバラが登場する。
その花言葉には「情熱」「愛情」「美」というものがある。
或いは。
この季節咲き誇る白い花を摘んで
波の間にあずけよう
あなたに届けばいい
~”シスター"
以前"シスター"について書いた時に、この白い花は「白いユリ」ではないかと考察した。
その花言葉は「純潔」「威厳」「甘美」。そこからキリスト教では聖母マリアの象徴とされ、葬送儀礼で用いられる。
他にも人によって解釈はあると思うが、僕は後者のイメージがずっと頭にある。
では「花の色に意味があると信じているうち」とはなんだろう。
葬送儀礼で「穢れのないもの」として手向けられる花、その意味。
主人公だけにはわかっていたのではないか。
「あなた」が手向けられる花のような存在ではなかったことを。
身分の違いだったのかもしれない、或いはその世界では許されない恋だったのかもしれない(主人公が男性とは限らない)。
それでも主人公は「あなた」を深く知っていた、けれど本当の「あなた」を掴めずにいた。
花の色、それが持つ意味。その意味を信じること。
「あなた」が純潔な存在として見つめて"いたい”気持ち。
自分についた嘘を許すことも。
I miss you
まだあなたを想っていられる証なのだから。
✳︎
ここからは本当は中段くらいに載せていた文章だが、以下は2017年に実際に起きた事件に触れるため掲載を迷ったが、最後に注意書きの上、残すことにした。
ただし、現実に人が亡くなった事件で、どうしても辛い気持ちになってしまう人もいると思うので、読みたくないという方はここで止めていただきたい。
【追伸(閲覧注意)】
「醜い明日」というフレーズは、昨日よりも1日老いてしまった自分と取れるからだ。そうした時に「ここにはない」というフレーズの「ここ」とは、現世(=老いていくだけのこの世)という意味に見える。
それを思ったのは、数年前にあったニュースを思い出したからだ。2017年に女子中学生が校舎から飛び降りて亡くなるという事件があった。
遺書が遺されていて、自殺と判断された。その遺書の内容が話題となった。
「いじめや家族間のトラブルではない。楽しいままで終わりたい」
一時話題になっていたので覚えている人もいると思う。
学生の自殺の場合、多くがいじめだったり、家族の問題だったりに帰する。
けれど「楽しいままで終わりたい」という自殺の動機は、本人以外から見たら理解できないことだろう。
多くの人が「なぜ」と思うはずだ。僕自身、3年経って改めて考えてみたけど、やはり遺された人々の気持ちを思うと暗い気持ちになってしまう。当時は賛同の声すらあったんだけど、正直許されない行為だと思う。遺された者たちはそれでも生きていかなければならないのだから。
この「なぜ」という問いこそが、"ミステーロ"の主人公が抱くものと通ずるものがあるのではと思えて仕方ないのだ(もちろん現実にあった悲しい事件に重ねることには抵抗があるが)。
J-POPではえてして「明日=希望」と描きがちだけれど、人によっては、明日が希望に満ち溢れているとは限らない(それが他者から見れば理解できるかどうかは問えない)。
ただ、それによって自ら「死」という選択をする事は、僕は間違っていると言いたいし、信じていたい。
それだけ「その体が美しいほど醜い明日を愛せない」というフレーズは強い力を持った言葉だと思う。
「歳をとる」「老いる」ということについてネガティブな感情を持つ人も多いだろう。
そんな方へドイツ人の禅僧の言葉を載せる。ただ、抜粋なので、出来れば元記事を読んでいただきたい。
けれど、私は思います。本当は、カードの山などないのだと。カードの山が少しずつ低くなるのでも、少しずつ高くなるのでもなく、あるのは今日という1日だけ。神様か仏様かわからないけれども、目が覚めたら1枚のカードをもらう。そして、寝る前に「ありがとうございました」と言って返す。20歳も50歳も80歳もみんな同じです。
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