少年は砂漠の町に住んでいた。
その町を牛耳っていたのはある豪族だった。
金にものをいわせ、砂漠の町の水を支配していたのだ。彼に逆らうことはすなわち、生活から水を奪われるということだ。
上級職と下級職の格差は増すばかりで、下級の者の中には奴隷さながらの生活を送っている者もいた。
少年は愛する母親と2人で暮らしている。
日々生活するため少年は仕事をしていた。壊れた機械製品の修理である。給料は高くないし、雇い主の気性は荒いが、仕事は性に合っていた。
ある日、同じ年くらいの少年を町で見かけた。子どもの少ない町で、年の近い子どもを見かけるのは珍しい。だが声を掛けることはしなかった。
彼はしきりに辺りを警戒していて、そのただならぬ気配に気圧されたのだ。
遠目に見ていると彼は店の人間の目を盗み、さらには並んでいるパンを奪い、瞬く間に雑踏に消えてしまった。
1ヶ月ほどが過ぎた。
少年は再び彼を町で見かけた。
彼は先日とうって代わり、一心不乱に一点を見つめていた。
視線の先には男がいた。豪族の男だ。
横には、少女がいる。
男が"買った"少女ということは一目で明らかであった。
彼はその様子を空虚な目で見つめていた。少し肩を震わせているようにさえ見えた。
翌日、再び彼を見かけたとき、彼はパンではなく剣を抱えていた。
豪族の男の家へと続く坂道を、幼い身体に似合わぬ剣を引き摺り上っていた。
背中にはまるで業(カルマ)を背負っているかのようであった。
後日、町の人間が口々に話している噂を耳にした。
豪族の男が殺されたという。犯人はまだ見つかっていないらしい。
その事件の少し前に店から剣が盗まれていたことを知るのは店主と少年のみである。
少年はあの日を思い返す。
あの豪族に買われた少女はどうなってしまったのだろう、それを見つめていた少年はどこに消えてしまったのだろう。それを知る由は彼にはなかった。
欠けた月の下、参列者は町の人間たちが黒いベールを身に纏っていた。弔いの列であるはずだが、悲しむ声は聞こえてこない。
豪族の男はいなくなったが、不完全なこの世界を誰かが、描き足してくれるなんてことはない。
自分自身の力で生きていかなければいけないのだ。
ある日、店に客が訪れた。他の星から来た人間が店を訪れるのは珍しい。ローブを纏った男が2人と、美しい女性である。忍ぶようにしているが、一目見て少年は心惹かれた。
彼らは宇宙船が故障して交換用の部品を探しているという。
パーツを見繕ってやり、珍しい客人を家に招くことになった。間もなく砂嵐がやってくるのだ。
「私の名前はパドメ、君の名前は?」
美しい女性は少年に尋ねた。
少年はその瞳に照れ臭さを覚えながら、ポツリと答えた。
「僕の名前はアナキン。アナキン・スカイウォーカーさ」
☆ショートストーリー
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