2016年12月12日月曜日

【ショートストーリー】Part time love affair






人混みの中を泳ぐように車を走らせる。


夜を迎えた街にはイルミネーションが灯り、年の瀬の街を彩っている。磨きあげられた車のボディには、その光たちが反射し輝いていた。
だが、車の中から見える景色はどこか幼稚な幻にも見える。

助手席に座る女はどこか虚ろな目をして車窓を眺めている。
少し前にあの男に抱かれていたはずの身体をドアに寄りかからせながら。

あの男と彼女の関係を作ったのは、他でもない、この私なのだ。
時間、場所、行為、いくつかのルールを決めてあの男と彼女を会わせていたのだ。

彼女に対しての想いを知っているからこそ、叶わぬ夢を少しでも見せてやったのだ。
今夜、あの男は…



目的地に到着して、車を停めサイドブレーキをかける。
ノブに手を掛けようとした彼女を強引に引き寄せる。身を翻した拍子に女の背中がクラクションを鳴らした。

また口が嘘を零す前に、塞いだ唇。
女の嘘が残ったような舌先のざらたき、僕はそれに舌を絡ませた。

首筋に付いた傷が目に入った。
まるでタトゥーのような模様になったそれは、なるほどあの若造が私宛につけたものか。


エンジンを止め、君を車から連れ去り、エレベーターへ乗り込む。
女は右上に光るランプと、徐々に上がっていく階数の数字を交互に見ていた。

自宅に入ると、天窓から月光が射し込んでいた。

並べたグラスに、ワインを注ぐ。
一口飲むと女はこのグラスのように繊細な声をそっと零した。

あの男とのことを聞いてみるが、女は顔をそらして目を伏せてしまった。まぁいいだろう。



ボトルが空いた頃、彼女の肩に手をかけた。
少しだけビクッと反応を示したが、すぐにその身を寄せてくる。そして、また夜の海へ漕ぎ出した。

何度身体を交わしたか分からない。なぜ身体と心を競わせるのだろう。
まるでずっと寄り添ってきた悲しみを抱いているかのようだ。



横で眠る女を横目にベッドを抜け出した。
メモ帳を1枚破き、愛用の万年筆で書き置きを残した。

昼間とはまるで違う表情を見せる窓の景色。夜はただ果てしない闇が広がっている。

今朝は清々しいほど晴れて海がよく見える。この景色を求めて、彼はこの街を選んだのだ。

磨きあげた車に朝陽が写る。
あの別所という男はどうなったのだろうか。そう思いを巡らせながら、ゆっくりと下りカーブを曲がる。



話は少し前に戻る。

彼女はひとり天窓を見ていた。

夜中に目が覚めた時に見えた天窓の外の星。あんなに綺麗に輝いていても、私のところには届かない。
いっそ、水槽に水を張って水面に星や月を写せば手が届くのだろうか。いや、まさかそんなことはない、と小さくかぶりを降った。


朝になり目を覚ますと、あの人はもういなかった。

あの人のものであった、身体が少し震えていた。
ただ都合のいい女、それが私なのだろうか。



私はあの男を思い出す。私はルールを破った。
あの時、彼が出ていくのを引き留めようとしてしまった。理由は自分でも分からない。けれど彼を止めなければ二度と戻ってこない、そんな気がしたのだ。しかし彼は出ていってしまった。いつもと違う険しい顔で。


私の感情は飴のように溶けてしまった。しかし、こうして朝になるたびに、また形となって現れる。


彼はきっとここへは帰って来ないだろう。
この、横浜の街に。

リリー、と呼ばれた女はタバコにそっと火を点けた。

このタバコが真っ白な灰になったら、ここを出よう。私のことを誰もリリーと呼ばない街へ、そう誓って。



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