名曲である、と断言したい。
初見より更に味わい深くなっていき、聴き重ねるごとに身体の芯に迫ってゆく。
そんな楽曲”風波”を紐解きたい。
CD感想ともかぶるが、改めて曲についても書いておく。
曲について
作曲は岡野昭仁。
インタビューを読む限り、2024年の夏くらいからあった曲のようだ。よくこんな名曲秘めてスペインで暮らしてたな。
ポルノグラフィティのバラードは比率でいえばどうしても少なめになので、生まれたバラードが陽の目を見る機会が少ない。
だからこそ、こうして世に出る時には大切に愛でるように聴いてしまう。我ながら書いていて気持ち悪い。
作詞は新藤晴一で、編曲は近年のサポートキーボードでお馴染みの”みなちん”こと、皆川真人である。
ステージではお馴染みだが、ポルノグラフィティの編曲は初ということで意外である。ちなみにtasukuも編曲にな名前が並んでいるし、レコーディングも最近のステージメンバーが揃ってるので、年末お願いします!!!!
バラードということで鍵盤やストリングスの丁寧な積み重ねが、美しくも切ないメロディを引き立てる。
ちなみにストリングスは星野源などでもお馴染みの美央ストリングスなのでもう堪らない。美央さんのヴァイオリンとても好き。
ギターについてもイントロのリフ、ギターソロと自分のツボをこれでもかと圧してくる。
曲としてはCメロで一段とドラマティックな展開を迎える。こうしたバラードの醍醐味はここにあって、主人公の想いが強く重なって、とてもエモーショナルである。僕はこういう展開いになる曲がくるとお手上げ万々歳の無条件降伏である。
あとCメロ入るところで歌詞カードにはない「そう」って歌が頭にあるじゃないですか。あれあんですか、グッときすぎて心臓に悪い。誰の発案なのかわからないけど、あのアレンジを表彰するにはどうしたら良いですか。
そこからギターソロというのは定番ではありつつ、自分にとっては抗えない効力をもたらす。たぶん温泉とかにこういう効果が溶けていると思う。
全体亭にもBメロがないという構成がまた、ドラマティックでありながら重くなりすぎない絶妙なバランスを与えていると思う。
ファルセットを多用した歌声といい、実は今のポルノグラフィティだからこそ表現できている曲にもなっている。
さて、それでは本題の歌詞を見ていこう。
ラヴソング
ラヴソングを書きたいという新藤晴一の思いで生まれた歌詞である。
いや、もうアナタ100曲以上はラヴソング書いてるじゃないと思いながらも、それでも年を重ねて今の人生としての歌詞を書いておきたいのだろう。
切ないながらもどこか爽やかな味わいは、”空が青すぎて”、”クラウド”などに通ずる。
"クラウド"の時にも書いたけど、僕も歳をとり、こういう歌詞が本当に本当に沁みて仕方がない。僕の悔恨の感受性は高野豆腐である。そしてライヴで押されてブシャーっと感情が溢れ出す。
全体的には平易な言葉を用いているし、時計をボイルも薔薇が蜥蜴に変わりもしないので読み解くというよりも、情景を思い浮かべながら想いを響かせる歌詞になっている。
といいつつ初っ端から「ペーパーナイフ」って出てくるのが、らしいと思う。
音楽においてラヴソングってもはや出尽くしんたじゃないかってくらい、世に溢れかえっているんだけど、結局そんなことはなくて。
時代の変化もあれば、1人ひとりの恋愛は決して同じものはない。
だからこそ人間の表現は尽きないのだ。ラヴソングは音楽にとって永遠のテーマだ。
たとえば2025年でいえば米津玄師の"IRIS
OUT"のようなぶっ飛んだラヴソングが生まれるのだ。チェンソーマンの女たちは男を狂わせるし、真面目に"IRIS
OUT"は本当に天才だと思う。
もはや新藤晴一くらい歌詞を書いてきた人間は、音楽全体という以前に過去の自分の表現との闘いにもなっていると思う。
過去の自分が書き上げた歌詞に負けたくない、そんなVSな想いもきっとあるはずで。
ナタリーのインタビューで印象的だった新藤晴一の言葉がある。
新藤 歌入れのとき、隣の部屋でゆっくりしてたらみなちんが来て。「歌詞に出てくる手紙って、何年ぶりくらいに届いたものなの?」って聞かれたんですよ。レコーディングスタジオは音楽を鳴らす場所で、みんな音に集中しているから、文学的なことなんて基本、誰も気にしないんですよね。でも、みなちんはそこを聞いてくれて、その情景を拾ってボーカルトラックのチョイスとかもやってくれていたんです。25年活動してきて、そんなことは初めてだったので、すごく衝撃的でうれしい出来事でしたね。〜「ナタリー」インタビューより
この話がかなり意外であった。
もちろん、歌詞単体としては様々な視点からチェックは入るだろう。"THE
REVO"も一度歌詞がボツになったって話もあったし。
レコーディングでは文学的な面はフィーチャーされないというが、大なり小なりスタッフやアレンジャーの中で言葉にしないが歌詞を踏まえた音の選択をしていることはあるだろう。
あとポルノグラフィティの特性として、ある程度アレンジしてから歌詞が書かれるというのもあると思うんだよね。
(それでいくと唯一歌詞先行で書かれた”言伝−ことづて−”もかなり歌詞を踏まえたアレンジではとも思う)
繰り返しになるが歌詞としては解説がタイプの歌詞ではない。
けれど、その分だけ聴き手はそれぞれの胸にある想いを重ねやすい。
と思いながら最初に歌詞カード読みながら聴いていて、2番でぶっ飛ばされた。
風と波と記憶
色褪せない写真は嫌いだ だって思い出はセピア色に滲んでいくくらいがちょうどいい 傷つけあった時間も愛おしいくらい
このフレーズ、CDの感想という名のカップリング感想になった記事にも書いたが、このフレーズが今年のベストフレーズ1位になりました。本当にありがとうございます。
写真と思い出について、前もどこかで似たようなことを書いたが、心理学的な効果を引用したい。
写真はあくまで静止画ですから、動画と比べると情報はずっと少ないものになってしまいますよね。だから動画の方がなんとなく効率的な気もします。ですが、人間の心はもっと複雑で、「足りないところを補おうとする」という習性が強い
(中略)
愛されてきた自分、大切に過ごしてきた家族との時間などを、情緒として感動的に思い起こさせる力があるのです。人は、動画のような鮮明なもの以上に、写真のような不確かなものに惹かれ、心が動く
要するに記録を記憶で補間(補完)しているということなんだけど、人の情緒的記憶というものは不確かなものだ。そこであったことを思い出す時、その時の感情というものは時間と共に膨らんでいると思う。
それは良い記憶もそうだけど、悪い記憶であってもそうだ。
昔、会社関係で自分が心の底から嫌いな人間がいて、「そろそろこの人に寿命がきてくれないかな?」と思う日々を2年半くらい過ごしたことがあったんだけど。今はそんな人もいたなと思いつつ、やっぱり心底地獄のなるべく深いところに落ちないかなと願っている。
それくらい自分勝手で周りからも嫌われてる人がいたのですよ。
人には色褪せてほしくない思い出もあれば、色褪せるからこそ良い思い出もある。
"風波"はUNFADEDな記憶だからこそ、の切なさが胸に迫る。
風と波。
この組み合わせから想像したのは、航海である。
風が便りを運ぶと言うなら 僕に宛てた風は吹いていない
〜"シスター"
町 花 空 人 どこかにあなたを探すかげろう 疾風がさらう夢〜"あなたがここにいたら"
そんな風に対して、波は寄せて返すものの象徴である。
”風波”は比較的、未練が強くない失恋ソングに聴こえるが、主人公は最後に「見送る」と言いながらも、その記憶は残り続ける。
自分自身にそのつもりがなくとも、そこにあった過去への記憶は消えることはない。
あの人が好きだった場所、好きだった食べ物、好きだった音楽、そこに触れる時、人はその記憶を重ねてしまう。決してよりを戻したいとか記憶を美化したいとかではなくとも。
それは恋愛に限らずとも、人との出逢いがあれば、そんな記憶が増えてゆくのだ。
歳を重ねるとはそういうことで、だからこそこうした曲はこれからも人生で付き合っていく中でより深く心に沁み込んでいくのだ。
"クラウド"にも通ずる、喪失という想いは人が避けては通れないものである。
音楽は歴史に残っていく、それが逆説的に人が変わっても記録として残り続ける。
それが皮肉であり、救いでもある。
だから人は音楽を聴くのかもしれない。
最後に余談。
これと全く同じというわけではないのだけど、最近ラジオで聴いたエピソードが思い浮かんでしまった。
僕はずっとTBSラジオのライムスター宇多丸の「アフター6ジャンクション2」という番組をポッドキャストで聴いている。前は気になる特集と映画評だけ聞いていたのだが、今年に入って月〜木の帯を通勤時間で聞いている。おかげで今年は音楽の方の再生数が少なくなってしまった。
このラジオの中で「恋とカルチャー」というリスナーからカルチャーの要素が入った恋愛エピソードを募集して紹介するコーナーがある。
2025年10月30日の回でRN:回転寿司記念日さんという方のエピソード。
該当箇所は文字起こしするが、少し下に生放送の動画リンクを貼るので、そちらで直接聞いてもらっても構わない。
このラジオの企画で最近、"世界で一番良い曲総選挙"という無謀な企画があり、自分(投稿者)はDaft
Pankの"Get
Lucky"に投票した。思い立って久しぶりにCDで聴こうと思ってアルバムを取り出した。
久しぶりにCDで聴いていたので歌詞カードを読んでいると、中に折り畳まれた手紙が入っていたことに気づいた。それは自分宛に書かれた手紙で、CDを貸してくれたお礼、自分への好意と夏に2人でどこかへ出掛けたいという内容であった。最後に書かれた名前は12年前の記憶に繋がっていた。
高校時代に二つ下の後輩で、音楽や映画などの趣味を通して仲良くなった女の子がいて、Daft
PankのCDを夏休みの前に貸していたのだった。その子に返してもらってから自分がCDを開かなかったので、その手紙に気づかないまま過ごしていたのだった。女の子側から手紙のことは触れず、大学受験を機に次第に連絡も疎遠になってしまっていた。
その手紙に12年越しに気づいた後、投稿者は12年ぶりにその子へ電話を掛けて……
となるのだが、ここからがまた切ないので、直接聴いて欲しい。
手紙ではありつつ違いはあるが、このリスナーの投稿の余韻が、自分が"風波"を聴いた時のそれと決定的に重なってしまった。
どこに帰っていったの あの夏の日
普通に単体で聞いてもかなり切ないエピソードだったのに、そこにポルノグラフィティが"風波"を出してきたのだ。20日後に急に主題歌を書き下ろされた僕の気持ちがわかるだろうか。
※書き下ろしたわけではない
ということで、やっぱりポルノグラフィティは恐ろしいと思いつつ、まだこれからオリジナルアルバムが待ってるのかという期待と恐怖に震えながらこの記事を終えよう。
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| RANDOM ACCESS MEMORIES / ダフト・パンク |



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