ヤングジャンプ&ジャンプ+で連載中の『ジャンケットバンク』
「ピーキー・ピッグ・パレス編」が最高だった話。
現時点の最新話(150話)で完結した「ピーキー・ピッグ・パレス編」の感想を書いていきたい。
なお、このゲームの決着は6月発売の15巻より先の16巻になるはずなので、単行本派の方はご注意いただきたい。
ヤンジャン本誌組、この記事が出る頃に更新されているジャンプ+勢は読んでいただければ幸いだ。
ちなみにジャンプ+が更新される5/29は僕の誕生日なので、読んだら祝ってもらえれば幸いだ(強制)
ネタバレ全開でいってみよう。
ピーキー・ピッグ・パレス編
このゲームは、カラス銀行特別業務部4課の宇佐美班と伊藤班の主任解任戦、互いの班の存続を賭けて行われる団体戦の初戦にあたるタッグマッチだ。
ゲームは童話の「3匹の子豚」をモチーフにしたカードゲーム。ちゃんと現実的にも成り立つゲームなので、ぜひ酸素濃度を減らせる部屋を用意して皆でやってみよう。
宇佐美班からは村雨礼二と天堂弓彦、伊藤班からはファミレス経営者の牙頭猛晴と弁護士の漆原伊月が参戦。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
まず、この村雨×天堂という組み合わせの妙である。
タッグマッチといえば「ライフ・イズ・オークショニア」における、村雨礼二&獅子神敬一コンビを思い浮かべずにいられない。
そもそも解任戦の通知が村雨と獅子神が2人でいるところに来たせいで、読者のほとんどがこのコンビをまた見られるものと思っただろう。
それが所謂"参戦ムービー"で村雨のパートナーが天堂弓彦と明かされた。「ガッちゃん」の衝撃。
村雨とユミピコというコンビでまず面を喰らった読者は多いだろう。自分は朝トイレで本誌読みながら「そう来たか」って叫んだよね。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
並んだ絵面がすでに面白すぎる。
もうこの事前顔合わせ面談でチームワークという言葉を放棄してて面白い。
いや基本的にギャンブラーなんてみんな自意識の塊たちだから、大抵そうなるわけがないんだけど(作中でも「だからタッグマッチが少ない」と語られるが)
ユミピコは真経津に敗れ、5スロットまで落ちながらハーフライフまでランクを戻し、宇佐美に拾い上げられた。
何度見てもこんな化け物が定期的に降ってくるランクシステムやっぱり狂ってる。
まぁ5スロットで神を引き当てるくらいのギャンブラーは、遅かれ早かれ地下に落ちているだろうけど。
神父姿で賭場に現れるやつがまともな人間な訳ないだろ。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
なんだよ「捨てられる神あらば 拾われる神あり」って。
正直なとこ、この時点で読者はユミピコに対して、
「自分を神だと思ってる人」
「趣味で天罰をくだしてる神父」
「目がめちゃくちゃいい」
「気圧差に耐えるフィジカル強の人」
「食いしん坊」
「狂人」
くらいの認識だと思う。ちなみに全部合ってる。
しかしながら、このゲームの結末を見守った読者は「天堂弓彦は神である」と疑わずにいられるだろうか。いや、ない。
毎回読みながらマジで入信するかと思った。
いや、たぶんすでに無意識に入信している。
もはや天堂弓彦に対して「神……」しか形容する言葉はない。
僕は「かみ(神)」の予測変換に「天堂弓彦」を辞書登録した。
終わってみれば、首尾一貫して神の手のひらの上だったのだ。
ずっと後光差してんなこの神 (引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
村雨礼二という男
読者にとって村雨礼二という男は、作中でも最強格のギャンブラーという認識があったと思う。
真経津晨にこそ敗北したものの、一時はワンヘッドまで登りつめた男である。
特に前回のタッグマッチ戦である「ライフ・イズ・オークショニア」は作中でも、いやギャンブルマンガ史上でもトップクラスの名バウトだ。
※それは別記事で散々書いてるので後で読んでほしい。
だから、僕らは想像もしてなかったのだ。
日課がヨガなのにちくしょう! (引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
あの村雨礼二がここまで苦しむ様を。
真経津さんへの敗北は、まぁぶっちゃけ4リンクだと舐めプしてたせいだと思うので、それさえなければ少なくともハーフライフレベルのギャンブラーには敵はいないと思っていた。
それが、完璧な役割分担を見せる牙頭&漆原コンビ──心を乱さぬ人形に見えるシーンはとても象徴的だ。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
動揺も焦りも顎りも醸し出さない相手に、村雨は苦しむことになる。
しかしながら本当に向き合わなければいけない相手は違っていた。
目的が全く見えないユミピコ。いや、神父やりながら自分は神と言って趣味で天罰を下している人間、に今更言うセリフじゃない。
村雨にとってはおおよそ理解不能な奇行により、タッグマッチでありながら孤立した戦いを続けていた。
いや、まぁ村雨も前回のタッグマッチで勝つために相方(獅子神)を死の淵まで追いやった人間だけどさ。
そんな村雨に”神”の声が届けられる。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
このシーンを見て思わず膝を叩いてしまった。興奮しすぎてちょっとしばらく膝が痛かった。
読者だって「神の声=天堂の声」だと思っていたわけじゃないですか。
なのに、こんな多神教を認めるなんて。まぁでもこのクソ神父近所の祭りで普通に神輿に乗ってるしな……
さて、村雨がトンネルを抜け出すまで。
ジャンプ+の救済イラストで明かされた村雨が勤務医だったことも驚きだったけど、これだけ患者達から慕われていたことの方が驚きだよ。
だって、患者に寄り添うとか一切ないだろうし、子どもに暗黒スマイル向けて怖がられそうなイメージだし。
でも本当は患者たちの名前をしっかり覚えているし、ろくに聞く気がなかったはずの身の上話までしっかり記憶している。
何より、村雨は優秀な医師として多くの命を救ってきた。何でもない雑談ができるのは、命ある限りだ。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
相変わらず見開きの演出が素晴らし過ぎる。
もう絵だけで泣けてしまう。
ていうか今まで患者の気持ちを慮らず適切な診断続けたの凄すぎるだろ。
思ったんだけど、村雨の"目"の描写あるじゃないですか。あの数え切れない数の目って、見てきた患者たちも含んでいるんじゃないかって。
様々な人間に触れることで、村雨はその診断を研ぎ澄ませてもいったわけだし。
村雨はついに思いやりに目覚め、覚醒する。
これが思いやりに目覚めた医師の顔……? (引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
思いやりに目覚めて強くなる医者ってなんだよ。
村雨って人間の感情の不安定さ、不確かさを信じて来なかったわけじゃないですか。
だから客観的な視点で下した自分の診断にこだわり続けてきた。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
人の感情を信じていないことは即ち「人は感情に左右される」と認めているということでもあって。
だから"神の声"を見て見ぬふりする村雨に、天堂は問いかけ続けたのである。
ところで、そんな村雨にとっての兄の存在。
『兄貴……』 (引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
あれ?酸素が???
兄のシーンで何人もの暗黒お嬢様達が酸欠で倒れた。惜しい人たちを亡くした。
「ライフ・イズ・オークショニア」の感想で、村雨が兄のことを打ち明ける瞬間の細長いコマの見事さを説いたけど、まさか公式がこんなに完璧なアンサーをくれるとは思わなかった。
牙頭猛晴と漆原伊月
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
そんな村雨の覚醒があったのだけど、そこまで敵である牙頭と漆原のキャラがどうしても弱いなと思っていた。
もちろん参戦ムービーのインパクトは強かったけど、まぁ窓からクレーマー投げ捨てたのと、ちょっとドア閉めそこねて1キルしただけだしね。
ていうか一つ前が教育災害という衝撃だったのがいけない。
ゲーム中のレスバにもそこまで覇気がある感じでもなくて、それが楽しみでもある自分には少し物足りなさがあった。
それが、この2人の過去に焦点を当てた146・147話で、一気に2人の物語が加速する。
特に147話のページ構成、コマ割りが神憑っているとさえ思える。
可能ならタブレットとかで見開きで読んで欲しい。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
参戦ムービーもそうなんだけど、田中先生ってこういう短いエピソードでキャラクターを立てるのが巧すぎる。
この2話で「この2人に生き残って幸せになってほしい」と願うようになった読者は多いことだろう。
このゲームの結末から言って、この2人の関係性が読者にしっかり伝わってないとできない展開だから、この2話は特に素晴らしかったと思う。
唯一お互い心を赦せた相手。
それでも打ち明かさなかった想い。
ギャンブラーたち、マジで敵の心を読むのは得意なクセに自分の半径1メートル以内に鈍感過ぎる。
ゲーム中ずっと「なんでこの2人はギャンブルを続けているんだろう?」と疑問があった。
それが宇佐美主任の「あの二人は心のどこかで死にたがっていた」で氷解した。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
立派な大人探したり、死に場所を探して闇ギャンブルするんじゃない。
同時にとても切なくなって、なんか泣けてしまった。
なんでかというと、お互いを思いやり、これだけ理解しているのに伝わらなかった、伝えられなかった牙頭と漆原の2人のここまでの人生を慮ったからだ。こんなに相手の手は読めるのに。
でも、そんな希死念慮を持ったギャンブラー相手に負けて地下に落ちて死んでいったギャンブラーたちもいるんだよな……
特に漆原はくじ引きの理論に拘っていたんだけど、これは人生において「自分の力ならざるもの」の介入があることを何としても認めたかったからだと思う。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
その煉獄のような思想に対して「くじ引きの当たりハズレは自分が決定する」と認めるラストシーンが、あまりに美しい。
なぜなら、漆原はとっくに牙頭猛晴という当たりくぎを引いていたんだから。
人生最大の幸福は、愛されているという確信である。自分のために愛されている、否、もっと正確には、こんな自分なのに愛されているという確信である。
〜ヴィクトル・ユーゴー
〜ヴィクトル・ユーゴー
求めるものがハッキリしている天堂は、自分が必要なことと向き合えと問い続けてきた。
改めて読み直していたんだけど、それが解任戦の前に、もう描かれていてハッとしたんだよね。
なにがヤバいって解任戦開始のこれが完全にピーキー・ピッグ・パレス編の布石になってんだよね。
— サトシ/飴玉の街 (@zattastore74) May 9, 2024
ここに全部詰まってる。#ジャンケットバンク https://t.co/bzdaMcHQE4 pic.twitter.com/WiIaz7blN6
この1ページにこのゲームの本質が詰まっている。
これで2人揃ってギャンブルから足を洗って、ガッちゃんのファミレスをフレンズの溜まり場にしようず。
そういえば、個人的にはこの2人はフレンズ入りというよりは、溜まり場のファミレスにいる準レギュラーポジションでいてほしい。
ゲームの結末としては予想されていたものではあるけど、奇をてらわずに描ききってくれて嬉しかった。
それにしても本当に裏ルールがない、純粋な読み合いの勝負だったね。
全てコントロールして自分が一番低酸素で耐えてたた神やっぱりただの狂人だろ。
最後にこのゲームのMVPを発表したい。
MVP
「ピーキー・ピッグ・パレス」MVPはもちろんこの人。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
灰谷くん最初から司会進行が筒がなくて上手いんだけど、途中途中で小ボケを入れたり、しっかりとVIPへの状況説明もこなしている。
決着シーンで天堂に対して「奇行」って言葉を2ページ中5回も言ってて笑った。
そして何より、今回ゲーム1番の名言。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より) |
「マッチポンプ慈悲」を生み出した功績は大きすぎる。
トレンド入りして作者すら驚かせたんだから、VIPから1千万円くらいお捻り貰ってもいいと思う。
そこまでは「神は全能だ 当然反省もできる」が構文としても強すぎたけど、最後に上回ってきた。
次回の獅子神ソロ戦は蛇谷ちゃんが司会になると思うので、今から楽しみにしている。
……俺は好きですけどね。デカいケツ。
ということで「ピーキー・ピッグ・パレス編」についてでした。
このゲームは3匹の子豚をモチーフにしている。
童話の結末の展開が変わってるケースもあるみたいなので、あくまでも一般的なイメージで書くが、この寓話は「地道にコツコツ努力を積み上げることの大切さ」という教訓が一般的な解釈かと思う。
けど自分はそう思ってなくて、本当に大切なことは、1人で地道に積み上げていくことも、誰かと助け合えばより早く達成できるという意味もあると思う。
1人で築き上げることは、独りで抱え込むことでもあるのだから。
村雨、牙頭、漆原にとって築き上げてきたはずのレンガの家は強力な防御であるとともに、自らを閉じ込め他人を突き放す強固な牢獄でもあったのではないだろうか。
ちなみに自分は3匹の子豚の話を見るたびに、藁の家でオオカミを呼び込み、木で囲ったあとレンガを投げ込みまくればいいんじゃね?って思ってる。自分は「箸を短く持てばいい」と思うタイプである。
それにしても、ギャンブル終盤での作画が凄いのは毎度のことだが、今回は特に神の作画が気合い入りまくってて毎回宗教画のようになってるの笑う。
いくらで買えますか?
では、次回は今後の展開予想を書きます。
獅子神さんは──たぶん負ける。
↓書きました
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