2023年4月5日水曜日

【ネタバレ感想】ジャンケットバンク 『ライフ・イズ・オークショニア』というBESTバウト


※当記事には『ジャンケットバンク』のライフ・イズ・オークショニア編完結(101話)までのネタバレを含みます。

単行本派の方はご注意ください


『ジャンケットバンク』は今連載されている日本のマンガで一番面白いと思っている。

どれくらい好きかというと、単行本でノンビリ読んでいた僕が、ジャンプ+で単行本追い抜いた段階から、ヤンジャンアプリで最新話を読むようになってしまったほどだ。

こんな毎週待ち遠しいのは、『DEATH NOTE』と『ネウロ』を毎週待ちわびていたとき以来だ。それだけ最近まで週刊誌でマンガを読んでいなかった。

中でも10巻(88話)から始まったギャンブル"ライフ・イズ・オークショニア"が、あまりに最高のゲーム展開であった。 僕はこのゲームを『嘘喰い』のエアポーカーと並ぶ、ギャンブルマンガの最高傑作と位置付けたい。

※どちらが良いかとかでなく『ジャンケットバンク』と『嘘喰い』はどっちも最高のマンガなので読んでほしい。

では、その理由を書いていこう。



ライフ・イズ・オークショニア



"ライフ・イズ・オークショニア"は単行本10巻冒頭から始まったゲームである。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

このゲームは宇佐美班vs片伯部(かたかべ)班の特別交流戦として、タッグマッチとなっている。

(ちなみにタッグマッチは「初」ではなく「稀なこと」ということで過去にも開催されているようだ)

宇佐美班
・村雨 礼二
・獅子神 敬一

片伯部班
・時雨 賢人
・山吹 千晴

片伯部班からは捜査2課の刑事コンビが参戦している。

つまりギャンブラー側の主人公の真経津晨は登場しない。

アプリのコメントとかでもあったけど、このギャンブル中、御手洗暉含め主役がどちらも登場しないのに、最高レベルに盛り上がってたの恐ろしい。
 ※こんなで主人公の電卓大丈夫か?と心配する人もいるだろうが、今後しっかりと「一番狂ってるのやっぱりコイツだった」と思わされる展開が待っているのでご安心を

『ジャンケットバンク』はギャンブラーも行員も、揃いも揃ってキャラが濃いので、誰がメイン張ってても物語の推進力を損なわないという強みがあるということだ。

ゲームの進行役は宇佐美主任が務める。

(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

 

宇佐美はこのタッグマッチを仕組んだ張本人でもある。 

 最後で改めて言及されるけど、宇佐美は賭け場を権力で歪める刑事2人の抹殺のため、片伯部と協力してこの交流戦を組んだ。

これから銀行内で起こる戦争を見越しての行動だ。

真経津をデギズマンと疑い、村雨を仕向けたのもそうだけど、もう宇佐美は村雨のことを完全にギャンブラーでも医者でもなくて、ヒットマンとして見てる。
      

さて、ここからは個人的なこの勝負の魅力を語っていきたい。

 

獅子神 敬一

 

またしても何も知らない獅子神 敬一さん(26)
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

獅子神と村雨は、ストーリー初期で主人公に負けた対戦相手の2人でありながら、5巻の"タンブリング・エース(オーバーキル)"編以降、メキメキと魅力的なキャラへと成長を遂げた。人気が青天井にも程がある。

おそらく、これだけ緻密なストーリーを組み上げてる田中一行先生の想像も超えて成長して、人気になったキャラたちではないだろうか。

"ライフ・イズ・オークショニア"でも、最初から魅力は全開である。

たとえば試技のあとに村雨は「我々は賭けに出る必要がある」と獅子神に告げ、続けてこう述べる。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

そこで意図は明かさず、「私が合図するまで。あなたは何があっても競り勝ちに行け」指示をする村雨に対して、
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

文句を言いながらも「従いましょう。お医者様がそう仰るなら」と粋すぎる切り返しをしている。

これだけで「このコンビ最高……」と読者は思ったことだろう。


しかしながら獅子神は、村雨の意図を全く掴めていないこともポイントだ。ゲーム序盤は村雨を信頼し命を託しながらも、電流によってひたすら命を削られていくことになる。

村雨の意図がわからぬまま、ただ獅子神は指示に従い札を出し続ける。

そこから死の淵で覚醒に至る理由が、相手から目を背けず、死ぬ気ですべての可能性を考えることであった。

しかしながら、決して要因はそれだけではなくて、もう1つ獅子神が覚醒した理由がある。

それは「自分の弱さを受け入れる」ことだ。

(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

虎になることはできなくとも、自分と向き合い、持っているものをすべて受け入れる、ここにも覚醒の理由が描かれている。

それをできるようになったのは他ならない、獅子神が真経津と対戦したからだ。

真経津鏡に由来されるように、真経津は鏡で相手を翻弄するが(こう書くと妖怪みたいだな)、その経験こそが獅子神が自分の弱さと向き合うきっかけになったのだ。
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

たとえ10巻本編で1コマしか出てこない主人公でも、この勝負の影の重要なキーマンになっているのだ。

もう獅子神の存在が完全に「少年ジャンプの主人公」で、正直これだけでも"ライフ・イズ・オークショニア"は、自分の中で傑作レベルに至っていた。

しかしながら、このゲームでは更にもうワンランク、いや数値化できないくらい想像を遥かに超える興奮が待っていたのだ。


それが死神、村雨礼二の存在である。








村雨 礼二



抹殺戦に定評のある 村雨 礼二さん(29)
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

獅子神の覚醒を受け、遂に村雨は動き出す。

獅子神に"見る目"が見えるようになってから決着までの展開は毎週興奮してしまい、好きな本を何度も読む子どものように、何度も読み返してしまった。
 (そういえば獅子神覚醒回の編集煽りが「ようこそ、ハーフライフへ」なの最高に痺れた)

集合体恐怖症を殺しにかかってくる……
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)

たった見開き1ページで、有無を言わさぬ強キャラ描写である。いくらワンヘッド降りるためとはいえ、こんな人4リンクにいちゃダメだろ。

それだけに「この医者にフィジカルとブラフで勝ちきったギャンブラーがいるらしい」ということにもなるんだけど。

村雨にとって"サウンド・オブ・サイレンス"は、ペナルティを受けるリスクを避けた結果の敗北だった。

けど今回は代わりにペナルティを受けてくれる被験者(獅子神)もいてくれるから、より確実に石橋を叩けたまである。

これだけ強キャラぶっておいて電流1くらっただけでゲホゲホ咳き込む弱さのギャップ、反則だろ。


村雨が本領発揮してからの展開は、特に同情の余地もなかった時雨と山吹さえも可哀想に見えるほど。      

何もかも思い知った時雨 賢人さん(34)、山吹 千晴さん(28)
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


最初はあんまり思い入れのない敵だったけど、最後には好きなキャラになるのも地味に凄いし、ズルい。


時雨と山吹については、山吹を切り捨てようとする時雨の判断に対して、普通なら仲間割れ展開に持ってきそうなところを、山吹が「それがオレ達の常識だ」と冷静に受け入れる。

(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


こちらはこちらで、パートナー想いがよく伝わってくる良い描写だ。目立たないけど、凄く好きなセリフだ。

けどまぁ、そのパートナー想いこそが山吹を最悪の結末に招くことになるんだけど。

(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


ゲームの結末としても山吹の失言を誘導し暗黒金持ちの怒り(顔は満面の笑顔)で潰し、時雨を容赦なく追い込む様は清々しささえ感じるほど。

(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


そしてもう1つ好きな場面。

中盤、時雨によって獅子神や村雨の過去が明かされる。
(ところで獅子神、村雨側は当日ギリまで対戦相手明かされてなかったけど、調べる暇あったのか?)

獅子神について自分は「幸せな仲間に出会えて良かったよ、あなた」という想いである。良かったよ、ほんと……

それにしても、どんなクソ野郎が相手でも「死んで欲しくねぇ」と思ってしまう獅子神の心理、よく分かるよ……


さて、個人的に一番ヤバかったのが、ここで明かされた村雨の兄の存在。
時雨はこの情報で、村雨を揺さぶるつもりであった。読者的にもこの時点では、兄との確執を想像させられる。

(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


しかしながら、決着後に村雨が獅子神に兄のことを語る場面でその印象は一変する。

時雨と山吹の関係性とかもそうだけど、読者の想像を裏切って期待を超えるの巧すぎるのよ、田中先生。
 (『ジャンケットバンク』好きな方は是非、『エンバンメイズ』と『概念ドロボウ』も読んで欲しい)

 
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


村雨なりの言葉で兄への敬意を語る。

だからこそ家族のため、身体をボロボロにした兄の中身を見て、「ここまで苦しまねば、幸福は支えられないのかと」と憤るようになった。 

 つまり初登場時のブチ切れは、大マジだったのだ。
※なお手術自体はただの趣味の模様

誠意、大切
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


この掘り下げが個人的にはぶっ刺さって、たぶん僕の境遇が兄のいる弟なのもあると思う。
この回でどうしようもなく好きなキャラクターになった。

この場面って物語としても、それを打ち明けるほど獅子神のことを認め、信頼しているという証としても機能している。もはや、お見事としか言いようがない。

個人的に好きな描写が、この村雨の独白前に、ささやかだけど目のアップのコマが挟まれている。

この真ん中の細長いコマ
(引用:集英社『ジャンケットバンク』より)


これ、すごくさりげない演出なんだけど、この細長い=一瞬の間に、村雨はとても深い洞察と思慮を経て、獅子神に打ち明ける決意をしているんだよね。

村雨って絶対、自分のことをペラペラ自ら話すタイプじゃないじゃないですか。

それは基本的に人を信頼しないからで、そんな村雨がここまで獅子神に自分の想いを打ち明けたって展開が胸熱すぎて、スラダン映画のリョータかよってくらい泣ける。

自分の賭けを成立させてくれた獅子神への感謝と、最大限の信頼をもって、村雨は自分語りをしたのだ。
これほど泣ける自分語りがあるだろうか。


総括。

ゲーム自体は1~4の札を4人で出し合うだけというシンプルなゲームなのに、キャラクターの魅力とシンプルながら奥深い心理戦で魅了されてしまうのが"ライフ・イズ・オークショニア"だ。

考えてみたら『嘘喰い』のエアポーカーも、上層の苦労はともかく、下は5枚の手札出し合うだけなんだよね。

それにどちらも基本座りっぱなし(よく考えたらどっちも足固定されるゲームだな)で、動きも少ない中でこれだけ魅せるのは、マンガとして凄いことだと思う。

あと『嘘喰い』のエアポーカーもそうだったけど、タッグ戦でこういう、パートナーへの信頼で敵を討つみたいな展開が自分は好きなのかもしれない。
 

かように、"ライフ・イズ・オークショニア"は、前半の獅子神のジャンプ的な覚醒と成長、後半は村雨の圧倒的な俺TUEEEE展開と二度美味しいうえに、2人のパーソナリティの掘り下げまである、神回連発のゲームだったのだ。

お世辞抜きに色々とマンガを読んでいて、1年に1回遭遇したら最高というレベルの神回が、毎週のようにくる感覚。

そりゃベストバウトにもなるわ。

記念すべき100話でピカソ顔2連発という景気の良さとか、獅子神の過去をなぞった最高のラストシーン(101話)まで、ちょっと完璧としか言いようのない完成度であった。

ちなみに、ここまでハードル上げまくりましたが、この後の展開も最高に面白いし、現時点の最新話(110話)では、個人的マンガ史上最高の一コマに選びたいシーンまで登場している。

どうしよう、マジでこのマンガ最高なのだが。

これからも『ジャンケットバンク』から目を離せない。

最大級の感謝を込めて、この記事を終えます。



↑11巻の記事も書きましたので是非よろしくお願いします。




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