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2016年10月1日土曜日

【感想】宇多田ヒカル「Fantôme」全曲レビュー









発売されましたね。

宇多田ヒカルのニューアルバム「Fantôme」(ファントーム)

8年ぶりのアルバムです。前回のアルバムが「HEART STATION」ですか。
それだけでも年月の経過を感じます。

宇多田ヒカルのニューアルバムが出る」それだけで、 音楽業界にとって一種の事件なのです。

購入して繰り返し聴いています。

音質とかそういうことに関して僕が言えたことではありませんが、このアルバムは可能な限り良い音が聴ける環境で、何回も聴き返して欲しいそんなアルバムです。
それくらい一音一音にこだわりが散りばめられています。

ということで、全曲レビューを書いて行きたいと思います。











01. 道



アルバムのオープニングナンバー。
CMも見たことないので、実質アルバムで初めて聴きました。

というよりも今回は"花束を君に"以外は全て初聴きでした

Bメロの歌い回し、譜割りが面白いですね。

歌詞の内容は、誕生~成長辺りの過程を経ていくようなもの。「人は1人では生きていけない」というのはありふれているけど、この"道"で歌われているのは「人に支えられてても、人間は結局1人で歩んでいく」というもの。この絶妙なバランス感覚、好きです。

このアルバムで"道"から始まり"桜流し"で終わるというのは、必然であったようにすら思います。

02. 俺の彼女



男女のことをそれぞれの目線で歌った曲で、それに合わせて声質も歌い分けてます。


途中出てくるのはフランス語ですが、高田純次的に言うと「フランス語は得意だけど、意味は分からないんだ」というレベルの僕なので、最新鋭の秘密兵器で翻訳しました。

超最新鋭のExcite翻訳で翻訳してみました。

使っているのを知られたら 恥ずかしい 命の危険があるので良い子は黙って使用しよう


Je veux inviter quelqu’un a entrer
Quelqu’un a trouver ma verite
Je veux inviter quelqu’un a toucher
L’eternite, l’eternite


↓仏→日


私は、誰かが入ってもらう招待に必要とします。誰かは、私のveriteを見つけてもらいます。私は、誰かがさわってもらう招待に必要とします。eternite、eternite。


いや、意味分かんねーよ。

調べたら

verite」は「真実」
eternite」は「永遠」

のことです。

つまりその上のライン

カラダよりずっと奥に招きたい 招きたい
カラダよりもっと奥に触りたい 触りたい

と呼応しているのかなと思います。


03. 花束を君に


僕にとっては唯一馴染みある曲、であるはずだったけど実際は朝ドラの昼の再放送でしか聴いたことがなかったので、

しかしながら、こうしてフルコーラスで聴くとだいぶ印象が違いますね。特にサビの印象が、途中からドラムが入ってくるアレンジのせいか、違って聞こえます。
ドラマで聴くと、とても王道的なアレンジの曲だと思ってましたが、かなり音が凝ってますね。

歌声もピアノもストリングスも全体的に中域~高域の音が目立っていて、アルバムの中でも明るめの曲ですが、歌詞を踏まえると明るいからこそ、寂しさが強調されているのかなと思います。

よく聴いたらもちろん細部の凝りっぷりも凄いですが、普通に聴いたって、もうこれ名曲のなにものでもないよ。スゲーよこの曲。
さりげなく入っている最後のサビのとこの吐息とかめちゃ良いですもん。

これは紅白出場ありえる。



04. 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎



先日共演したミュージック・ビデオが話題になりましたね。

タイトル見たときには「わりと息抜き的な立ち位置の曲になるのかな?」と思っていたら、宇多田ヒカルが椎名林檎引き連れて一筋縄で終わるわけなかった

まるで椎名林檎が提供したように感じるくらい椎名林檎っぽい曲。
「渚」とか「ランデブー」がものすごく歌謡曲だからか?

少なくともこの曲が出来たとして、この曲調で「バカンス」という歌詞が浮かぶでしょうか。僕は全く浮かびません。めちゃくちゃベース効いてる。
"traveling"みたいな曲なら分かりますが。

歌詞も「バカンス」なわりに明らかにおかしい。
深読みしようとすると色々と浮かびそうな歌詞ですが、こうなると果たして深読みしていい歌詞なのかすら分からなくなってきました。

今は意外と深読みしない方が良いのではと思ってます。

とにかく、宇多田ヒカル×椎名林檎の強烈な個性のぶつかり合いが楽しい楽曲ですね。


05. 人魚



ハープの音色が印象的です。人魚ってなんでハープ弾いてるイメージなんですかね。セイレーンのイメージから来てるのかな。
そもそもこのリフレインのフレーズ最初耳で聴いたときにアコギだと思ってました。頭と耳がよくありません

メロディは優しい曲ですがドラム、特にスネアがわりかし強いです。

ハミングが入ったりとても優しい曲調なのに、妙にドラム強いというか。




06. ともだち with 小袋成彬



小袋成彬は音楽レーベルTokyo Recordingsを設立した人。
僕の大好きなLUCKY TAPESやBOMIさんなどのプロデュースも手がけてます。

他にも水曜日のカンパネラ、雨のパレードなんかも。

しかも、まだ25歳という年齢、脅威としか言いようがありません。

気になったのが小袋さんだけfeaturingじゃなくてwithになってるんですよね。
ゲストヴォーカルか楽曲制作まで関わるかの差なのかな。

曲についてでずが、リフレインしたリズムの中で、アコギのアルペジオが流れ、サビではホーンが入ります。
トラックといい、このホーンの入れ方といい、ここ最近のSuchmos辺りからのお洒落シティポップの流れを感じます。宇多田ヒカルがこの路線で曲作ったらこうなったみたいな。

ヴォーカルについても、宇多田ヒカルの声だけじゃなくて小袋さんの声が入ったことで、かなりバランス良く聴こえます。

そういう印象ですので、どちらかというと、小袋さんの曲に宇多田ヒカルがフィーチャリングされた、みたいな印象の曲でした。

面白い曲です。


07. 真夏の通り雨


歌いだしからちょっと泣きそうにくらい良い曲の匂いを漂わせてる。実際とても名曲。

この曲が世に出てから曲自体を聴いてはいないけれど「喪失」の歌だということは分かっていました。それは"花束を君に"と通ずるテーマ。

心音に似せたバスドラが印象的に使われている。


この曲アルバムで1番好きです


歌詞についてはあちこちで言われているのであらためる必要ないかと思いますが、かなりストレートなメッセージソングになってます。

これだけシンプルな音数なのに、これだけ聴かせる曲になっているのはメロディの素晴らしさとアレンジの妙ですね。


08. 荒野の狼



前曲の"真夏の通り雨"から一転してスネアが強調されたナンバー。
そこに絡むベースが良いですね。

Aメロではホーンが印象に使われていながらも、サビではストリングスが大々的にフィーチャーされている。

狼を意識しているような「ハァハァ」という息づかいが面白いです。

タイトルはヘルマン・ヘッセの『荒野のおおかみ』から来ています。
人間活動を経てとても博識感が出ている宇多田ヒカルである。

実際『荒野のおおかみ』ってかなり難解な作品なんですよね。それはヘッセ自身が「この本を真に理解している人間はアメリカでも3人しかいないだろう」と言い切ってしまうほど。

ちょっとぶっきらぼうな歌いかたが良いですね。
「アウトロー気取り」が『荒野のおおかみ』の主人公なので、歌もそれに引っ張られるんでしょうね。



09. 忘却 featuring KOHH



イントロがどこかちょっと不穏さを漂わせるが、同時にとても視覚的に訴えかけられる音。なんだろう、ライヴの中盤でよく流れるインタールードっぽいというか。

曲についてはKOHHがラップで参加している。

ラップパートがかなりシリアスで、そこから、宇多田ヒカルのヴォーカルに切り替わった時に、心をなぞられたように感覚になりました。


10. 人生最高の日



歌いだしから「あぁなんかとても昔の宇多田ヒカル」っぽいと思ってしまった。

一寸先が闇なら 二寸先は明るい未来
シェイクスピアだって驚きの展開


という歌詞良いですね。

"人生最高の日"というタイトルで、この高揚するような歌い方のヴォーカルなのに、なんか通しで聴くと憂いが見え隠れしているように感じました。

先ほども同様のことを何回か書いている通り、今回のアルバムはそういう曲調と歌詞と歌声とアレンジの組み合わせが意外なものが多く感じます。

人生最高の日
人生最後の日

ほんの少しだけ言葉を置き換えるだけで、全く違う意味合いを持つのがいいですね。


11. 桜流し



アルバムの中では最も古く世に出ていた曲。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のテーマソングですが、観ていなかったのでそこに関しては割愛。

曲はとてもシンプル。
でも歌はかなりビブラートを効かせていたりしているパートがあったり、切々とした歌となるパートもあったりと多様です。

ピアノが主体で終盤で少し遠くから聴こえるようなバンドアンサンブルになりますが、最後のピアノは寂しげにフェードアウトしていきます。このピアノのフェードアウトを聴いてある言葉を思い出しました。

それはトルストイの言葉「『死ぬとき人間はひとりである」ということである。

このアルバムを通して宇多田ヒカルの人生観や死生観というものが強く表れていると感じました。だからこそ、アルバムの最後は静かにフェードアウトしていくピアノで「最後の孤独」を表したんじゃないかと。

それは1曲目の"道"の

It's a lonely road
But I'm not alone


という歌詞に全てが表れていると思います。





・アルバム通して


http://realsound.jp/2016/09/post-9393_entry.html

インタビューでも本人が言っている通り、今回のアルバムは

・母親について
・なるべく日本語の歌詞で

ということを主として制作されています。

歌詞については、あらためてちゃんと掘り下げたいですね。

日本語の歌もの」として全面的に作られているので、楽曲ごとになんの楽器がチョイスされているのか注目するだけでも面白いです。
その楽曲ごとに選ばれた楽器以外は削ぎ落としていて、全編音数を詰め込まないアレンジになってますね。

そして、とにかく歌声が素晴らしいです。メインヴォーカルのパートはもとより、コーラスの入れ方などもセンスの良さが相変わらずにじみ出てます。
丁寧に歌う箇所は、本当にかつてないほど美しい声で驚きます。俺も人間活動しようかな

母親のことを歌う以上、アルバムに対して力を抜くことが出来ない」という意識をとても感じます。
それだけパーソナルなアルバムでいながら、これだけの大衆性も兼ね備えているというのは宇多田ヒカルという才能なんでしょうね。

アルバムをリピート再生にして最後の"桜流し"から最初の"道"に戻ると"道"がまた違った印象を受けます。なので、最初に聴くときは是非リピートしてみてください。

アルバムの流れも、季節を感じるところがいくつかあり、アルバム一周することで季節が一巡りしたような気さえします。

アルバムを聴く喜びが詰まった1枚です。










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