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2018年10月30日火曜日

嘘喰い「迷宮(ラビリンス)ゲーム」の秀逸さとは、主人公が負けることへのカタルシス







マンガ「嘘喰い」には様々なギャンブルが登場する。

最高傑作だと思っている「エア・ポーカー」は以前にも徹底的に語った。


嘘喰いのエアポーカー編がなぜギャンブルマンガ最高峰か、それは主人公が死ぬからだ


そして、今回。あらためて読み返していて「迷宮(ラビリンス)」ゲームの一連の流れがあまりに秀逸だと再認識に溜め息が漏れたので、この度その秀逸さを語りたい。

基本的に読んだ人に向けて書くのでご了承を。


嘘喰い「迷宮(ラビリンス)ゲーム」徹底ネタバレ解説








迷宮(ラビリンス)ゲーム




「迷宮(ラビリンス)」は2部構成となっている。


前半は雪井出薫(ゆきいで かおる)との紙を使い作成した迷宮を読み解き合うゲーム。

後半は警視庁地下にある貯水槽施設を実物大の迷宮に見立てて行うゲーム。通称「迷宮のミノタウロス」
相手は警視長の天真征一(あまこ せいいち)、密葬課の箕輪勢一(みのわ せいいち)。

ゲームの面白さはもちろんのことだが、このラビリンスゲームの意図と、それを利用する嘘喰いの構図があまりにも見事と呼べるものになっているので、それを中心に見ていきたい。


ノーリスクで億の賞金を獲ることができるというギャンブルの話を得た嘘喰い。どう考えても胡散臭い都市伝説のような話だが、そこに乗る。


0円ギャンブルとも呼ばれるが、この掴みから凄い。どう考えても胡散臭い都市伝説のような話だ。まずは梶が一人でそれに挑むことになる。


梶はリムジンでどこか分からない場所へ連れてかれる。そこにいた男こそ、キーマンとなる雪井出薫である。そこで明かされる0円ギャンブルの真実。


賭けるものは「日付」。書かれた日付から1つを選び、それに対応する金額が賞金となる。雪井出は適当な理由をつけて日付を賭けさせるが、そこに真の目的がある。そして、もう1つ大切な要素として、雪井出薫もまた賭郎会員であるということだ。


梶との勝負にもフリーの立会人である門倉雄大が呼ばれる。後にも重要なキャラクターとなる門倉がここで初登場となる。この時点と後の迷宮勝負とでかなり顔が違う。




(引用:集英社『嘘喰い』より)


お互いの迷宮を読み合うゲームだが梶はイカサマをしている雪井出に敗北し、送り出されるが、途中で伽羅によって拉致(救出)される。

そこで判明したのが0円ギャンブル迷宮ゲームの真の目的。

ギャンブルに敗北することで、賭けた日付のアリバイが賭郎の取り立てによって奪われ、その日に起きた事件の容疑を掛けられるというものであった。



(引用:集英社『嘘喰い』より)


このコンセプトが素晴らしい。

警察ものの物語の定番「犯人が分かっていても逮捕することができない人物」、それはたとえば上層部の息子や権力者など。

それに対して警察が賭郎を使って、敗者の選んだ日付のアリバイを取り立てさせ、そこに容疑を被せて逮捕するというのは、嘘喰いだからこそできる発想だ。

警察は事件解決を図れ、賭郎は警察の弱味を掌握できるという点も恐ろしいほど、その世界の理にかなってしまう。



(引用:集英社『嘘喰い』より)


その黒い正義という闇を守るため雪井出は複写される用紙を使ってイカサマを繰り返していた。




主人公の敗北




「エア・ポーカー」の記事でも書いたが、ギャンブルマンガの難しいところは、決着にある。たとえ主人公が勝つとしても、それが定番化されてしまえば「どうせ最後には勝つんでしょ」となり緊張感が失われてしまう。

「エア・ポーカー」は初期にでてきた何気ない「屋形越えをやるのはアイツ(梶)だ」という台詞のために、ここで貘が死してもおかしくないように見せたのだ。それは他の面で初期からの周到に巡らされた伏線の効果による。


「迷宮ゲーム」においても勝負中に門倉があることに気づいたことで、「何て事だ。これでは嘘喰いは間違いなく負けるぞ」と貘の敗北を予期する。




(引用:集英社『嘘喰い』より)


その言葉の通り嘘喰い、斑目貘は雪井出に敗北する。

しかしここからの貘の計画とロジックこそ、僕が嘘喰いでも好きなシーントップ3には間違いなく入るものとなる。

嘘喰いが指定した日付、それは自身の屋形越え失敗をして敗北したもの。

貘は賭郎の絶対的なる取り立てを利用して、屋形越え失敗の記憶を雪井出になすりつける。



(引用:集英社『嘘喰い』より)


この場面、なんと鮮やかなんだろうか。雪井出の策略をすべて看破し、そのあまりにも特殊で異質な取り立てを利用。その結果、勝利したはずの雪井出に最悪のカードが渡されたのだ。

そして、途中でその読みに気づいた門倉の立会人としてのポテンシャルの高さも、ここで示される。

それが明るみになるときの興奮、その昂りは忘れられない。ちなみに当時はそこまで深読みせず普通に読んでいたので尚更。尚、深読みしても当たらないことは黙っておこう。

迷宮ゲームの真の目的だけでもかなりそそられる内容ながら、それを嘘喰いが利用して強烈なカウンターを決める。それこそが迷宮ゲームの魅力だ。

※もちろん他のマンガでも主人公が負ける話はあるんだけど、この「嘘喰いでしか成り立たない負けた理由」だからこそ興奮しているのである

それだけで終わらず、3回戦でしっかり雪井出のイカサマを明らかにして勝利するというカタルシスもある。

雪井出の使ったトリックはマジックのインクに反応する特殊な用紙に相手の迷宮が反転して複写されるというものであった。だからこそ1回戦シャーペンの下書きのまま提出した嘘喰いの壁は複写されず、白紙のままの雪井出はストレートで敗北した。



(引用:集英社『嘘喰い』より)


3回戦では書いたインクを消しゴムでこすると、インクが用紙に反転されないという特性、紙の裏にマジックで書いてもそれが反転されるという特性を用いて、雪井出に嘘の迷宮を示し勝利。

当然、自分の書いた迷宮が反転されてると知った嘘喰いが迷うことはない。


そこまででも十分満足なのに、嘘喰いはその先の目的まで見据えている。
それこそが雪井出が持つ"顧客"の情報。つまりは隠蔽をしようとしている権力者たちの名。

それを手に入れるべく、動いているという点にある。
それについては、最後に書こう。



迷宮のミノタウロス




ここまでが前半の雪井出との迷宮(ラビリンス)ゲームである。書いたように、僕の一番興奮したポイントは書いてしまったので、ここからは、なるべく手短に。

と言っても、僕は後半の実物大のラビリンスを用いたギャンブルも大好きである。というか、嘘喰いで嫌いなギャンブルはない。

ややこしいので後半の方は「迷宮のミノタウロス」で統一させてもらう。

紙上で行う迷宮ゲームとは違い、実物大の迷宮を実際に自分で動き周り、それぞれ門倉の定めたゴールを目指すというもの。




(引用:集英社『嘘喰い』より)


嘘喰いのマンガとしての最大の特徴は知略と暴力それぞれの要素が必要なことだろう。
たとえば廃坑のテロリスト編(ハングマン)で嘘喰いがゲームを行っている間、マルコはミサイル発射を止めるために奔走する。

ファンの間では暴パートの間にゲームや展開を考案しているという話が度々持ち上がった。

しかし「迷宮のミノタウロス」ではバラバラに登場していた知と暴が合流する。暴同士、知同士の闘いはもちろん、相手の暴を持つ者、密葬課の箕輪勢一と嘘喰いの対峙などが登場する。直接闘っては当然勝てない相手に、嘘喰いがどうやってそれをかわすのか、そこが見所だ。

知と暴の邂逅、それはこのゲーム結末に通じる「どれだけ知略を巡らせても、殴られて死ねば終わり」という嘘喰いならではの落としどころに繋がることになる。

知の部分はハングマンのように、本人が持つ特殊な力によるもの。ハングマンは視覚再生技術だったが、天真は音を聴くと色として認識できるという共感覚を持つ。




(引用:集英社『嘘喰い』より)


最終的に、嘘喰いは門倉とたまたま同じタイミングでドアを開けたことで混乱した天真などの心理を利用するなどして出し抜いていく。

しかしながら「迷宮のミノタウロス」の結末は、そこがメインではない。暴力の駒でしかなかった箕輪が暴走。嘘喰いをはめるための罠を知らされなかった怒りも重なり、味方のはずの天真を殺害し、食べるという結となる。

それもあって「迷宮のミノタウロス」のメインとなる敵は天真であるはずなのに、読み終えると最も恐ろしい敵(=ミノタウロス)は箕輪であったと印象づくはずである。


(引用:集英社『嘘喰い』より)



嘘喰いが勝利によって得た「Lファイル」
これをどうしたかが、この後の「業の櫓」へと続いていく。

「業の櫓」は長くややこしいゲームとなるので踏み絵的な側面もあるが、コミックで一気に読めば比較的理解しやすいのではないかと思うので、一度挫折したという方も是非もう一度トライしてみてはいかがだろうか。


ということで、迷宮編は過去の精算、そして未来への一手を打つための重要な転換期となるものである。この次の梶のスピンオフ「ファラリスの雄牛」も面白いよね。

今回あらためて読み返したが、これだけ何度も読んでいるのにワクワクさせられる「嘘喰い」はやはり名作なのである。



嘘喰い「業の櫓」の珠当て勝負を超分かりやすく解説する
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