その日、外は嵐だった。
強い雨と風が降り続くなか、原宿から渋谷へ歩いていった。
渋谷クアトロで何回もハルカトミユキを見ているが、思い出すのはいつも、2014年のあの日。記録的な豪雪の中、なんとかたどり着いたクアトロ。そこで、僕は初めてハルカトミユキを生で見たのだ。
"ドライアイス"に心を打ち抜かれ、リリースされたアルバム「シアノタイプ」でもう戻れない電車へ乗った。
「シアノタイプ」から「青写真を描く」と題されたライヴ。雪によって多くの人が会場に行けなかったなか、それでもなんとか来られた観客たちの前でハルカトミユキはステージを敢行した(行けなかった人は後日チケットにメッセージを直筆で書いてくれるという救済もあった)。
ポルノグラフィティはもちろんのこと、国内外問わず、大小問わず、多くのミュージシャンのライヴを見てきた。
それでも、あの日に体感したヒリヒリとした空気は、今でも尚、この時以上に感じたことはない。
どこかステージと観客の間に幕があるような感覚。
自分を含め観客たちは、ビタっと静止し、ただその音と言葉を受け止めていった。もちろん無心な訳ではない。
曲が終わっても、すぐに拍手できなかった。それほど、その音が鳴り止んで尚余韻にうちひしがれてしまっていたのだ。
この頃はまだハルカトミユキはアンコールをしないという主義だった。それでも、雪の中たどり着いた観客たちに彼女たちは再び現れ、何度もお礼を言ってくれた夜。
ハルカトミユキ BAND TOUR 2019
@東京・渋谷CLUB QUATTRO ライヴレポ
※トップ画はナタリーより引用
2019年になった。
その間にも何度もハルカトミユキを見てきて、見るたびに印象が変わっていった。数えきれない挑戦を見て、何度も心が震えた。
挑戦し続けるからこそ、ライヴの印象は毎回違うし、いつもライヴのなかで次の目指す場所を伝えてくれた。だからこそ、またそれを糧に生きて来れたのだ。
前置きが長くなった。
そんなハルカトミユキがベストアルバムをリリースした。新曲、新録3曲を含む32曲とインディーズ時代のデモ10曲を含んだ内容。
それは音楽文に書いたので参照いただきたい。
ハルカトミユキが肯定してきたもの
ひとりぼっちのためのベストアルバム「BEST 2012-2019」
それを引っ提げたバンドツアー。
その「ベスト」ということの意味を大きく見せつけられた2時間のライヴだった。
ライヴレポ①
ミユキとハルカがステージに現れる。
2人きりのステージで演奏されたのは"僕達は"。
それこそ"世界"やベストアルバムのオープニングを飾る"17才"などの勢いのある楽曲で始まると思ってたので、意外であった。だがその歩みを考えれば、こうして2人の音と声で始まることは、ごく自然なことであったと気づかされる。
綺麗で透明感ある歌声の中にある切なさがある声。そこに惹かれて、言葉に込められた想いに打たれた。ハルカトミユキが大好きで、大切な存在になっていた。
サポートメンバーが登場。お馴染みとなったベース砂山淳一、ギター野村洋一郎。そしてドラムは今回、元椿屋四重奏の小寺良太がつとめた。
ミユキのキーボードが鳴り"ドライアイス"へ。そして"シアノタイプ"が立て続けに演奏される。どちらも、自分にとって大切な曲で、聴く度により。大事な曲となっていく。
小寺良太の強烈なドラムに目を見張る。そのドラムは鼓動のように、心臓を直接奮い立たせる。
ハルカ:ハルカトミユキ BEST 2012-2019 バンドツアーへ来てくれてありがとう。初めての人も、いつも来てくれてる人も、久しぶりの人も、今日は好きなように踊って、唄って、ただ立ち尽くしてもいい。誰一人、置いていかないから。
目を潤ませたハルカの言葉。
その言葉がどれだけ心を打ったことか。極端にいえば「わかってくれなくてもいい」という感情がハルカトミユキのどこかにあった。感傷に浸ることではなく、ただお互いの傷口を見せ合うような感覚。
それが「誰一人、置いていかないから」とまで観客に言ってしまうほどになった。いや、ようやく言えるようになったのかもしれない。その言葉は、ハルカトミユキがこれまで繋げてきたものの結晶だ。様々な場面がフラッシュバックし、序盤にしてさらに貰い泣きさせられた。
"ヨーグルト・ホリック"、"Hate you"。どちらもアレンジがされていて。どちらも2番でバンドサウンドを落としたり、新鮮な驚きをくれる。
そして"Hate you"で観客を指差して「…とか言ってもらえると思うなよ?」と笑顔で唄う姿がとても印象的だった。
モータウンサウンドで場内が明るくなったところを一転し、"その日がきたら"。
初期はどちらかといえば、過去や今を描いた曲が多かったが、この頃からハルカトミユキの曲には少しずつ「未来」を唄う曲が増えていったと思う。
未来は決意の先にある。だからこそ「その日」がきたとしても、君を守ると唄う。
折しも今年2019年5月にドレスコーズがアルバム「ジャズ」をリリースして、そこで「人類最後の音楽」というテーマを打ち立てた。それでも最後に人は音楽を奏で、踊る。
たとえば人類最後の日も、愛も同じなのだ。
どちらも人の力ではどうにもならない。そしてどうにもならない感情を、僕らは音楽で感じることができる。
ハルカとミユキのコーラスが美しい"春の雨"。そんな未来への決意を唄った後だからこそ「星に未来はないみたい/君の未来に僕はいないみたい」と切々と唄う姿が心に刺さる。
それでも未来は誰もわからない。だからこそ、最後にわからないという希望がそこに残る。
ほとんどの曲がそうだったのだが、音が鳴り止んでも、拍手が起こるまでほんの一瞬だけ間が開く。音の残像の余韻まで楽しみたい人間なので、それを味わえたのが本当に嬉しい。"春の雨"のような曲では特に。
ライヴレポ②
メンバーが捌け、ミユキが1人ステージに残る。
そして、キーボードでインタールードを奏で始める。
旋律の心地好さに耳を向けていると、突然の高音や低音にハッとさせられる。ピアノという楽器は、語弊のある言い方をすれば鍵盤を押すだけなのに、これだけ表情豊かで引き込まれるものを見せてくれる。
こうしたピアノだけのソロは、思えば初めてだっただろうか。
そして、音のない余韻が漂う中、ハルカがステージに戻り、アコースティックギターを手に"どうせ価値なき命なら"を唄い出す。
明日には枯れる花も
可能性と名付けよう
それは、"その日がきたら"で唄われたものとはまた違うメッセージであり、同じ優しさと強さ。「生きてやろうよ」というメッセージ、それはハルカトミユキがずっと唄い続けてきたものだ。それは、たとえば昔なら「生きてやれよ」という歌詞だったかもしれない。
「生きてやろうよ」と言われた方が、より心の奥に刺さる気がした。そこにはハルカトミユキの「私も唄い続けるから」という言葉にも見えたからだ。
ハルカ:デビューが決まって、初めてレコーディングという日に、あの震災があって。その時に、唄うことについてとても考えて。このまま唄ってデビューしていいのかとか。けど、それでも唄うことを選んで、これからも唄い続けていこうと思います。
そうして唄ったのが、その時に書かれた曲"絶望ごっこ"。
そのメッセージは、今でも悲しいほど強く響く。
雷鳴のようなシーケンスと照明。
ここからライヴは一変する。
拡声器を手にしたハルカ、そしてテレキャスターを構えたミユキ。強烈なドラムから"近眼のゾンビ"へ雪崩れ込む。狂いたくても狂えない内面をさらけ出すように、
ミユキは縦横無尽に暴れ、ステージに仰向けに倒れギターを掻き鳴らす。そして、ギターを置くと観客へダイブした。
"絶望ごっこ"で欠けてない者が欠けて何かを失ってしまった者へ押しつける"共感"。それは"近眼のゾンビ"で唄われる不気味な正義感を押しつけるゾンビたちと通ずる。
ハルカトミユキは変わり続けながら変わらない想いを伝えようとしている。
GUILDのレスポールタイプ(いつ増えたの?)を構えたハルカが唄い出す"終わりの始まり"。ふつふつと涌き出て沸いていく怒りをハルカはぶつける。
狂乱は続く。
ミユキ:ここからは、最後まで楽しむ時間!
"DRAG & HUG"、"振り出しに戻る"、"ニュートンの林檎"を続け様に打ち込む。ライヴでも鉄板と呼べる曲たち。だが、今までよりも更にバンドの厚みが強く、強烈な印象を受ける。
5年前、ただ音楽を受け止めていた観客たちが、今は共に声を挙げ、ひとつの空間を創り上げた。
過去も中畑大樹や城戸紘志などの強靭なドラムがハルカトミユキを支えたが、小寺良太のドラムは2人ともまた違う太さを感じさせる。
誰もが魅力的なミュージシャンで、バンドとして見せるハルカトミユキは本当に偉大なミュージシャンたちによって支えられてきたのだと実感させられる。
ところで、"ニュートンの林檎"でGibsonのレスポールカスタムの3ピックアップ仕様を弾いていたけど、あれもいつの間に……
重低音の効いたシンセサイザーに、きらびやかながら悲しい響きのアルペジオが重なる。"Vanilla"。ここまでに何曲も狂気。それは正気の狂喜と呼ぶべきもの。
だからこそ、響いた"Vanilla"の「狂えない」という叫びはどこまでも虚しく響く。しかし。
「いつか普通の顔してまた次の春がくる」
「また同じ朝が来る」
という言葉がこれまで「否が応でも明日は来てしまう」という印象であったのが、今回「それでも明日には繋がっている」というメッセージにも聴こえた。
そうした時に、本当に狂いさえしなければ、まだ明日を、たしかに生きることができる、そう思えた。そして、それが最後にあの曲に繋がったことで、確信になった。
ハルカ:渋谷、ありがとう。最後の曲です。
ライヴレポ③
"17才"
ハルカトミユキにとって、重要なターニングポイントになった曲だと思っている。過去最高といえるほど、ポップスに振り切った歌詞と曲。アニメのオープニングということもらが、そこで間違いなく新しい扉を、窓を開け放った。
何よりその前に「解体新章」のツアーをやったことで、ハルカトミユキの本質をもう一度見つめ直すことができたのかもしれない。それは、どんな曲であってもハルカ、そしてミユキが奏でることでハルカトミユキの音楽となるということ。
初めて聴いたのも、この場所だった。
それから、何度も聴いてきて、聴く度にこの曲が愛しくて、どんどん大切な曲になっていった。そして、また同じ、この渋谷クアトロで聴いた"17才"は新しい感動をくれた。
アーティストの作品に触れることで、世界の色が変わることがある。まさに「色づく世界の明日から」の、「君がモノクロの世界に色をくれた」みたいな話でもあるが、アーティストが見る世界を感じることができるからだ。
大袈裟に言ってしまえば、アーティストの目から見える世界を垣間見ることができる。そこに、新しい世界が広がっている。
アンコール"LIFE2"。
野音のために創られた曲は、歌詞を改め、ベストアルバムにまで収録されるまでになった。
そして、聴く度に心にある種を育んでくれる。
最後の曲は"世界"。
オープニングを飾る曲が、こうして最後を飾ること。
それは、このライヴの先にある未来への旅立ちへの決意だからだ。
「僕は君を 世界から/さらえない」"僕達は"でそう唄って始まったライヴは、「時間は綺麗なままで残酷に消える/ずっと、愛してる」という言葉で終わった。
「みんなで、唄って!」とハルカは観客席にマイクを向けた。その瞬間に旅立ちを見送る歌は「みんなの歌」になった。
会場に響く合唱。
みんな不器用な声をあげて、みんな笑顔だった。こんな光景が見れるとは思ってもみなかった。
「誰一人、置いていかないから」、まさにその言葉の通り、最後に未来へ会場全員で飛び立った。今までオープニングを飾ることか多かった"世界"。それが新たな旅立ちとなった。
ハルカもミユキも2人とも同じことを伝えようとした。
それはバンドであっても、2人だけであっても、どちらもハルカトミユキだということ。そして、どちらも好きになって欲しいと。
どんな方法であっても、どんな手段であったとしても、ハルカトミユキは変わらない。ベストアルバムは、それを改めて見つめ直させてくれて。
そのメッセージが必要な人は必ずいて、何も感じずに生きていくこともできる。でも、誰もが必ずどこか欠けていて。それを埋めるために、誰かを求める。
「ハルカトミユキは万人受けしない」というのは、ファンでさえも声を揃えることだ。しかし、"17才"以降でまた新たな扉を開いたハルカトミユキ。その扉はまだ大きく開け放たれている。
「色づく世界の明日から」で"17才"を聴いて好きになった、という人も見掛けるようになった。
まだまだ、きっと多くの人に届く。
なぜなら、誰もが「狂えない」という苦しみを心のどこかに抱えて生きているのだから。
2019年6月15日。
東京を濡らした雨も乾いていった。
たとえ奇跡を祈らなくても、たしかな命がそこにあれば、雨は上がる。星が降り、虹がかかる。
世界がまた少し輝いて見えた。
【セットリスト】
1. 僕達は
2. ドライアイス
3. シアノタイプ
4. ヨーグルト・ホリック
5. Hate you
6. その日がきたら
7. 春の雨
8. ~interlude~(ピアノソロ)
9. どうせ価値なき命なら
10. 絶望ごっこ
11. 近眼のゾンビ
12. 終わりの始まり
13. 二十歳の僕らは澄みきっていた
14. DRAG & HUG
15. 振り出しに戻る
16. ニュートンの林檎
17. Vanilla
18. 17才
EN-1. LIFE2
EN-2. 世界
【レポ】ハルカトミユキ 溜息の断面図 TOUR 2017-2018 種を蒔く~花編〜final @恵比寿LIQUIDROOM
ハルカトミユキ +5th Anniversary SPECIAL @日比谷野外大音楽堂 2017/09/02
ハルカトミユキ"17才" の歌詞を読みとく アニメ「色づく世界の明日から」主題歌
【感想】ハルカトミユキ「朝焼けはエンドロールのように」
【感想】ハルカトミユキ "手紙" (映画「ゆらり」主題歌)
ハルカトミユキ「光れ」歌詞解釈〜手紙の返事に代えて
ツイート
0 件のコメント:
コメントを投稿