2020年10月15日木曜日

ポルノ全アルバムレビュー6th「m-CABI」









ポルノグラフィティの6作目のオリジナルアルバム「m-CABI」。

mはmusic、CABIはcabinet のことで、キャビネットにテーマ毎に曲が収められている。

シングルA面曲が5曲、「仕切り」として挿入されているインタールード"m-NAVI"4曲含め17曲という大ボリュームなアルバム。

そのため、アルバム1枚聴き終わるとかなりお腹いっぱいになる。

ということで、早速曲ごとに書いていくことにする。


ポルノ全アルバムレビュー6th「m-CABI」







1. m-NAVI 1 "Ride on!! Blue vehicle!"


作曲:岡野昭仁


「OK? Music cabinet!」という掛け声から始まる短いオープニングのアルバム導入曲。

イヤホンで聴くと特に左右で鳴るギターが強調されて聴こえる。

最後にはバイクのエンジン音が鳴り響き、"ハネウマライダー"へ直接繋がる。



2. ハネウマライダー


作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma

20thシングル


このアルバムの推進力は"ハネウマライダー"から始まることに他ならない。
それだけでなく、ポルノグラフィティのキャリアの中でも中期のポルノグラフィティを印象付けた重要な曲でもある。

聴く者にとって、まさに壊れたブレーキのようにこのイントロが一度鳴ればかっぱえびせん状態になる。

メタリックブルーのバイクから、最初のキャビネットは「青」「乗り物」がテーマとなる。

ポルノ全シングルレビュー 20th「ハネウマライダー」



3. BLUE SKY


作詞・作曲:岡野昭仁


タイトルの通り青空のような爽やかな曲調。
系譜としては"ダイヤモンド"や"なにはなくとも"に繋がっていく曲。

「てっぺん」「バス」ということでMr.Childrenの"天頂バス"を思い浮かべたけど、2番でバスを降りて歩き出すところが岡野昭仁らしい。

あと歌詞がスキマスイッチっぽい印象を受けたのは、おそらく同年の夏に"スフィアの羽根"が世に出ていたからかもしれない。

バイバイ僕らの弱い少年の残骸を捨て

というフレーズは「メリッサ」のカップリングの"見えない世界"を思い起こさせる。
燦々と太陽が照らす頂上へ向かうには、決して美しいばかりではない泥にまみれるような経験も必要なのだ。



4. BLUE SNOW


作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma


青い雪というとレリゴーの映像を想像すれば早いと思う。
と思ったけど、あれももう2020年の今からすれば7年前かと凍るような気持ちになる。

雪は基本的には全ての光を反射するから白いけれど、日陰や空気の成分が低い氷だと赤の波長が吸収されて、波長が短い青が反射して際立つ。それがBLUE SNOWの由縁だ。

後に"ゆきのいろ"で、

雪の色は何色だろう?ただの白じゃ冷たくて
この町を覆う雪はどこか暖かく見える


と書くように、こういう部分に新藤晴一"らしさ"があると思う。普通に雪を見ると「わぁ雪白ーい!ヤバーイ」みたいに取るところを、彼には様々な色か見えているのだ。
ちなみに八王子市民である僕は雪が降ると「わぁ雪白ーい!ヤバイ…」という気持ちになる(雪国でないのに雪がわりと降るのでダメージがデカイ)

というよりはサプライズで雪山に連れてという発想自体が、まさにそうなのだが。さすが夕飯食べようと言ってディズニーランドに連れてく男。

なかなか一般的に受け入れてくれる女性は少ない気もする。行き先を言わないで連れてくのを受け入れてくれるのは、ハセキョーと大泉洋くらいではないだろうか。

"We Love Us"っぽいテーマがあったり、Cメロでは直球で"天気職人"が現れたり、アウトロで"天気職人"のイントロが流れたりと、アルバム曲らしい遊びが潜んでいる。



5. m-NAVI 2 "Keep on having fun with the MUSIC CABINET"


作曲:岡野昭仁


"BLUE SNOW"のアウトロからそのまま繋がるインタールード。

同じようにギターのカッティングのリフが使われているが、m-NAVI 1はエレキなのに対してアコギになっているので、とても柔らかい印象を受ける。

そのまま次へ繋がっていく。



6. Winding Road


作詞・作曲:岡野昭仁

21stシングル

このキャビネットは次の"休日"を除き、すべてシングルが詰められている。

"m-NAVI 2~"のアコギの音がイントロに繋がり、心地好い。



7. 休日


作詞:岡野昭仁 / 作曲:ak.homma


実は作曲も岡野昭仁だと思っていた。違った。

シングルが詰められたキャビネットで、僕が"休日"の立場だったら居たたまれなくなりそうな気持ちになるが、"休日"はその穏やかさで、このキャビネットに癒しをくれる。

ライヴの時には2人ともアコギという珍しいものが見れる(アコースティックコーナーを除くとほとんどない)。
サビではハモりもあるので、岡野昭仁と新藤晴一のシンクロ率が高めとなる。

フォーク調で、穏やかな生活を歌う"休日"は、ポルノグラフィティの中でもかなり優しい曲だ。

けれども。

あの頃と比べて僕はどこか違うかな?
なくしたものがたくさんある気がした

というフレーズは、はっとさせられる。

けれど、この中で大切なものを見つめる主人公が微笑ましく見えることだろう。

「ミステリだったら実は主人公が君を殺して外を眺めているシーン」なんて、よっぽどひねくれた人間でないと思わないはずだ。


8. NaNaNa サマーガール


作詞・作曲:新藤晴一

18thシングル

9.DONT CALL ME CRAZY


作詞・作曲:新藤晴一

10. ジョバイロ


作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma

19thシングル


アルバム曲だけでもボリュームあるので割愛。
詳細はシングルレビューを。

ポルノ全シングルレビュー 21st「Winding Road」

ポルノ全シングルレビュー18th「NaNaNa サマーガール」
ポルノ全シングルレビュー19th「ジョバイロ/DONT CALL ME CRAZY」








11. m-NAVI 3 "Ready? Silvia, Geronimo, and Lily?"


作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁


人物コーナーへ続く仕切り曲。

歌詞が追加されてワンコーラスの曲になっている。

『ワンコーラスの曲中で「三重県」「ヒヨコ鑑定」「cabinet」「シルビア」「ジェロニモ」「リリー」を使って歌詞を書きなさい』というお題が出たら、さすがのいしわたり淳治でも書けないのではと思う。

「愛や愛にまつわるもの」BOXばかり埋まるというのは、作詞家としての自嘲が含まれながらも、皮肉であり、結局人類がずっと追い求める永遠のテーマだからなのだろう。



12. 月明かりのシルビア


作詞:岡野昭仁 / 作曲:新藤晴一


野崎ブラザーズと4人でレコーダーに一発録りで演奏された。

意図はアマチュア時代と同じ方法で録音して今の成長してるか見せつけてやる、というものだが、結果圧倒的に成長したのは録音機材の進歩で、思ったよりもクリアな音で録れてしまい困惑したという。

ポルノグラフィティは作り込んだアレンジが主体ではあるけれど、こうしたザラザラした手触りの曲は珍しい。

アルバムツアー前にポルノファンたちは手拍子を必死に覚えたのに、ライヴでは一度も演奏されていない。

2016年の横浜スタジアム「THE WAY」で、せっかくレコーディングメンバーでセンターステージに揃ったのに演奏されなかったので、もう一生やらないのではと危惧している。



13. Mr.ジェロニモ


作詞・作曲:岡野昭仁


僕は歌詞のことを考える時、どうしてもロジックで考えてしまうが、そういった人間にはこういう歌詞は絶対に生み出せないだろう。

歌というものに重きをおき、発声の心地好さを活かした、まさにヴォーカリストならではの曲。歌っててすごく気持ち良さそう。

この曲に岡野昭仁の凄さと魅力が詰まっているし、1番で支離滅裂な言葉の並びにしすぎたので、2番はちょっと分かりやすい歌詞に軌道修正したというエピソードに人柄が出ている。

そんなことを聴いている間に考えるが、最後の「ヨッシャーーーー!」で全部吹っ飛ぶ曲。


14. 横浜リリー


作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma


一転して、ムード歌謡テイスト溢れる曲に。

シタールを使って演奏されるリフが、横浜の舞台ととても合っている。

こちらは新藤晴一の真骨頂といえる、歌詞という限られた文字数で、とてつもなく広がりのあるストーリーを描くという歌詞が特徴。

横浜のホテルで街の灯を独り見下ろす
女は細い指でおざなりのキスの名残を拭う

冒頭の二行だけでこの曲の世界観全てが伝えられていて、本当に秀逸だと思う。これだけでこの2人がどういう関係か想像できてしまうことだろう。

ただ、2004年の映画「ロード88」で新藤晴一がみんな大好きチンピラヤクザの別所さんを演じたせいか、ファンの間では主人公の恋人がどうしても別所さんに見えてしまう現象が発生している。


横浜でライヴをする際には高確率で演奏されるので、アルバム曲ながら実は結構回数を聴いている気がする。



15. m-NAVI 4 "Let's enjoy till the end"


作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 英語補作詞:Quanaca


最後の仕切り曲。
仕切り曲は後に"m-FLOOD"という曲になるが、その原形として最も近いアレンジとなっている。

歌詞は全編英語詞。

内容としては、

世の中にはビートルズ、レディオヘッド、Mr.Childrenとかもあるのに、僕らの音楽を選んでくれてありがとう。メロディ、言葉、演奏は全部愛から生まれたよ、そんなキャビネットたちを楽しんでくれた?

みたいな感じ。すごくざっくりだけど。



16. ライン


作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁


最後のキャビネット。
特にファンからの支持が厚い曲が続く。

まずは、ミュージックステーションでも披露された"ライン"。けれど、正直これはフルで聴いてこそという曲でもある。それは2番の最後にくる、

何も最初からなかった

というフレーズがもたらす効力に他ならない。
このフレーズが、印象的な「好きになりたくなかった」と呼応していて、より切なさが際立つ構成になっている。

片思いの曲だけれど、君から引かれた一線(=ライン)というのは、多くの人が心を重ねることができるだろう。



17. グラヴィティ


作詞・作曲:新藤晴一


元々は、同年夏に行われた横浜スタジアムライヴでギターインストとして披露された。

音源化はされていないがgravityという女性グループへの提供曲でもある。

曲の着想はいしいしんじの小説『ぶらんこ乗り』作中で主人公の弟がつくるお話が元になっている。『ぶらんこ乗り』自体も名著だけれど、このお話があまりにも素晴らしいので、是非読んでいただきたい。





読んでから聴くと"グラヴィティ"の魅力が何倍にもなるはずだ。

書きたいことはたくさんあるが、この曲が好きすぎるあまり、何も書けないというジレンマに陥っている。

兎に角、全人類が聴いて欲しい、というよりは「なぜ聴かない?」と問いかけたいほどだ。



ちなみに初回限定盤には"NaNaNa ウィンターガール"を収録したボーナスCDが付属されている。中古でしかないと思うが、見かけたら是非聴いてみて欲しい。

内容は"NaNaNa サマーガール"のメロディを元に、ウォールサウンドを惜しみ無くパクったパロった内容である(オマージュ)。

ちなみにこのアルバムのツアー「OPEN MUSIC CABINET」では”NaNaNa サマーガール”とマッシュアップしたメドレーアレンジになっているので、見ていない方は下のアフィリエイトからしっかり買って観るように。



★アルバムレビュー


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