2020年4月23日木曜日

ポルノ全シングルレビュー19th「ジョバイロ/DONT CALL ME CRAZY」







18th「NaNaNa サマーガール」でファンの間に若干、不穏な空気が流れていたなか発表されたシングル。

久しぶりのラテンテイストへの回帰と、ロック色が強い両A面で、その空気を払拭した。










1. ジョバイロ

作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ
TBSドラマ「今夜ひとりのベッドで」主題歌


ポルノグラフィティのアイデンティティであり、パブリックイメージのひとつであるラテン要素を、かなり意識的に取り入れた楽曲である。ドラマ「今夜ひとりのベッドで」の主題歌だったので、ドラマサイドからリクエストされて制作されたのかもしれない。

タイトルの「ジョバイロ」はスペイン語で私は踊るという意味の「Yo bailo」からきている。

MVはそれに合わせて物語仕立てになっていて、メンバーは登場しない。






この時の野波麻帆さんが本当に美人だと思う。
そして相手は俺たちの栃木こと袴田吉彦である。

曲ではあなたへの恋心と葛藤する主人公が描かれる。

それは、云わばあなたに「踊らされる」という状態ともいえる。しかし、主人公はそれさえも受け入れて「私は踊る」という意志を示す。それは踊るピエロのように、滑稽なことだろうか。それに対して「それでも夜が優しいのは見て見ぬ振りしてくれるから」と落とすところが絶妙だ。

Wikipediaによるとこの曲が発表された100曲目に当たるとのこと。暇な人は数えてみよう。






なお、「SWITCH」ツアーのDVDのドキュメント映像では体調を崩した岡野昭仁に「お前が歌えなくなったら俺が歌ってやる」という新藤晴一の少年漫画原理主義を味わうことができる。新藤晴一の”ジョバイロ”が聴けるのは「SWITCH」だけ!

ラテンテイストと一口に言っても、"サウダージ"や"アゲハ蝶"のアレンジともまた一味違う。特にヴァイオリンの旋律に絡むバンドネオンの音色が、あなたを想うあまり燃え上がってしまう熱と切なさが見事に表現されている。

ライヴで定番のサビのクラップも、"アゲハ蝶"では「チャチャ チャッチャッチャ」とツースリーなのに対して「チャッチャッチャ チャチャ」とスリーツーとなっている。

"アゲハ蝶"は自分自身と向き合うことがテーマであり、"ジョバイロ"は自身と向き合うことで叶わないものと向き合わなければならなくなる、云わば裏表の構造となっている。

そんなテーマについて紡いだ新藤晴一の言葉たち。


胸に挿した一輪の薔薇が赤い蜥蜴に変る夜
冷たく濡れた舌に探りあてられた孤独に慣れた心


いつにもましてキレッキレである。

全体的に星、薔薇、舞台、夜など十八番ともいえるモチーフが散りばめられていて、歌詞深読み中毒重症患者にとって甘美な毒といえるほど陶酔してしまう。

ということで、ここで語りだすと終わらなくなるので、ちゃんとしたのはまた別に。

そんな歌詞でありながら、誰もが一度聴けば何を表現したい歌詞なのか(「何を伝えたい」ではなく、それが新藤晴一の歌詞を見る上では重要)が受け取れるバランスは、職人芸である。

新藤晴一は天気職人なのだと思う。

僕らに描いた新しい世界を届けてくれる。その空には様々な色が溶けていて、その世界から僕らは様々な想像を膨らませることができるのだ。

もはや歌詞職人だ。天才。人でなし。狂ってる。

と思っていると、もうひとつのA面が顔を覗かせる。










2. DON'T CALL ME CRAZY

作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ
ダイハツ工業『ムーヴカスタム』CMソング







ディストーションが効いたギターリフが印象的。
所謂ハードロック然としながらも、ポップなバランスの楽曲に着地しているところがポルノグラフィティらしい。

"NaNaNa サマーガール"もそうだったが、この頃の新藤晴一はサビの最後に印象的なコーラスを付けることがあるのは、何かの影響なのだろうか。

尚、そのコーラス部分のために当時のサポートベースである野崎森男のところにマイクが設置されていた。そしてレコーディングでも野崎森男がベースを弾いている。ベースに注目すると、ものすごく活き活きしているのがわかると思う。

つまり"DONT CALL ME CRAZY"は、Tama脱退という状況からポルノグラフィティをベースで支えてきた野崎森男へのご褒美ソングである。

一度聴いただけでは掴みきれない歌詞表現たちが豊である。一応なりともテーマが伝わりやすい"ジョバイロ"に比べると、"DONT CALL ME CRAZY"はいきなり倒錯の世界に迷い混んだ気持ちになる。

言うなれば"ジョバイロ"は「美女と野獣」で、"DONT CALL ME CRAZY"は「不思議の国のアリス」みたいなものである。知らんけど。

「CRAZY 」という言葉は、日常でも使われる。
語源を辿ると古ノルド語の「krasa(粉々にする)」が元だという。古ノルド語とは何かという方は近所の古ノルド学者に訊いてもらいたい。

「krasa」から派生して「CRAZY」だけでなく「CRUSH」にも繋がる。

粉々にするということを考えたとき、僕は昔の人々が薬草などを磨り潰して粉々にしている光景が浮かんだ。そこから派生して、"DONT CALL ME CRAZY"の倒錯した世界観のドラッギーさにも繋がっているのではないだろうか。

ドラッグによって歪んだ世界。しかし新藤晴一はそれをあえて利用したのではないだろうか。


「狂っているのは俺か?世の中か?」





2019年に世界を席巻した映画「ジョーカー」のように。

ドラッグを使わなくても、世界は歪んでいる(ドラッグ、ダメ。ゼッタイ)。

悲しきことに、目に見えぬ存在によって、それが浮き彫りになった世界で。

楽しみな予定は全部なくなり、外出は控えろというのに通勤電車だけは普通に動いている。誰もが異常と思う中で、異常な社会が維持され続けている。

心にある何かが粉々にされる。

それでも思う。願うように。


DONT CALL ME CRAZY



3. Free and Freedom

作詞:岡野昭仁 / 作曲:新藤晴一 / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ



カップリング。
実は今までなんとなく岡野昭仁作詞作曲と思ってた。新藤晴一作曲だった。

この曲はライヴで先に披露されている。
C-1000タケダのプレミアムライヴと、「SWITCH」ツアーの後半から演奏されている。ちなみに僕は両方行っていない。
※「SWITCH」ファイナルの日本武道館はリリース後

当時ライヴレポを読んで「ハイヒールを盗め」という言葉があって、どんな曲だよと思っていた。まんま歌詞にあった。






新曲として演奏される中で、岡野昭仁がタイトルを付ける貴重なシーンが、「SWITCH」ツアーの映像作品にも残っているので"Free and Freedom"狂いの方は必見である。岡野昭仁のタイトルをつけるシーンが見れるのは「SWITCH」だけ!

ブルースっぽいアプローチで、どこか土の匂いを感じるような渋いアレンジだ。

アレンジといえば、ファンクラブライヴであるFCUW4で、この曲が1曲目に演奏された。ルーパーを使って様々なものでリズムを録音して重ねたものに、このイントロを弾き出した瞬間の衝撃たるやなかった。

歌詞については「自由」がテーマである。


僕らは一人きりでは生きていけない
なのに誰にも縛られたくない矛盾と
永遠に闘い続ける生き物なんだ
そして未だに答えはない


は好きなフレーズとしても良く挙げられる人間の本質を唄った名フレーズだ。個人的には次のフレーズも大好きである。

「自由」にとって「愛」とはつまり毒入りの果実 それはとても甘い


新藤晴一が歌詞を手掛けた、あの曲を思い出す。


oh,darlin', Love is you
眠れない夜を重ねただけ
愛が育ってくよ悲しみの果実
~"憂色~Love is you~"


唇が憧れた 煌めくくちづけ
僕が隠し持っている 見せてあげようか?
悲しきは残された 僕のこの純情
熟した果実からむせかえる芳香りに Love was born
~"狼"


その果実たちもまた、とても甘美な味を秘めているだろう。

たとえば。

アダムとイヴはその果実、「善悪の知識の木の実」を食べたことで楽園を追放される。アダムとイヴは自由な存在として神が生み出した。

その果実がもたらしたもの。

自由を欲するが、同時に誰かと繋がりたいという欲求を秘めている。人とはそんなアンビバレントな生き物なのだ。だからこそ、人は禁断の果実でさえ食べてしまう。

最近知ったことがあって。

ヨーロッパには「apple of love」(愛のリンゴ)という言葉がある。リンゴというとアダムとイヴ(エバ)においての禁断の果実としてのイメージもある(諸説あり)けれど、実は「apple of love」のアップルはトマトのことなのだそうだ。

16世紀頃ヨーロッパではトマトが入ってきたけれど「毒リンゴ」とまで呼ばれ毒性があるとさえ云われていた。結局メキシコから食べ方も伝来してイタリア人はトマトを投げあうまでになる。

なぜ毒リンゴかというと、トマトは「欲情を刺激する果実」だと思われていたからだ。

余談になるが、そう思うと「白雪姫」が毒リンゴを食べるのは皮肉な感じがする。そもそもディズニー版の「白雪姫」が映画として強烈な毒リンゴを観たものへ植えつける呪いともなっているのがまた皮肉だ(もちろん当時の価値観に基づくものではあるが)。


かのように、自由と愛、愛と果実は繋がっている。

そのためには禁忌でさえ、ときに人は越えてしまう。

一度それを口にしてしまえば、もう戻ることはできない。

たとえ自由を失ったとしても。


天国でも楽園でも何にもなくても
構わない I want to be free


憧れてるFreedom 僕らにとってそれは
何処へ連れ出してくれるのかな


永遠に闘い続ける生き物なのだ。

たとえ答えがなくとも。

僕らは自由なままに。

不自由に酔いしれ続けるのだ。


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