2020年1月21日火曜日

ポルノ全シングルレビュー18th「NaNaNa サマーガール」







本人が思いっきり「力の抜けたものにしようとしたら、抜きすぎて何も伝えてない曲になってしまった」と溢したシングル。

正直、このレビューは悪いことは書かない方針でいるけれど(ネガティブなものってあんまり読みたくないでしょうし)、本人が失敗と認めているのだから、今回はちょっと踏み込んで書いておきたい。

なので、"NaNaNa サマーガール"が好きで好きでたまらないという人には、すみません。



ポルノ全シングルレビュー
18th「NaNaNa サマーガール」











1. NaNaNa サマーガール

作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ







正直に言ってしまえば、シングルとしてかなり弱い。

パンチがあればいいという訳ではないけれど、やはりシングルとして切る以上、そこはもう少しやりようがあったのではと思えてしまう。

トーキング・モジュレーターを用いたギターや、コーラスなど印象的な部分もあるけれど、どこか空回りしてしまっている印象となる。

よく言えばさらっと聴ける、悪くいえば何も心に残さず終わる、この曲については、ライヴではめっちゃ楽しいという以外であまり書くことがない。

なので、ここで向き合っておきたかったことに触れようと思う。


"NaNaNa サマーガール"や"Ohhh!!! HANABI"のような、新藤晴一がこの手の「ノスタルジー」を描いた歌詞が、個人的にちょっと小恥ずかしい気持ちになってしまう。

"ハネウマライダー"や"ベアーズ"もそのきらいがあるが、それでも「明日の忘れ物は今日にある」とか、「自慢じゃないけど~」の辺りで普遍性や共感性を持たせているので、なんとか保っている部分がある。

たとえば夏の代表曲"ミュージック・アワー"の歌詞は、「深読みしなくてもいい」という言葉のとおり、とてもストレートだ。けれどそこに、人の恋に対しての普遍的な想いがのせられている。だからこそ、いつの時代になっても色褪せない魅力を持つ。

他にも"アポロ"ではあえて過去の出来事を描いたのは、人類が月に行くようになってもこれからの未来も、過去と変わらずに人は愛のカタチを探し続けていくという対比が活きてくるからだ。

それに比べると上記の2曲は、どこか普遍性を失い、上滑りしてしまっているように感じる。描こうとしたノスタルジーが新藤晴一という作詞家の作家性と食い合わせが悪いものなのではないだろうか。


新藤晴一はフィクションを描く人間だ。たとえばここで「昭和的光景」を描こうとしたのかもしれない。しかし、そこで選んだのが「まゆげ犬」というのは本当に「当たり前にあった光景」だろうか。

本当にノスタルジーを描こうとすれば、井上陽水の"少年時代"や久石譲の"Summer"のように、経験など有無を言わさずに本能的な琴線に触れるノスタルジーでなければならない。

"NaNaNa サマーガール"が上滑りしてしまっているというのは、そこに失敗してしまっているからだと思う。

極論になってしまうけど、ファンとしてはやはり"カメレオン・レンズ"のような歌詞がくれば「歌詞ヤバい聴いて!」と言えるが、"NaNaNa サマーガール"を同じ熱量ではとても薦められない「Gカップがいいのかな?」と思われる。

このラインって個人的には重要で、人に薦めるのは憚られるというのが、"NaNaNa サマーガール"や"Ohhh!!! HANABI"に感じる小恥ずかしさの正体なのだと思う。


しかし、それでも新藤晴一という人の言葉へのこだわりと力はファンならばよく知るだろう。ではなぜそんな新藤晴一が狙いを外してしまったか。

それは新藤晴一という人が普通の人間ではないからだ。

いつも、新藤晴一という人の世界を見る視点がすごいなと思えてしまう。コメントなどでもよく「その角度があったのか」と唸らされる。この人には世界がどう見えているのだろうと。正しい言葉ではないけれど、良くも悪くも「浮世離れ」している存在だ。

そんな人がフィクションとして思い浮かべた普通の人のノスタルジーが、普通なはずないのだ。嫁が長谷川京子だぞ。

想像のノスタルジー、或いはある時代以外にはないノスタルジー、そこに目的と手段の致命的な齟齬が生まれるのだと思う。

改めて好きな人、本当に申し訳ないです。

あくまでも個人的な想いなのでご理解を。これだけ曲があるならそういう歌詞もあって良しという考えもあるし、深読みばかりではシンドイという人もいるだろう。

いや、でも夏の野外で聴くには本当に気持ちいい曲だから、嫌いというわけではないんですよ。それだけは。

あと沖縄公演の映像を使ったPVもとても好き。









2. PRISON MANSION

作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ


そんな"NaNaNa サマーガール"のモヤモヤを0.5秒で払拭"PRISON MANSION"。「ナニコレ一生スキ」と思考が停止してしまう。こういうのでいいんだよ。いよっ!天才!

誉めたので先へ進もう。

軽やかな夏歌から一変して重厚なロックサウンド。
比較的この頃辺りでポルノグラフィティは「音が軽くなった」と言われることが多かったけれど、時折こうした曲が入ってくるので安心できる。


2Fにはトイプー好きのSoldier
その手前には引きこもりのReggae Men
毎日が賑やかなここは PRISON MANSION
まだ空室は有るさ どなた様でもどうぞ


MACの包丁のような切れっぷり。
こういうのがいいんだよ。

世界の縮図という言葉があるけれど、新藤晴一が"PRISON MANSION"で描いたのは、等身大の世界そのものだ。

望むなら入れる、しかしもう戻ることはできない。
世界を描いているようで、現世そのものが生まれてから死ぬまで出ることのできない閉じた空間であるとも描く。

そうした時に、今の目線で見ると"フラワー"において書かれた終わりなき命の繋がり。それは死してなお、そこに囚われているというものにも見えるようになる。


立ち上がったサルはまだ変化を求めてる


これは"アポロ"の「変わらない愛のカタチ探してる」にも通じる。人は変わらないまま、進化と発展を繰り返してきた。

なぜこの対比が真っ先に思い浮かんだかというと理由がある。
2019年のAmuse Fesは「愛とか恋とか」というサブタイトルがつけられた。各アーティストがそれぞれの愛とか恋とかを楽曲に乗せて届けたなか、ポルノグラフィティが1曲目に選んだのが"PRISON MANSION"だったのだ。

そしてそのライヴは"アポロ"で幕を閉じた。僕はこの流れで愛とか恋とかを抱く人類そのものを描いたのではないかと印象を受けたのだった。

ひげのbabyも、私服が白いWedding DressのOLも、Ownerの俺も、どんな人であっても変わらない、逃れられない宿命。それが愛や恋なのかもしれない。


いまでも空へ増築中 PRISON MANSION


という歌詞は"アポロ"的な文明発展や、タワーマンションのような高層建築への皮肉にも見える。ならば「正直に生きていこうと願えば願うほど」というに対するアンサー、それが。


生まれた瞬間の記憶はなぜ消えてしまうのだろう?


もはや斬鉄剣の切れ味。
純粋とは、正直とはなんだろう。人間の本能はどこへ向かうのだろう。

たしかなことはひとつだけ、今日もPRISON MANSIONの入居者は増えているということだけだ。



3. 稲妻サンダー99

作詞・作曲:Porno Graffitti / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ


CDを家で開封し、歌詞を目にした瞬間にいよいよとち狂ったか?とわりとストレートに心配した。

実はしれっと作詞作曲が「ポルノグラフィティ」となっている唯一の曲。

1分39秒(99秒でタイトルの由来)という短い曲。

サウンドはもろにベンチャーズをオマージュしている。

ライヴで聴くと雨に濡れそうな気がするので、SWITCHツアー後半のようにオープニングSE辺りの方がテンション的にはちょうどいい気がする。

どう分担してるんだよと思う歌詞については、以前がっつりと考察しているのでそちらを。


稲妻サンダー99歌詞解釈(?)〜99秒、33文字の歌詞に3000字書いた全記録


一番狂ってるのは、僕だったかもしれない。


ということで、ここでCDレビューを終えよう。

50枚もシングルがあれば、こういう軽やかなのもあっても良かったかもしれないとちょっと思い始めてきたけど、シングルとして人に薦めるにはやはりちょっと厳しいと思えてしまう。


★シングルレビュー


ポルノ全シングルレビュー 1st「アポロ」
ポルノ全シングルレビュー 2nd「ヒトリノ夜」
ポルノ全シングルレビュー 3rd「ミュージック・アワー」
ポルノ全シングルレビュー 4th「サウダージ」
ポルノ全シングルレビュー 5th「サボテン」
ポルノ全シングルレビュー 6th「アゲハ蝶」
ポルノ全シングルレビュー 7th「ヴォイス」
ポルノ全シングルレビュー 8th「幸せについて本気出して考えてみた」
ポルノ全シングルレビュー 9th「Mugen」
ポルノ全シングルレビュー 10th「渦」
ポルノ全シングルレビュー 11th「音のない森」
ポルノ全シングルレビュー 12th「メリッサ」
ポルノ全シングルレビュー 13th「愛が呼ぶほうへ」
ポルノ全シングルレビュー14th「ラック」
ポルノ全シングルレビュー15th「シスター」
ポルノ全シングルレビュー16th「黄昏ロマンス」
ポルノ全シングルレビュー17th「ネオメロドラマティック/ROLL」

【感想】ポルノグラフィティ「オー!リバル」
【感想】ポルノグラフィティ「THE DAY」
【感想 】ポルノグラフィティ「LiAR/真っ白な灰になるまで、燃やし尽くせ」
【感想 】ポルノグラフィティ「キング&クイーン/Montage」
【感想】ポルノグラフィティ「カメレオン・レンズ」(主にPVと"前夜"の感想として)
ポルノグラフィティ"カメレオン・レンズ" 歌詞徹底解剖 新藤晴一文学の集大成
【感想】ポルノグラフィティ「ブレス」『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』主題歌
Zombies are standing outの歌詞の意味を徹底的に深読みする《前編》或いは《本編》
フラワーの歌詞について本気出して考えてみた~映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」主題歌
ポルノ全シングルレビュー50th「VS」



このエントリーをはてなブックマークに追加
 












0 件のコメント:

コメントを投稿