神曲という言葉が苦手だ。
人が使ってるのを見るのには良いのだが、自分の言葉として使うのが、である。
ちなみに「神ってる」は普通に好きではない。
色々な音楽を好きになり拗らせてきたので、あまり気軽に使うのは憚られる面がある。
たとえば"アゲハ蝶"なんかは、もう僕は神の啓示を受けたような衝撃だったので、万感の想いを込めて「神曲」だと思っている。
というくらいの拗らせ方をしているので、あまり簡単に「神曲」という言葉を使えないのだ。いくら八百万神の神がいるといっても、神のバーゲンセールをするわけにはいかない。
そんな生きづらいだけの思想を胸に今日もポルノグラフィティを聴いている。今日は「RHINOCEROS」にしよう。
♪"ANGRY BIRD"
神曲や……
めっちゃ神ってる……
ということで今日は"ANGRY BIRD"について語ろう。
ANGRY BIRDというアーティストの強権
"ANGRY BIRD"はポルノグラフィティの10thアルバム「RHINOCEROS」の1曲目に収録されている。
「RHINOCEROS」を引っ提げたツアー「The dice are cast」でもオープニングナンバーとなっている。
この曲がその座についたのには、経緯がある。
当初スタッフの意向としてはアルバム1曲目は"オー!リバル"や"Ohhh!!! HANABI"のようなキャッチーな曲をすべきという意見だったそうだ。
それはアルバムの視聴する時に、より人を惹き付けたいという思惑からである。もちろんそれもアルバムの形としては悪くはない。
CDが売れない時代に少しでも売ろうとするのは、レコード会社にとっては、重要な要素なのだ。
しかし、そこに新藤晴一は異議を唱えた。ちなみに岡野昭仁はアルバムの発売をポロリした。ロックである。
本人の言葉を使えば「アーティストの強権」を使って"ANGRY BIRD"を1曲目に持ってきたという。
なぜ、そこまでこだわりを持ち、"ANGRY BIRD"を1曲目に選んだのだろうか。
その答えは、君が一番よく知ってるんじゃないかな。
すみません、死にます。
しかしながら、それは聴いた者にしかわからない、裏を返せば聴けばわかるものを感じとることができるだろう。
"ANGRY BIRD"、その1曲目が必然であることが必要な理由、そして僕が魅力に感じるそれは「よくわからない」という感覚にある。
"ANGRY BIRD"のよくわからなさ
"ANGRY BIRD"はどんな文脈で曲ができたのか、よくわからない。
相変わらず白眉な篤志によるトラックメイキングとそれに対するバンドサウンドの調和のアレンジ力。この時点で恐ろしい完成度なのである。
しかし、こうしたサウンドはあまり「これっぽい」という何かの流れを受けて生まれた音楽には聴こえない。
たとえば"オー!リバル"の流れはEDMを用いて、過去のラテン曲を意識的にアップデートさせたというような文脈にある。しかし"ANGRY BIRD"はそれが感じられない。そこそこ音楽好きのつもりでいるが、突然変異のように現れた印象なのだ。
強いていえばThe Rolling Stonesをミクスチャーロックのテイストでアプローチした雰囲気ともいえる。ただ、最近の海外の音楽事情には明るくないので、もしかしたら、そういう文脈を無知たる僕が知らないということもあるだろう。
それにしてもポルノグラフィティから言ってもかなり異質な曲だ。しかし、本来そう感じるべき曲をそうと聴こえさせないのが10枚ものオリジナルアルバムを築いたポルノグラフィティであるし、それを思うよりも前に感じさせる「ただ、ただ格好いい」という感想に打ちのめされてしまう。
カラッとしたギターサウンドが、歌詞の焦燥感と相まり、それを体現する岡野昭仁のヴォーカルとしての未だ途絶えぬ成長をまざまざと見せつけられる。
歌詞については書いていいならあと5000字書くが、そうもいかないので、端的に。
世界と自分。そこにある自己嫌悪。
卑屈なまでに謙った自分自身。周りのように上手く振る舞えない、でもみんな仮面を剥ぎ取ればみんなそんな不安を抱えて、自分を隠して生きてるんだろ?という叫びに似た問い掛けが唄われる。
"ANGRY BIRD"はまさに理想郷であり、ファンが求めていたポルノグラフィティがそこにある。
聴いたファンなら、その音にポルノグラフィティがまだ歩みと成長を止めないという宣言、いや宣戦布告にも聴こえるだろう。
しかし、パブリックイメージとしてのポルノグラフィティの印象はそうではない。確かにアルバムとして、近年でも希に見るヒットとなった"オー!リバル"などの方が「キャッチー」であり、世間的なポルノグラフィティのイメージに沿う形になる。
なので、スタッフ側の意見も真っ当なものだ。
さて、そこで新藤晴一はなぜアーティストの強権を使ってでもこれを1曲目にしたのか。
それは、そこにアルバムへのロマンを込めたからである。
今の時代はアルバムよりも曲単位で音楽を聴く人が増えた。そうした時代の変化に「RHINOCEROS」はあえて逆らうように1枚のアルバムとしての強さを持っている。
そんな時代だからこそ、あえてアルバムで聴く喜びを知る人へそれを伝えたかったのではないだろうか。同時に、アルバムを聴くという喜びを広げたかったのではないだろうか。
アルバムの1曲目というのは、それほど特別なものなのである。その音が鳴った瞬間に、世界の自分にとっての全てを変えてしまうような。
何回聴いたかわからない「RHINOCEROS」だが、僕は"ANGRY BIRD"のイントロが流れるたびにワクワクしてしまう。これからもきっと同じだろう。
大袈裟にいえば、啓示を受けたような感覚になるのだ。とりわけ「The dice are cast」のオープニングのイメージが強いからかもしれない。
正直なところ、ライヴでどうなるのだろうと、疑心暗鬼でもあった。
これほど打ち込みが強くでていて、それを生で再現しようとするのは、ちょっと無理じゃないかと思っていた。舐めてた、チームポルノを。
紛うこと無きまでに、完璧に理想の"ANGRY BIRD"がそこに鳴っていた。いや、理想なんてものではない。そんなことどうでもいいとさえ思えるほど、全てを掴まれた。
もしかしたら、恋なのかもしれない。
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