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2019年2月12日火曜日

内藤了『BURN 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』ネタバレ感想、本編完結記念 シリーズ総括感想







アメリカのドラマ「X-Files」が好きだった。
小学生の時に見て、その物語に年甲斐もなく打ちのめされて、レンタルして貪るように見ていた。

FBIのモルダーとスカリーが捜査するのは、ただの事件ではなく「オカルトめいた」事件である。宇宙人、モンスター、異常犯罪者、政府の陰謀などを相手に2人はいつまでも闘い続ける。

そんな自分だから内藤了『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』に惹かれたのは当然なのかもしれない。










途中からネタバレ入ってきますのでご注意を。



内藤了『BURN 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』ネタバレ感想








『BURN』あらすじ・感想








犯罪者が自分が犯した犯罪をなぞるような方法で自殺する事件が発生、そんな猟奇殺人がテーマになっている。

それを追うのはまだ新米の刑事、藤堂比奈子(とうどうひなこ)である。


そのストーリー展開は海外の刑事ドラマを思わせるようなテイストであり、それが好きな母もとてもハマったシリーズであった。

このシリーズで好きなポイントは舞台が八王子であることだ。八王子西署は架空の警察であるが、時折出てくる町名などは馴染みのあるものなので、余計に入れ込んでしまう。

なお、本当の八王子は広大なため八王子警察署、高尾警察署、南大沢警察署という3つの警察署がある。




では、ここからはその本編ラストになった『BURN』について、ネタバレを交えて書いていこう。


2016年に発売した7作目にあたる『BACK』で起きた病院での大量殺戮事件に端を発した、犯罪組織CBET(スヴェート)との直接対決が描かれる。

話を整理するとスヴェートはバイオテロを企んでいる。現在の首領はミシェルという背の高い男である。

ミシェルが日本で狙っているのは人を殺すことに躊躇を抱かないような人間の脳である。そこで目をつけたのが2作目『CUT』の犯人である佐藤都夜の脳、そして『ZERO』と『ONE』の犯人であり、ミシェル自身から作られたクローンである永久、そして『ON』の犯人であり、比奈子の想い人でもある中島保であった。

偶然にも全ては「精神・神経研究センター」に集結していた。それをミシェルは狙う。厳しいセキュリティをどうやって乗り越えるか、また都夜の脳と永久の存在は知っていても、


保の存在はまだミシェルには知られていなかったが、実はスヴェートの工作員であったセンターで死体の研究をするスサナから、そのことが判明してしまう。

そのため、比奈子はミシェルに狙われ、拉致されてしまう。ミシェルは冷凍された死体を運ぶ業者を襲って殺し、その車でセンターへ比奈子を連れ込む。


そしてセンターを舞台に猟奇犯罪捜査班とスヴェートの死闘が始まる。

とても映像的で、映画さながら派手な展開となる。
叶うならドラマ版の劇場版で映像化して欲しかったものだが、スヴェート関連を全て描くのは尺は足りないし、タイミング的にも難しそうである。

そもそも死体やジョージの虫の部屋など、映像化するのは困難とも思われる。

最後の舞台に向けて、シリーズの全てが総括され、取り込まれている。なので、読んでた人でも可能であれば一度シリーズを読み直しておいてから読んだ方がいいかもしれない。もちろんスピンオフも含めて、である。

スピンオフでありながら、ジョージと死神女史(とガンさん)の関係は『パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子』を、23年前の魔方陣殺人は『サークル 猟奇犯罪捜査官・厚田巌夫』を読んでいなければわからない部分も出てくることだろう。


















集大成




というように、ありとあらゆる要素が詰め込まれている。

それは、まるでシリーズを愛して読んできた読者を喜ばせるかのように。

スヴェートとの決着よりも読者をやきもきとさせていた比奈子と保の関係。結果的に一般的な幸せとは違ったとしても、この2人にしかない、かけがえのない幸せを迎えるラストは、胸が熱くなる。

もちろん、中島保の犯した罪は決して赦されるものではない。
それでも凶悪な犯罪を犯した者、それに対する"赦し"がテーマな本シリーズにおいて、それは読者への大きな問いかけとなる。

内藤了は猟奇殺人をテーマにしながらも、その根底には人が犯罪を犯す動機に焦点を当てている。

それは『BURN』のあとがき、或いは『COPY』発売時のインタビューでも伺える。


内藤:内藤は偏執的猟奇マニアだと思われるかもしれませんが、そうではありません。
動機や心理が初めにあって、それを事件へ結んでいきます。作中で野比先生がする「潜入」の逆バージョンが、発想の元になっています。


そういった意味で見ると、そんな犯罪者たちと対峙し成長してきた比奈子たちだからこそ、理由の通じない絶対悪として登場するミシェルに困惑する。

人を殺めることに意味を見出ださない存在は、猟奇犯罪捜査班にとって、大きな脅威となる。そこで比奈子がミシェルに対し下した決断は、比奈子を苦しめることにもなるが、東海林の「殺したんじゃない。救ったんだ」という言葉と絡まり合う。



藤堂比奈子




永久と金子がマイクロチップをリセットしたことで、野比先生こと中島保はセンターを出ることができた。そして、比奈子と保は子どもをもうける。

しかしながら、保は戸籍上存在しない人間なので、比奈子は未婚の母ということになる。

刑事を一度辞して、子育てとあらためて試験を受けることを誓い、比奈子は八王子西署を巣立つ。

こうして、藤堂比奈子の物語は終わった。

送別会のシーンは、シリーズを読んできたものにとっても感動的だ。それぞれから贈られた言葉は、比奈子にとってだけでなく読者にも響くものである。

キャラクターたちも読者も藤堂比奈子という女の子の成長を見守ってきた。凶悪な犯罪に立ち向かい、何度も傷ついた姿を。

そして、比奈子が巣立っても、物語は終わることはない。

残されたキャラクターたちの物語は続く。きっとこれから、あらゆる作品で読めることだろう。もしかしたら比奈子も、またどこかで。


本来はシリーズになるはずがなかった物語。それがこうして10作のシリーズとなった。それは『ON』の段階で作り上げられたキャラクターたちが、すでに魅力的であったといえるからだろう。


また今月には新しい警察シリーズがスタートする(筆が早すぎる)。






現実では毎日のように悲惨な事件が起きている。しかしながらフィクションのミステリーの世界ではどんな悲惨な事件でもエンターテイメントになる。

そんな不思議な感覚を抱いてしまう。

人はなぜ過ちを犯すのか。

当たり前に分かってるはずの、命の大切さ。

辛い現実と向き合うことの大切さを、僕らは見つめ直さねばならない。


今までもこれからも、自分にとって大切なシリーズになった。



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