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2021年2月11日木曜日

Mr.Children ” DANCING SHOES”の歌詞の意味を考察する







アルバム「SOUNDTRACKS」についての書きかけの記事があるのだが、どうにもしっくりこないまま止まってしまっていた(諸事情でブログ自体も止まっていたが)。

結局のところ、1曲ごとに書きたいことが多くあり、1つの記事ではまとまりきらないのだ。

ということで気を取り直し、オープニングナンバーである” DANCING SHOES”について書きたい。




「重力と呼吸」~「SOUNDTRACKS」





イントロが鳴った瞬間、心が震えあがり思わず泣けてしまった。

ローよりのギターのアルペジオは、まるでレディオヘッドのようだ。
楽器の音がとても生々しく、可能であればなるべく良い音で聴けるヘッドホンやスピーカーで聴いて欲しい。

前作「重力と呼吸」や先行シングルは比較的「陽」を感じさせる曲が多かったが、” DANCING SHOES”は明らかに「陰」といえるだろう。近年でもなかったわけではないが、これほど「陰」を感じさせる曲はなかった。

ここでいう「陰」というのは「暗い」という意味ではなく、心の内へ内へと向かうような曲という意味合いだ。内なるものを突き詰めた先に、力強い感情が生まれ、放たれる。

歌い回しもどこか昔のMr,Childrenを感じさせて「DISCOVERY」の頃に近いように感じた。

かと言って意図的な判断というわけではなく、曲に合わせた結果、自然にそういったスタイルが合ったのだろう。オープニングナンバーとしては「SUPERMARKET FANTASY」の” 終末のコンフィデンスソング”の雰囲気にも近いなと感じた。

曲自体は「重力と呼吸」の時期にあったというが、このアルバムのカラーを決定づける上でも、収録を見送ったのは正解だったといえるだろう。なぜなら。



このまま
苦しみに息が詰まったときも
また姿 変えながら
そう今日も
自分を試すとき
~”皮膚呼吸”




「重力と呼吸」のラストナンバー”皮膚呼吸”の最後のフレーズから繋がるメッセージとしても秀逸だからだ。しかもそれが単純に「その時がやってきた」ではなく、「その時が来るのをまだ待っている」という繋がりをしているのだ。

個人的に「重力と呼吸」は25年というキャリアの先にあった、新たなデビューアルバムとして受け取っていた。

だからこそ、そこにまだ余地のようなものも感じていて、その余地が如何なく発揮されたのが「SOUNDTRACKS」というアルバムだった。だからこそ、僕はこのアルバムを聴き終えてぐうの音も出ないほど打ちのめされてしまったのだ。

さて、では歌詞について見ていこう。









国民的バンドという檻




自分が抱いている「重力と呼吸」における最大の不満点、それは歌詞についてだった。
アルバムの記事でも引用したが、再び言葉を掲載しよう。



それに伴って歌詞の書き方も変わってきた。「重力と呼吸」では、生きるとは、自分とはという大きなメッセージは影を潜め、ごく身近で具体的な景色を歌う歌が目立つ。

「リスナーの想像力をあまり信用していないっていうか、もうきっとここまでのことを深く掘り下げて書いても理解しないだろうな、ただ通り過ぎていかれるだろうなっていうのがあるんです。だから、意図的に淡泊に言葉を書いているところはあります」

「だから、意図的に淡泊に言葉を書いているところはあります」という言葉の通り、正直なところ言葉に打ちのめされるような歌詞はかなり少なかった。それこそ”皮膚呼吸”くらいの歌詞を自分は望んでいたのだ。サウンド面が素晴らしかっただけに、歌詞でも圧倒されれば僕は諸手を上げて喝采を送っていただろう。



引用ここまで。

そして今回である。どうだったか。

やられたぞ。

これほどまでに万感胸に迫るものがくるとは、思ってもみなかった。

自虐っぽいニュアンスの歌詞も、ある種Mr.Childrenという存在を逆説的に定義づけさせるようで、それがまさに「SOUNDTRACKS」というアルバムのコンセプトを反映している。

それはまさにMr.Childrenが「リスナーの人生に寄り添う」存在であることに他ならない。

詳しくは”Brand new planet”か” Documentary film”辺りの歌詞について書く時に譲るが、Mr.Childrenは「国民的バンド」と呼ばれる存在となった。しかしMr.Childrenというバンド、もとい桜井和寿というミュージシャンは社会に対してもっとエゴイスティックな存在でもあったのだ。これは揶揄で言っているのではなく、音楽とは表現というのはそういった行為なのだ。

「国民的バンド」という位置づけは、ある意味ではまさに「自分らしさの檻」であり、檻の中のもがきこそが” DANCING SHOES”の歌詞なのだ。前置きが長くなってしまったが、これを踏まえると歌詞の意味が見えやすくなるはずだ。



Hey girls, come on
Let you wear the dancing shoes.
その両手に繋がれた鎖
タンバリン代わりにして
踊れるか?
転んだってまだステップを踏め!
無様な位がちょうど良い
さぁ Do it, do it, do it, do it!!




檻であり、自分を繋ぐ鎖という枷、それは「国民的バンド」という虚像がもたらすものだ。
その葛藤は、この曲に繋がるといえるだろう。



今日もハイテンションロックンロールスター
虚像を背負ってツイスト&シャウト
みんなでファッション舞い上がれ
落ちる定めのヒットチャート
~” Dance Dance Dance”




” Dance Dance Dance”というタイトルはおそらく村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』から来ているのではないかと思っているが、改めて考えると「Dance」という行為には3つあると思えた。

「踊る 踊らされる 躍らせる」

タイトルの” DANCING SHOES”は定型句として、曲のタイトルなどでも見かけるが自分は真っ先にArctic Monkeysが浮かんだ。

「音楽」「ダンス」というものは紀元前から存在したと云われている。

時代が変わっても、受け継がれてきた。いや、人が決して失わなかったものだ。折しも、コロナ禍で星野源の”うちで踊ろう”が話題になったり、どんな時代になっても、失われない想いの象徴でもある。葛藤の中で、人はそれでも踊る。

先にも出した村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』にはこんな言葉がある。



「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言ってることはわかるかい? 踊るんだ。踊り続けるんだ。なぜ踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界でしか生きていけなくなってしまう」
~村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』より




音楽は不要不急の存在と云われた。
音楽に意味はないかもしれない、しかし意味がないからこそ意味を超えることができる。

桜井和寿の病気などで一時期の活動休止はあったが、Mr.Childrenは音を鳴らし、僕らは踊り続けてきた。


四半世紀やってりゃ色々ある
あちらを立てれば こちらは濡れずで
破綻をきたしそうです



そんな葛藤を、こんなに鮮やかに皮肉る、なんて痛快なフレーズだ。

大抵、”行為”そのものをロマンティックな比喩にする歌詞はよくあるけど、ミュージシャンのジレンマを”行為”に置き換える歌詞はとても斬新だと思う。

たとえば“I’ll be”で「心はいつだって捕らえようがなくて/そんでもって自由だ」と唄われたように、繋がれた鎖を鳴らし抗うように踊る。国民的という檻に捕らわれず、Mr.Childrenはまた新たな一歩を踏み出したのだ。

だからこそ” Dance Dance Dance”では「さぁ 踊ろう」と誘いは、”DANCING SHOES”では「踊れるか?」という問い掛けに変わったのだ。そしてその先で「Do it!(やれ!)」と高らかに叫ぶ。その時は息を殺して待っていては訪れない。

CD音源でこれなのだから、ライヴで聴いたら魂が震え立つと思う。

正直なところ、「終わり」というテーマを内包しているという情報だったので、アルバムを聴くまで後ろ向きな内容だと勘ぐっていた。しかし結果的には、全くそんなことはなくて「終わり」というテーマがあるからこそ、”Birthday”のような「誕生」の曲に、もう一つのテーマである「希望」が見えてくる。

だからこそ、” DANCING SHOES”は問い掛ける。

四半世紀を超えた歌声が僕らを貫く。



転んだってまだステップを踏め!
無様な位がちょうど良い
さぁ Do it, do it, do it, do it!!





【余談】


歌詞でサルバドール・ダリが出てくる。
個人的にはとても面白くて好きなアーティストなので、オススメをしておきたい。

ちょうど、敬愛する「山田玲司のヤングサンデー」でダリ特集をやっていたので、無料部分だけでも見て欲しい。どんな人柄なのかが伝わるはずだ。





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