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2019年9月3日火曜日

きのこ帝国"クロノスタシス"歌詞解釈 「"クロノスタシス"って知ってる?」







夏の夜が好きだ。

昼間の暑すぎる日差しが落ち着き、少し涼やかな空気を肌で感じながら、歩く街。

取り留めのない会話、夜の真ん中、そこが世界になる。

きのこ帝国の"クロノスタシス"はそんな夏の夜特有の空気を纏う。夏になると、ずっと聴き返してしまう名曲である。







きのこ帝国"クロノスタシス"歌詞解釈 
「"クロノスタシス"って知ってる?」







夜の真ん中








惜しくもきのこ帝国は活動休止してしまったが、ヴォーカル佐藤千亜妃がソロ活動になってからも演奏されている。

ゆらゆらと漂うようなメロディに、空間系のエフェクトを効かせたギターが寄り添う。

メロディ、歌詞、アレンジが完全なる三位一体となって、曲の世界観を鮮やかに映し出す。どこを切り取っても完璧、そんな感想さえ抱いてしまう。

曲の中で起きていることは、全て他愛ないものだ。

真夜中、コンビニで350mlのビールを買い、きみと歩いていく、ただそれだけの曲だ。

それなのに、曲を聴き終わった時に感じる曲の奥行きがなんと深いことだろう。

それをもたらしているのは他ならない、この問い掛け。


「"クロノスタシス"って知ってる?」


その問いに、きみは「知らない」と答える。

それは、答えを求める問いではない。自分に言い聞かせるための願いでもある。


クロノスタシス
名前はギリシア語の「クロノス」(時間、χρόνος)と「スタシス」(持続、στάσις)に由来する。よく知られる例として「時計の針が止まって見える現象」がある。アナログ時計に目を向けると、秒針の動きが示す最初の1秒間がその次の1秒間より長く見えるというものである。



時間が止まって欲しいという願いは、しばしば歌詞の世界で表現される。真っ先に思いつくのは森雪之丞作詞、布袋寅泰の曲"POISON"だ。


Baby…銀の指輪で
12時の針に手錠を掛けろ
時間を 止めた時から
物語の扉が開く


まさに時計の針が0時を差す瞬間、物語は動き出す。

それは時間に縛られない2人だけの終わらない世界への想いだ。











きみとあなた




それ以上もう何も言わないで


この一文で、きみが他愛ない話をずっとしていたことが描かれる。

言葉は口にした瞬間に消えていく。
きみが言葉を出すほど、時は進む。

今日が昨日になり、明日が今日となる。


Holiday's midnight
今夜だけ忘れてよ 家まで帰る道


夜道を夢のように漂っている今だけは、日常が非日常に感じられる。
それでも、家に帰ってしまえば、そこに日常が待っている。

それは、「日々 あなたの帰りを待つ/ただそれだけでいいと思えた」と歌われる"東京"の日常を思わせる。







曲が続いていることもあるが、"東京"と"クロノスタシス"をどうしても重ねてしまいたくなる。

我ながらこじつけになってしまう部分もあるので、おそらく違うかとは思うが、最後に書いておく。


"東京"も「8月の日曜」とある通り、夏の休日。

"クロノスタシス"は土曜、"東京"は日曜を歌っているように思えるのだ。

快晴となった土曜の深夜、きみと歩く道。それが、どこか夢のようであると主人公は思う。そうすると、"東京"のこのフレーズがどうしても思い返される。


8月の日曜 これは全部
夢かもしれないなって
時計のアラームを止める


時計のアラームが日々を取り戻させる。

しかし、それは「土曜の翌日の日曜」とは限らない。


"クロノスタシス"では「きみ」、"東京"では「あなた」と歌われる。

それぞれ違う世界を描いていると言ってしまえばそれまでだが、それがもし違ってたとしたら。

思いついた可能性は2つ。

まずは、きみがあなたになったという可能性。つまりは、"東京"は"クロノスタシス"のずっと後、2人が日々を重ねっていった先の話ということ。

きみとビールを手に歩いた、2人が2人だけの世界に浸った夜。いつしか「きみ」は「あなた」となり、あなたの心に影が宿っていることを感じてしまう。しかし、主人公はそれに気づかないふりをして、日々あなたの帰りを待つ。


もうひとつ。
それは"クロノスタシス"の「きみ」が、"東京"の「あなた」であるという可能性。つまりは、この2曲は2人それぞれの目線で語られるということだ。

そうした時に"クロノスタシス"の主人公の目に写る「きみ」は、"東京"の主人公だろうか。もし、それがあなたの心のなかにいる他の誰かの思い出だったとしたら。


このように、色々と妄想空想を広げていくと、こちらの方が取り留めのない話になってしまうので、この辺で終わることにする。

こじつけだったとしても、こうして歌詞の解釈を考えるのは、改めて楽しいものだ。

そんなことを思って、夜の街を歩いていた。



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