2019年6月7日金曜日

【感想】なきごと「nakigao」 白状しますと、すみません今年のベストが出ました








いつものように、世界で好きなスポットトップ3のひとつタワーレコード新宿店内を徘徊していた。

お目当てのCDを購入する時に、必ずフロアを色々見て回る。そして、気になるバンドがいれば、なるべく買うようにしている。

これだけCD不況と言われる時代であっても、発売日になれば多くの人がCDが並ぶし、レジは長蛇の列となる。
CD派を貫いている身として、いつ見ても嬉しい光景だ。

そんなCDたちの中で何を基準にするかといえば、ほとんど直感に従う。下調べをしていっている訳ではないので、ジャケットとかアー写、ポップなどで直感に来るものを選ぶ。それで引っ掛かったものを試聴する。

その試聴で理屈ではなくピンとくるかどうかで購入するか決めている。

前置きが長くなったが、そんな経緯で購入したCDを紹介したい。

なきごと(nakigoto)というアーティストの「nakigao」というシングルだ。これが全国流通盤として初のシングルである。










なきごと




なきごと(nakigoto)はヴォーカル&ギターの水上えみり、ギター&コーラスの岡田安未の2人からなる東京出身のバンドである。

僕はなにかと女の子二人組の不可思議なバンドに惹かれる傾向にある(ハルカトミユキ、印象派、FINLANDS等)。それでジャケットがとても良くて目に止まった上に、アー写の雰囲気がFINLANDSっぽいのもあって、気になって聴いてみた。

3曲とも素晴らしくて、個人的にはもう今年の1枚にしてしまいたい。


「nakigao」

1.Oyasumi Tokyo
2.メトロポリタン
3.忘却炉









1. Oyasumi Tokyo





ペーソスの効いたギターとヴォーカルに見事に撃ち抜かれ。10秒くらい聴いただけでCDをレジに持っていった。
じっくり聴きたくなったのだ。

そしてその決断は間違ってなかった。


■バンド名「なきごと」はどんな意味合いで命名されたのでしょうか?

水上:昨今の世の中は、仕事、恋愛、家庭などの人間関係や、元来、嗜好であるはずのSNSですらやってても疲れてしまうような、泣き言を言えない肩身の狭い世の中だと思っています。「頑張れ」というのは簡単で無責任な言葉だと思う。「疲れた時は、なきごと言ってもいいんだよ。」と寄り添えるような意味合いを込めて付けました。


そんなコンセプトを体言する曲として、"Oyasumi Tokyo"はある。

多くのアーティストが描いてきた東京という街だが、多くの場合「都会と自分」を対比させるような、東京を大きな街として描く歌詞になることが多い。

なきごとの描く東京はとてもフラットで、ただ等身大に暮らしている街として描いていて、こういう印象を受ける東京の描き方って、実はそうないのではないか。


ひとりになりたくて 夜の街に溶けた

おやすみ東京 怖がらないで
寂しさの真ん中 「まだ大丈夫だから」
東京 強がらないで
泣き顔が一番綺麗だ


メロディの良さもあるし、それに対する言葉の乗せ方がとても心地好い。

「泣き顔が一番綺麗だ」という歌詞についてインタビューで語っている。


岡田:わたしは「Oyasumi Tokyo」の《泣き顔が一番綺麗だ》というところが好きなんですよね。人って大体泣き顔はブサイクじゃないですか(笑)。しわくちゃになって泣いちゃうから。でも、それでも綺麗だよって言ってくれる優しさが沁みるなって思います。

水上:ちょうど(岡田が)病んでて、そのとき。救えるかなと思って作ったんです。


自分なりの解釈なのだけど、東京という街に対して「おやすみ」というのはまだ明るい街で、泣き顔を濡らす涙がその明かりに照らされて光ってる光景にも見えた。
そして泣き顔って、人に見られたくない姿だからこそ

その涙の描き方が鮮やかだなと思ったのが2番で。


微熱は下がらないけど 風が頬を撫でた

おやすみ東京 怖がらないで
あたたかい気持ちは まだここにあるから
おやすみ東京 涙を吹いて
もう十分だよ。 ゆっくりおやすみ。


身体の熱を頬を伝う涙に当たる風が教えてくれて、その冷たさを感じさせる風は涙を乾かそうとしているようにも映る。

それに対して「もう十分だよ。 ゆっくりおやすみ。」というフレーズが繋がるのが良い。

しかもこのフレーズにだけ句読点が打たれているのが、恐ろしいところだ。
怖がらないでいられない。

本当に、いしわたり淳治に徹底的に語ってもらいたい名曲。

この"Oyasumi Tokyo"だけでもあまりに素晴らしいのに、"メトロポリタン"がまた強烈だった。










2. "メトロポリタン"









なきごと結成直後に制作されたという曲。

空間系の効いたギターリフとジャキジャキとしたカッティングはTwo Door Cinema Club好きとして、心を掴まれない訳がない。

疾走感がありながらも、どこか切ないヴォーカルが響く。


風に吹かれておかしなプラチナ
Sorry… 許して
今日は星が見えないの
あら…まだ…足りてないわ…


Bメロに出てくる「パトロールポリスメン」とは何だと思いながらもこのサビのラインが美しい。切なさの中に秘められた意志のようなもの。ワンコーラスで、これもまた名曲だと思わされるが、この曲の恐ろしさは最後まで聴いてこそだ。

歌詞カードを眺めながら聴いていき、最後のフレーズになる。


アメで喜んで幼稚なプラチナ
総理…ごめんね
今日は星が見えないの
あら…やだ…泣いてないわ…


最初本当に誤植か何かかと思った。しかし、おそらくこの曲を聴いたほとんどの人と同じように、インタビューでこの曲のテーマが明かされた瞬間に衝撃が走る。



――作るときに、こういうことを歌いたいなというテーマはあったんですか?

水上:わかりづらいかもしれないんですけど、これは失恋の曲なんです。「総理」という……自分にとっての大きな存在に対する報復の曲ですね。

――え、報復の曲?

水上:これにはストーリーがあって。まず女の子が総理と付き合って、その総理と女の子がヒドい別れ方をしちゃうんです。で、女の子が警察にチクるんですよ。そこからハニートラップ的な感じで、警察に「あの人ヤバいですよ」みたいなことを言って、総理を陥れる。だけど、本当は総理のことが好きだから、「ごめんね」とか「許して」と歌ってるんです。

――それを聞くと、ちょっと怖い曲ですね。

岡田安未(Gt/cho):大体これを聞いた人はびっくりしますね(笑)。こいつヤバいなと思いました。すごくポップな曲じゃないですか。言葉選びでも遊んでるのに、実は復讐の曲だというのは、裏と表の違いが衝撃的ですよね。



自分も凡人の一人であった。見事に術中にはまった。
いや、それにしても驚かない人間がいるのか。

この時点で自分の心にある「大好き」スタンプを強く押した。声質とはメロディラインの良さとか、それに対するアレンジの感覚がとても好みだったのに、こんなぶっ飛んだもの出されたら、そうなる。







たとえば印象派はぶっ飛んだことをやっているようで、実は様々なメッセージ性が込められているのと反対に、真面目な曲のようで大真面目にふざけたことをやっている。真逆のようで、表裏一体のような感覚だ。

平均年齢20歳くらいということは自分の干支一回り下になるんだけど、そんな若手バンドの歌詞でこんなに打ちのめされるのだから、本当に音楽好きは止められない。




3. 忘却炉




―では3曲目の『忘却炉』についても伺いたいです。

水:“過去”ばっかり引きずっていると“今”が疎かになるぞ!っていう警告の歌です。過去って美化しがちで、思い出ってつい引きずってしまうものだと思うんです。それは自然なことだし、過去があるから今があるというのは紛れもない事実だと思うんですけど、それで人に迷惑をかけたりするのは違うなって。以前そう思った出来事があって、その時の感情で書いた曲です。


3曲の中で最もテンポ感のある"忘却炉"。


呆れかえるような
ちゃちな愛で締め付けないで
愛されているような
幻覚から もう覚めたから


ヒリヒリとした歌声とギター、本当に3曲ともそれぞれカラーが違っていて、しかもそのどれもがバンドのアイデンティティとしてきっちりと成立している。

こういうバンドは新しい曲を聴くのが本当に楽しみになる。

過去に浸る。それは時に蜜のようなひとときに溺れることだ。

過去は記憶であり、想像の内に秘められる。

それは幻想と何も変わらない、甘いだけの思い出となる。


とてもライヴ映えしそうな曲なので、今から聴くのが楽しみだ。


こういう出逢いがあるから、タワーレコード新宿店に通うのがやめられない。

こういう出逢いがあるから、音楽好きはやめられない。



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