水上バスの中から僕を見つけて
観光客に混じって笑って手を振る
そんな透き通った景色を
僕の全部で守りたいと思った
～Mr.Children／水上バス
嗚呼 あなたに愛されることで僕は
輪郭を縁取られ色が付いてここにいる
そして僕もまたあなたを色付けて行く事が出来るはず
だから聞いてよ 僕が生きる理由を
～ポルノグラフィティ／小説のように
失恋ソング
先に載せた歌詞はどちらも、所謂「失恋ソング」に分類される楽曲たちである。
しかしながら、こうして一部を抜き出すと、甘いラヴソングにも見えないだろうか。
ある恋の先に失恋はやってくる。逆はない。
失う恋がなければ、失くすものはないのだから。
想いが通じ合うかそうでないかに関わらず、ある人がある人を思う気持ちに嘘などない(ないことはないが、言い出すとキリがなくなってしまうのでそうして欲しい)。
確かに感じた恋心は、人の心に残り続ける。
残り続けることは、記憶であるとともに、時に呪いのようでもある。
失恋ソングの切なさとはつまり、相手との間にあった愛情の強さでもある。両思いでも、片思いでも、愛情が深ければ深いほど、それがなくなったときの溝も深くなるのだ。
誰もが君の笑顔みつめ
僕だけうつむき君のスニーカー見つめる
それでもそばにいられるなら 微妙な距離さえ愛おしくて
～ポルノグラフィティ／ライン
恋愛の終わりは辛く悲しいものだ。
お互いの道を、と前向きな別れも世にはあるが、大抵はどちらかが涙する結末が待っている。
悲劇とは幸せの先にある。
本当に手におえないよ 天気予報より嘘つきで
青空の中に映る 調子いい君のあの笑顔
口さえなきゃ誰もが振り向くようなスタイルで
人をその気にするのが上手い
～Mr.Children／LOVE
喪失
「誰だって切れてからつながっていたことに気づく」
それは2019年に放映されたアニメ「さらざんまい」の中の台詞だが、この言葉の意味は、もはや慣用句とさえ言えるだろう。
人は失ってから大切だったものに気づく。
いや、人は失うことで過去と向き合うことができるようになる。
たとえば喧嘩した思い出も、終わってしまえば楽しかった思い出と等しく思い出の棚に仕舞われる。
良い記憶も悪い記憶も全てが過去になった時、人は自分の心の棚に仕舞われた記憶としか向き合うことができない。
その時に思い出すのは、純粋だった想いだ。
続くということは、変化をしていくことだ。
しかし、ある刻で止まってしまった恋は、永遠に更新されることのない記憶となるのだ。
嘘のつけない大きな声や
家事に向かない荒れた手のひらも
君を形成(つく)る全ての要素を
愛してたのに
～Mr.Children／Over
会いたいからって口実に誘った映画を
はしゃいでいた日々を
どうして忘れていたんだろう
馴れあいの関係にウンザリするはずさ
～ポルノグラフィティ／サボテン
シングルではないがMr.Childrenの失恋ソングの代名詞ともいえるのが"Over"、そしてポルノグラフィティの中で屈指の爽やかで切ない余韻を残す"サボテン"だ。
恋愛という魔法が見せるもの、それは時に相手の全てを肯定的に見せてくれる。けれど魔法は決して長くは続かない。
君の姿がどんな瞬間も愛おしく見えたり、映画に行く約束にさえはしゃいでいたのに、いつしかそれにさえ馴れてしまう。
それは恋という幻想に囚われたままでは日常はやって来ないからだ。
過去に戻ることができないように、叶わぬ願いに人は溺れていく。失ってしまった想いは、恋という魔法をかけられた時より何倍も強くなる。
今さら確かめても きっとそこにあるものは
ただ美しい過去だけ
～ポルノグラフィティ／冷たい手～3年8ヶ月～
柄でもないけど 会えると嬉しいよ
悩んだ末に想いを呑み込む日々
ほろ苦いキャンディーがまだ胸のポケットにあった
気付かせたのは君
～Mr.Children／CANDY
それはただの美化された記憶かもしれない。
しかし、本当に美しい思い出とは往々にして現実に美しいものだ。
終わることで永遠の過去となった恋は、いつまでも消えない悲しみと共に心に残り続ける。
破片となった恋という幻想が心を形づくるピースとなり、いつしか愛という形になる。
愛とは日々なのだ。一瞬でもそれに触れてしまえば、永遠に終わることはない。失うことはない。
なぜなら、「失恋」という言葉はあっても「失愛」という言葉はないのだからだ。
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