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2019年11月13日水曜日

新藤晴一の距離感と生きていく








ポルノグラフィティの"ブレス"において、最も胸を打たれたのは新藤晴一の「ありのまま 君のままでいいんじゃない?」というメッセージだった。

「ありのまま」とは、2014年には世界中で老若男女が聴いていたあの曲でも伝えられたメッセージである。

しかし、僕は新藤晴一という男の紡ぐ言葉に心の琴線を毒されて育ったので、同じ言葉であっても、それをこの男が書き、岡野昭仁が歌うことで、その意味合いはとても大きなものになる。

改めて考えると、実はこのメッセージは初期からずっと受け継がれてきているのではないかと思えた。







君は君でいい




たとえばポルノグラフィティのデビュー曲の"アポロ"。


みんながチェック入れてる 限定の君の腕時計はデジタル仕様
それって僕のよりはやく進むって本当かい? ただ壊れてる

大統領の名前なんてさ 覚えてなくてもね いいけれど
せめて自分の信じてた夢くらいはどうにか覚えていて

地下を巡る情報に振り回されるのは
ビジョンが曖昧なんデショウ
頭ん中バグっちゃってさぁ


こうしていくつかのフレーズを抜き出すだけでも「君は君だ」というメッセージが感じ取れると思う。

初期の新藤晴一の歌詞によくみられるニヒリズムが皮肉っているのは、聴き手ではない。何かに振り回されてしまう人々なのだ。

次のシングル「ヒトリノ夜」でも。


まあ!なんてクリアな音でお話できる
ケータイなんでしょう
君はそれで充分かい? 電波はどこまででも届くけど


というフレーズがある。みんながチェックいれてる腕時計のように、世間が世界が何かに振り回されているものに対して「君はそれで充分かい?」というメッセージをのせている。

自分の心よりも、世間の評判に惑わされていないか、それは本当に自分の心と向き合っているのか問う。

3枚目の"ミュージック・アワー"に至ってもそれは変わらない。


強い人にはなれそうにもない 揺れてる君でいいよ


というフレーズは、無理をしなくていい、揺れてる君も君なのだと、優しく諭してくれる。

それがブレスの、


簡単に語るんじゃない 夢を
わかろうとしない 他人がほら笑っている
簡単に重ねるんじゃない 君を
すぐに変わってゆくヒットチャートになんか
君は君のままでずっと 行くんだからfaraway


まで繋がっている。

かのように、実は"ブレス"におけるメッセージは新藤晴一が書いてきた歌詞の中に昔から存在していたのだ。

優しさも突き放すも簡単だ。

しかし、こうして君は君でいるべきだというメッセージに、新藤晴一の優しさを感じるのだ。








新藤晴一と未来




新藤晴一とは、未来なのだと思う。


気分次第で行こう 未来はただそこにあって
君のこと待ってる 小難しい条件 つけたりはしない
迎えにも来ないけど


この距離感だ。

近づくでも遠ざけるでもなく、ただ未来へ導いていてくれる、そんな存在なのだ。

対して岡野昭仁はどちらかというと、共に歩もうと今を導いてくれる存在だ。ポルノグラフィティというのは、そんなバランスで成り立っている。

東京ドーム「神VS神」の本編最後の"VS"。ギターソロを弾きながら悠然とセンターステージへ向かう新藤晴一、そして後ろからついていく岡野昭仁。その時、僕らもまた新藤晴一に導かれていたのだ。

だからこそ僕は"一雫"の歌詞に涙したのかもしれない。


この旅路の果てで待ってて


その言葉は最初、いつか来る旅の終わりを示すものと思っていた。もちろん、その意味合いもあるが、僕らにとって一つひとつが、大切な旅なのだ。

リリースが決まれば、ライヴが決まれば、その日までがひとつの旅となる。日常の中に未来を照らしてくれる明るい光となってくれる。

アーティストにとっても同じではないか。日夜、自分の乾いた雑巾を絞った一雫から生まれた音楽、それを僕らに聴かせるためのライヴ。

それを届ける未来は、アーティストにとっての旅路でもある。色々な手によって支えられて届けられた楽曲が、僕らの手に届き、再生のボタンが押される瞬間もまた、旅路の果てなのだ。そこで待っててくれる人がいる、期待してくれる人がいることが、アーティストにとっての希望ではないか。

だから彼らは「君たちがポルノグラフィティを求めてくれるから」と言ってくれるのだ。

しかし。

それもひとつの真実だったとしても、アーティストにしか未来は創れないのだ。

アーティストの切望の声虚しく途切れたアーティストの音楽たちが、どれだけあるだろうか。

活動休止、解散、或いは死去などによって、ファンの声がどれだけあっても叶わぬこともある。ファンが供給を与えることは出来ない。


別の記事にも書いたが、新藤晴一はポルノグラフィティがこの先やっていくためには、海外を視野にいれなければならないと言った。それは、挑戦ではなくポルノグラフィティを続けていくためにやらなければならないこと。

正直、英語の勉強をしているというのを何ヵ月か前に見たときに、また新しい趣味かと思って見てしまっていた。

しかし、あの話を受けて、今まさに本当にロンドンに語学留学に行っている。

新藤晴一は本気なのだ、僕らが待つ未来を築くために。

「君は君でいい」と、言ってくれた。

それでも「ポルノグラフィティを求め続けられるファン」でいさせてくれる未来のために。

彼はいつだって、本気なのだ。


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