2016年8月3日水曜日

TVの中のロックスター 新藤晴一と吉井和哉の抱く憧れと現実





THE YELLOW MONKEY「TVのシンガー」
ポルノグラフィティ「TVスター」


突然並べたが、この2曲には共通点、それが今回のテーマである。

ポルノの方は昔のカップリング曲なので知らない方が多いかと思うが、後で歌詞を引用するので最後まで読んでいただければと思う。



ROCK STAR




THE YELLOW MONKEY
ポルノグラフィティ


どちらも言わずと知れた90年代、00年代と音楽シーンにその名を刻んできたアーティストである。

その中で主に作詞を担ってる吉井和哉、新藤晴一という男達はとりわけ、かつてのロックスターへの憧れが強い傾向にある。

それは若き日に見た海外のロックスター、まさにセックス、ドラッグ、ロックンロールの世界、その破天荒な存在に憧れてミュージシャンを目指した男達だ。


ロック・スターになれば羽根が生えてきて
ロック・スターになればたまに夜はスウィート

THE YELLOW MONKEY / ROCK STAR


まさにこんな希望を胸にミュージシャンとして生きてきた。









ロックスターの現実




THE YELLOW MONKEYもポルノグラフィティも移り変わりの早い音楽業界で生き残ってヒット曲を出してきた(イエモンは一度解散したが)

しかしながら、そうであったからこそ憧れと現実の間で強い葛藤を持つことになるのだ。

その心情を赤裸々に歌詞にしたのが最初に紹介した曲たちなのである。

それぞれ歌詞を抜粋してみよう。

TVのシンガーこれが現実
君の夢など思い過ごしさ
誰かの夢

THE YELLOW MONKEY / TVのシンガー

なんだ?アーティストって?
悲しきTVスター
身を切って創って それまで
グラム売りをするようなもんか…

ポルノグラフィティ / TVスター


どちらもヒット曲に恵まれ、音楽業界では間違いなく"成功"を収めたアーティストである。華々しいステージに立っていた男たちの歌のはずなのだ。

それなのに何故これほどまでに悲しみをまとった歌詞が生まれたのだろうか。

"TVのシンガー"はオリジナルアルバムとしては最大のヒットとなった「SICKS」に収録され、"TVスター"は「サウダージ」や「アゲハ蝶」というミリオンヒットを出した直後のシングル「幸せについて本気出して考えてみた」に収録されている。

どちらもキャリアとしてとても充実していたはずの時期なのだ。



音楽業界の悲喜こもごも



またカップリングになってしまうが、ポルノの歌詞を引用しよう。

壊すべきこの世の中と、それとなくうまくやれてる。
気まぐれなヒットチャートよ、ご機嫌いかがですか?

ポルノグラフィティ / ダイアリー 00/08/26


この曲はフィクション性の強い新藤晴一の歌詞の中で、数少ないノンフィクションの出来事を書いている。
書かれたのは2000年8年26日。まだデビューして一年満たない時期である。

しかもポルノグラフィティは"アポロ"でデビュー曲からヒットになり、一躍時の人となった。

これだけ読んでも音楽業界というものを考えさせられないだろうか。
もちろん、事務所やレコード会社はそのバンドを売るためにあらゆる手を打つ。その中でアーティストは「業界人」としてビジネスの世界を生きて行かなければならない。

そこには様々な大人の制約としがらみがまとわりつく。
そのためには、時に自分の信念も変えなければならない。もちろんそれが悪いことばかりではない、というのは言うまでもないだろう。

音楽業界に染まっていく自分、"うまくやっていけてしまってる"自分、それはかつて憧れていた破天荒なロックスター像とは程遠い。そんな気持ちの吐露となったのがこの曲たちではないだろうか。

とりわけ今の音楽業界でそんな破天荒な生き方などできるはすがない。そんな理想と現実、そのギャップが「TVの中のロックスター」という虚像ともいえる存在として書かれたのだ。


THE YELLOW MONKEYも「もっと売れたい」「チャートの上位で勝負がしたい」という思いから、4枚目のアルバムとなる「smile」を完成させた。その商業的な内容に、ROCKIN'ON JAPANのディスクレビューでは「産業廃棄物」とまで称された。
それまでのグラムロックテイストを封印して"売れる"ことを目指したアルバム、吉井和哉の本心は本人にしか分からない。

それでもこのアルバムを契機にTHE YELLOW MONKEYは世間にも広く浸透してゆくのだ。

あらためて聴いてみてもTHE YELLOW MONKEYもポルノグラフィティもその信念を、魂を売ってしまったとは思えない。

自分たちなりにカッコイイと思う音楽をやっているからこそ、僕はそれを真摯に受け止められるのだ。


ステージでは華々しい姿のロックスター、その裏では様々な葛藤と闘っている。







★歌詞解釈シリーズ



AGAIN歌詞解釈~「遥かな昔海に沈んだ架空の街の地図」とは

スロウ・ザ・コイン歌詞解釈~人生の分岐点と正解の道

月飼い歌詞解釈~東から漕ぎだした舟が向かう先

ジレンマ歌詞解釈~ジレンマが示すもの

Hey Mama歌詞解釈(+和訳) 〜あなたのパパは何者?

TVの中のロックスター、憧れと現実

THE WAYのダイアリー00/08/26に涙した理由

LiAR歌詞解釈~揺れてるばかりの記憶のあなた

メリッサ歌詞解釈~自分にとってのメリッサとは

アポロ歌詞解釈~変わらない愛のかたち探してる

Part time love affair歌詞解釈〜パートタイムの恋人

パレット歌詞解釈~泣いた月と唄う鳥の示すもの

PRIME 歌詞解釈〜変われない自分と変わらない願望

稲妻サンダー99歌詞解釈(?)〜99秒、33文字の歌詞に3000字書いた全記録

アゲハ蝶歌詞解釈~夏の夜に咲いたアゲハ蝶

素敵すぎてしまった歌詞解釈~Wonderful Tonight

ラスト オブ ヒーロー歌詞解釈~ヒーローは逃げない、一度も

夜間飛行 歌詞解釈〜「偶然は愛のようにひとを束縛する」

"君の愛読書がケルアックだった件"の歌詞が実はとんでもなくヤッバイ内容な件

MICROWAVE歌詞解釈〜Believe when I say "I want it that way"

"Working men blues"の替え歌の件についてちょっと本気出して考えてみた

170828-29歌詞解釈 赤いボタンの上の僕らのピースする

ポルノグラフィティ新曲"カメレオン・レンズ" 歌詞徹底解剖 新藤晴一文学の集大成










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