2019年9月7日土曜日

ポルノ全シングルレビュー17th「ネオメロドラマティック/ROLL」








ポルノグラフィティが2人体制となってから3枚目のシングルだ。

そして初めて両A面としてリリースされたシングルである。

タイプの違う名曲たち、そしてカップリングに収録されたライヴ音源、その個性溢れる熱を見ていこう。


ポルノ全シングルレビュー
17th「ネオメロドラマティック/ROLL」











1. ネオメロドラマティック

作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ
ダイハツ工業「ムーヴカスタム」CMソング







2人体制となってから「シスター」「黄昏ロマンス」と比較的ミディアムテンポの曲が続いた。

そこにポルノグラフィティ史上でも最上位にくる歌メロ詰め込み型の曲だ。歌詞の文字数も随一である。
リリース前から新藤晴一が当時音楽雑誌で連載していた『自宅にて』で「おっさんがカラオケで『ポルノの曲、速くて歌えないよ』というタイプの曲」と書いていた通り、常人に歌わせる気がない。

普段はカミカミ、歌になればアナウンサーよりも滑舌の良い男、岡野昭仁の本領を発揮だ。ブレスの出来ない歌は誰も歌えやしないのではなかったか。

B.C. リッチのギターが奏でるソリッドなサウンドや悲鳴にさえ聞こえるアーミングは曲の世界観をさらに広げている。

疾走感溢れる楽曲はダイハツ ムーヴカスタムのCMソングとしてオンエアされ、世間にも浸透した。

以前にも触れたことがあるが、BPMは126くらいなので実はそんなにテンポは速くない。そこに疾走感を与えている要素は詰め込まれたが歌メロ、「ボイルした時計の皮剥きに夢中」「コンクリートのために祈った」などあまりに理解不能だけど謎の説得力を持つ歌詞、それを歯切れよく唄う岡野昭仁のヴォーカルによるものが大きい。

歌詞の多さ、詰め込み方、そこに現代の情報量の多さ、それに流されてしまう時代が表されている。これが発表されたのは2004年の年末に行われた「Purple's」である。

その時代に書かれたことを思えば、昨今さらに増した情報の洪水に、より"ネオメロドラマティック"の描いたネオ(=新時代)がオーバーラップする。

今の時代の情報がどれだけ増えたか、端的にわかりやすい例を出そう。僕のスマホで写真を撮ると1枚5MBを越えるデータサイズだ(多少良い画質の設定にしているので)。これをガラケーにメールで送ったとすると、たぶんデータ量が多くて受信できない。できたとしても、パケット通信料に置き換えると8000円を越える。何気なく撮ってシェアしている写真ひとつ取ってもそれほどだ。

考えられないほどのスピードで時代は動く。それに流されることなく、真に大切な存在を見つけ共に歩むこと。

アレンジにもかなりの量の打ち込みの音色がパツパツに詰め込まれている。それこそが増幅する情報そのものを示している。それに対して、変わらないものもある。

ポップソングとして、最後には歌の力には勝てるものはない。

その強さこそが、確かに見つけた過去でも未來でもない、いまここにある希望なのだ。


そうして思った時に、どれだけ世相や世界が変わろうとポルノグラフィティがそこで歌い続け、希望をくれたことに気づいた。

"アポロ"で歌われるテーマは、そのままポルノグラフィティにも当てはまる。テクノロジーの進化によって、音楽表現の幅は劇的に変化した。もうメロディは枯渇し、新しいメロディは生まれないということが謳われるなかで、アレンジは宇宙のように無限大の可能性を秘めている。

それでも、とりわけ日本ではまだまだ"歌"の力は根強い。近年でもいまだ普遍的なポップソングが受け入れられている。

どれだけ趣向を凝らしたアレンジも、歌を映えさせるための一要素に過ぎない(それでも「関ジャム」みたいにそこに焦点を当ててくれるものも存在する嬉しさ)。

つまりは、これは"アポロ"でも歌われるテーマそのものだ。どれだけテクノロジーが進歩しても、僕らは変わらない愛のかたちを探し続ける。

どこから聞こえる情熱の歌が聞こえる場所、僕らを愛が呼ぶほうへ導いてくれる声。それは左胸に響く声。

岡野昭仁の声が、新藤晴一のギターが奏で続ける限り、それは終わらない。たしかに胸に残るサウンドたちが、自分を未来へ導く声となる。

なぜなら、そこで咲くものは、張りめぐらされた根を広げ、春には氷を割って顔を出す、弱さと強さを持つ花なのだから。


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2. ROLL

作詞・作曲:岡野昭仁 / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ
武田食品工業「C1000タケダ ビタミンレモン」CMソング






"ROLL"は本人たちが出演したC-1000タケダのビタミンレモンCMソングのタイアップがあり、抽選でスペシャルライヴに招待されるキャンペーンをやっていたので、当時のポルノファンは身体からレモン果汁が出るかと思うほどビタミンレモンを飲んだ。

そのキャンペーンは僕は外れた(MP3プレーヤーは当たった)が、最初から"憂色~Love is you~"~"夕陽と星空と僕"~"小説のように"というファンを殺すためだけに並べられた鬼セットリストであった。

ファンからも根強い支持を得る楽曲だ。

ライヴで聴く"ROLL"。その歌い出しに息を呑まずにいられたことは、ない。

タイトル"ROLL"がまず秀逸だ。めぐる、うねる、揺れる、包むなど、歌詞の内容をこれ以上に見事に表すタイトルは他にないだろう。
そんな"ROLL"に重ねられる、君への想い、それを抱く自分自身の想い。

ビタミンレモンの甘酸っぱい爽やかさにも負けないような爽やかな楽曲だ。それでいて、聴くたびに絞めつけられるような気持ちにもなる。

甘酸っぱい、とは青春を表す時にしばしば用いられる。
甘いほど、感じる酸味が強くなる。甘くとろけるようなセリフを吐きたくなるような、そんな気持ちは、それに伴う酸味を引き立たせる。

なぜ"ROLL"はこんなに甘酸っぱいのか。それは、主人公が苦悩し続けるからである。悩み、迷った先に残るたしかな君への想いを搾り出す。だからこそ、実は歌声そのものは終盤まで爽やかには振り切らない。

終盤の「恐れてたんだ」と言う強烈な一言の後に来る最後のサビ。そこで主人公はそれまでの苦悩を全て受け入れた上で君への想いに向き合う。

様々な想いを受け入れたからこそ伝えられる、岡野昭仁の「恐れてたんだ」という言葉は弱さなのだろうか。

恐れを抱くことが弱さではない。恐れに呑み込まれてしまうことこそが、本当の弱さだ。たとえば、その防波堤が果てしなく高かったとしても、戦場へ赴く兵士の気持ちになったとしても、人生は一歩を歩めた者にしか微笑まない。

その結果が甘くても酸っぱくても、それが残す"経験"こそが人生にとって掛けがえのないものを与える。

過去があるから人は未来を向くことができる。未来は先にあるものではなく、積み重ねた今ここから始まっているのだ。


ギターは比較的シンプルなので、2番サビ後の新藤晴一のギターアプローチはライヴ毎で毎回と言っていいほど変わっている。
個人的には「惑ワ不ノ森」バージョンが好きである。

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3. プッシュプレイ(LIVE!)

作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:ak.homma、ポルノグラフィティ


5周年のスペシャルライヴ「Purple's」のアンコールにて新曲として初披露された"プッシュプレイ"のライヴ音源である。

この時点ではまだアルバムも発売していない(このシングルの翌月に「THUMPx」がリリースされた)ため、ライヴ版が先に発表されるという珍しいケースだ。

あえてそんなタイミングで収録されたのは、"プッシュプレイ"が2人がまた新しいタームに突入するための意志表示であったからだ。

「Purple's」の副音声でも語られるが、5周年の集大成であると同時にアーティストとして未来を見せる、そのためにライヴでは未発表の新曲を3曲披露した(残る1曲は"東京ランドスケープ")。

未来を見せると同時に、それは忘れてはならない初期衝動を描く。

折しもそれは、この後の「THUMPx」に収録される岡野昭仁の"Let's go to the answer"にも通ずる決意だ。

2人で歩みだしたポルノグラフィティ、その決意は今も色褪せず、変わることはない。

「あのロッカー まだ闘ってっかな?」という問いは、かつて自分が憧れたロッカーたちが今も変わっていないか、そしてそんな彼らに憧れた自分の衝動は変わっていないかという問い掛けでもある。

同じ音楽という土俵に立って、共に闘う存在。同時に自分自身が「まだ壊すべきこの世の中」とそれとなくうまくやれてしまってる自分に言い聞かせているようでさえある。

プッシュプレイ、プレイボタンをひとたび押せば、そこに忘れられぬ若き衝動が甦る。

その衝動がある限り、その信念は潰えることはない。

それは作り手のことでもあり、僕らリスナーのことでもある。

それもまた一つの「VS」なのである。


ポルノ全シングルレビュー50th「VS」



★シングルレビュー


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