シングルという形態は、もはや世の中には必要ないものなのだろうか。
サブスクリプションをはじめとした配信サービスによって、シングル、いやもはやアルバムという言葉にすら存続が懸念される事態になるかもしれない。
3曲で1200円くらいするシングルCDなど、もはや時代錯誤なのだろうか。
それでも日本ではまだシングルというフォーマットはまだ残っていて、僕はCDという形態を愛し、大切に握りしめている。
そんな喜びを味わえるシングルのひとつが「愛が呼ぶほうへ」ではないだろうか。
全シングルレビュー 13th「愛が呼ぶほうへ」
CDについて
2003年11月6日にリリースされたポルノグラフィティにとって13作目のシングルである。
この時期のポルノグラフィティについて書いておこう。その
2003年にポルノグラフィティはシングルの「リリースラッシュ」をしていた。
2003年8月6日 11thシングル「音のない森」
2003年9月26日 12thシングル「メリッサ」
と立て続けにリリースしていったのだ。
前のシングル「メリッサ」がタイアップの効果もあり、ロングヒットを記録していた。なので一時はトップ10に「メリッサ」と「愛が呼ぶほうへ」が並ぶということもあった。
ファンとしてはあまりに悲しいのだが、ポルノグラフィティのパブリックイメージとして、ミディアムテンポやバラードはあまり世間的に知られていないことが多い。
テンポがあって息継ぎ不明な曲の方が評価されがちである。
それは、ある種武器とも呼べるのだが、ファンとしては悲しいことだ。
そうしたパブリック・イメージにおいて"愛が呼ぶほうへ"は世間でも認識、評価されている曲といえるのではないだろうか。
"メリッサ"で再注目、新しい世代へ響いたことが大きかったのだろう。
1. 愛が呼ぶほうへ
作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma
表題曲。
ピアノを主にしたサウンドは暖かくて、とても優しい。
ポルノグラフィティといえば、テンポが早く言葉を詰め込んだ歌詞を滑舌よく唄うというパブリック・イメージを持たれる。
こうしたオレンジ色を思わせるミディアムナンバーは、シングルとしては初めてとも言えるだろう。
それを思わせるのは「愛」というテーマを、正面から書いた曲だからである。
世の中で「愛」の歌は数知れないが、「愛」そのものを擬人化して主人公にした曲というのは、そうないのではないだろうか。
おそらくそんなテーマだからこそ、デビュー当初では決して表現しきれなかったもの、こうして経験を積んできたからこそ伝えられるようになった曲である。
この辺りの時代から、岡野昭仁はヴォーカルについて、歌い方を変えている。
結果的に「昔の歌い方のが良かった」と言われることがしばらく続くが、それでも、それがなければ喉を壊してしまっていたかもしれない。そして、表現力の幅はここまで広がっていなかったのではないか。
ヴォーカルに対して語彙がないので、どこが具体的にと言われても困るが、高音について以前より無理に振り絞るように発声しなくなったように思う。
この後の「74ers」がちょうど変革期で、ヴォーカルを探っているような時期に聞こえるので、そこに注目しても面白いかもしれない。
また、この曲ではテレビとこの後のライヴでピアノを弾きながら唄う岡野昭仁が見れる貴重な曲である。
しかしながら、2006年の横浜スタジアムを最後に、その姿は見ていない。
この曲と"メリッサ"はひとつのターニングポイントとなる。
しかしながら、"愛が呼ぶほうへ"は今後のポルノグラフィティに対しても要所要所で重要な曲となっていく。
ひとつは2005年の因島で行った凱旋ライヴ。ここで、地元の小学生、中学生、高校生をそれぞれ無料で招きライヴを行った。そこで"愛が呼ぶほうへ"はただ演奏するだけでなく、学生たちと合唱するというスタイルで行った。
特に小学生が懸命に唄う姿は、メンバーだけでなく、ステージメンバーもそれを支えたスタッフも、そして僕ら視聴者を感動させた。そして"愛が呼ぶほうへ"という曲をさらに大きくした。
この時、ポルノグラフィティは初めての因島でのライヴでもあるし、ベースのTamaが脱退して初めての大きな全国ツアーの中だったのだ。
そういった意味でも、自分たちの音楽にとって大きな力となったのではないだろうか。
そして、2018年。尾道での「しまなみロマンスポルノ」、この2日目に本来であれば地元の高校生たちとステージで唄われるはずであった。しかし、ご存じの方も多いが、2日目は豪雨により中止になってしまった。
それでも、その裏で高校生たちはメンバーに向けて唄っていた。NHKの「SONGS」で放送された、そのシーンは思い返すだけでも涙腺を刺激する。そして、その後に行われた映画館でのライヴビューイングで、叶わなかった合唱は実現することになる。
この一連の中で、あらためて"愛が呼ぶほうへ"がとんでもなく大きな存在となった。
そんな、節目節目で大切に演奏されてきた"愛が呼ぶほうへ"は、これからも僕らを感動させてくれるだろう。
"愛が呼ぶほうへ"のドラマ?知らないなぁ。
2. 夕陽と星空と僕
作詞・作曲:岡野昭仁
「FANCLUB UNDERWORLD2」でのベスト以外収録曲以外での投票、そして15周年で行われたアリーナツアー「ラヴ・E・メール・フロム・1999」で全曲の中から聴きたい曲を投票するというイベント、そのどちらもで1位となったのが、この曲である。
ポルノグラフィティの失恋ソングといえば一般的には"サウダージ"だが、この曲を挙げたいファンは多いだろう。
情景描写と心情の重ね方、それに対するドラマティックなメロディ展開とヴォーカルが絶妙である。
「夕暮れ」「太陽」「夕陽」「夜空」「星達」とあるように、主人公は最初、正面から上を見ている。つまりは見上げている。それは途方にくれただ空を眺めてしまうという感情。
それが、後半。君の前で流せなかった涙は、頬を伝ってそのまま足元に落ちる。それは現実を受け入れた瞬間であり、顔と同時に心も下へと向いてしまうのではないだろうか。
そこで終わらないところがこの曲の魅力ではないだろうか。最後にはもう一度、前を向く。
その目線の移り変わり、そして最後に主人公が向く先、それはまさに"愛が呼ぶほうへ"ではないだろうか。
だからこそ、カップリングとして、"愛が呼ぶほうへ"からこの曲へ移り変わるということが、本当に素晴らしい流れになっている。
たとえば"メリッサ"のカップリングだったとしたら、"夕陽と星空と僕"に対する印象は大きく違っているのではないだろうか。
こうしたことが、僕がシングルを聴くことに感じる喜びなのである。
3. Hard Days, Holy Night
作詞:新藤晴一 / 作曲:ak.homma
そして、それで終わらないのもポルノグラフィティである。
シングル顔負けのひねくれロマンティック・クリスマスソングがくる。 こちらもファンから絶大な支持を受け、クリスマスシーズンの定番ソングとなる。
12月のクリスマス前までの日程では、これが聴きたいがためにライヴに行くようなものである。やらなかったら、歌詞の女の子くらい怒られるレベル。
あらためて「アンチ・クリスマスソング」と製作された曲がクリスマスの定番になってしまうのだから世の中は面白い。
ちなみに、この曲はクリスマスソングでありながら、新藤晴一が真夏にパンツ一丁で歌詞を書いたというエピソードがある。
悲しきアーティストの時差である。
ちなみにポルノグラフィティには、2002年に「SWEET MUSIC」ツアーの大阪城ホール公演2daysでしか披露していない幻の"X'mas is made of LOVE"というクリスマスソングがある。
会報に歌詞が掲載されたくらいで音源としては残されていない。あとインディーズの頃の曲で"優"という曲もあって、個人的にめちゃくちゃ好きな曲である(現在は限りなく黒に近いグレーしか聴く手段がない)。
そして後に"クリスマスのHide&Seek"という曲も生まれるが、こちらもハッピーとは違うひねくれ具合に仕上がっている。
CDの女性コーラス部分はSMOOTH ACEというR&Bグループが参加していて、掛け合いの部分は同グループの重住ひろこが担っている。
社会人1年目の主人公はクリスマスイブの夜、終電まで働いている。クリスマスイブに会えないということで彼女はご機嫌斜めである。
この曲で絶妙だと思うのが、Cメロ部分。
Silent Night Holy Night
I hope he believed against hope
God bless you
歌詞のほとんどが主人公の主観で動いているけれど、ここで一気に俯瞰した映像に変わる。この言葉は誰が願っているのか。その答えは、きっとこのシングルに収められているのではないだろうか。
アンチ・クリスマスと言いながらも、最後にさらっと惚気が入ることで「やっぱり幸せもんじゃねーかテメェ。明日も終電な」と僕が課長だったら言うだろう。
だからこそ人を惹き付けて止まない魅力が、この曲にあるのだろう。
特別とは、イベントがあるから訪れるものではない。そこで幸せを分かち合いさえあれば、それが2人にとっての特別な瞬間となるのだ。
ということで、クリスマスをすっかり越して恵方巻きがどうこういうシーズンになってしまったが「愛が呼ぶほうへ」のシングルについて書いてみた。
あらためて、冒頭に書いた通り、シングルという形態は廃れてしまうのかもしれない。
しかし「愛が呼ぶほうへ」に収録された曲たちは、こな3曲で、この並びだったからこそ、今でもファンの心を掴むような曲になったのではないだろうか。
そんな喜びがあるからこそ、僕はこれからもシングルを楽しみに生きていきたい。
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