ポルノグラフィティの楽曲"ネオメロドラマティック"について。
おそらく、ポルノグラフィティの中でも最も難解な歌詞といえるだろう。
その歌詞は意味よりも、音に当てはめる言葉を選んで書かれたように思う。だからこそ歌詞の深読みをし続けているこのブログでも取り上げることはなかった。"稲妻サンダー99"の歌詞解釈とかやってるくせに。
しかしながら、会報の言葉なので詳細は伏せるが、新藤晴一自身によって「意味がわかったら教えて欲しい」というコメントがあった。
やってやろう。
歌詞を書いた本人ですら読み解けない難解な"ネオメロドラマティック"、その言葉の真意を。
という経緯で今回の記事と相成った。
ネオメロドラマティック歌詞解釈
ネオメロドラマティック
メタファにメタファを重ねているような歌詞、幾重もの暗喩のベール、比喩と暗喩のマリアージュ、云わばエッシャーの回廊画を見ているような感覚になる。
まず端的に、結論を書こう。"ネオメロドラマティック"の曲が伝えたいテーマやメッセージは、そこまで難解ではない。
この曲のテーマは、最初から宣言されている。
そう、タイトルである"ネオメロドラマティック"なのだ。
これは造語であり「ネオ」「メロドラマ」「ドラマティック」の言葉を合わせたものである。
「ネオ=新」
新時代、新世代、そこで描かれるメロドラマ。こう思えばいい。
"ネオメロドラマティック"は、次世代の月9である。
難解に見えた"ネオメロドラマティック"の歌詞だけどラヴソングとして見れば、歌詞で描かれるのは2人だけの逃避行。
ではそこで描かれることの「ネオ」とは何か。この曲かリリースされた時にやっていた時代を見れば分かりやすい。抜粋しよう。
2004.01 「プライド」 主演 木村拓哉
2004.10 「ラストクリスマス」主演 織田裕二
2005.04 「エンジン」 主演 木村拓哉
90年代のドラマじゃない。00年代にこれなのだ。
明らかに前時代的である。10年遡らせてもおかしくない。
そんな時代に終止符を打ち、未来のメロドラマの姿を描いたのだ。
時代と世代
"ネオメロドラマティック"の歌詞については昔から様々な方が読み解こうとしてきた。
「援助交際(キャンディ)」「ニュートン(ボイルした時計)」なんかは皆が言及している。
僕も最初はそこから紐解こうとしていた、しかしあらためて考えていくうちに、気づいた。
そうしていること自体が「無意味」な行為そのものなのではないか。
"ネオメロドラマティック"は「無意味な世界で意味を見つけた2人」がテーマなのだ。だからこそ並んだメタファたちは記号でしかない。
誰しもがそれに振り回され、無意味な行為が横行している世界で、たったひとつ主人公が見つけた意義のあること、それこそが君と生きること。
無意味だった人生に意味が与えられ、君と生きるために立ち向かう、ネオ=新。
それ、もしかして。
90年代のバブルが終わり、野島伸司脚本についていけない若者たちは新しい、自分たちの世代のための作品を見つけた。それこそが「新世紀エヴァンゲリオン」だった。
上記に挙げたように、変革の兆しもあるが月9が未だに野島伸司に木村拓哉という組み合わせのドラマを作っていた。
そんな「いつまでやってんだよ」という空気を破るのが"ネオメロドラマティック"だったのではないか。つまり、90年代トレンディドラマvs00年代ネオメロドラマティックだ。
つまり、"ネオメロドラマティック"とは新時代の月9あらため、「新世紀エヴァンゲリオン」だったのだ。何を言ってるんだ俺は。
90年代の作品の名を出して「新時代のメロドラマ」だと宣言するのもどうかと思うが、世代という言葉でいえば「エヴァ以前」と「エヴァ以後」の世代は明らかに世界が違って見えているのだ。
以前の世代はバブルを体験して、野島伸司脚本に心を踊らせていた。しかし「エヴァ以後」の世代はそんな甘い時代ではなくバブル後、そして1995年という明確に時代が変わってしまった世界で育ち生きている。
そんな世代から見ればバブルの頃の英華など、時計の皮むきと変わらない空虚なものに過ぎない。
それを越えた「終わった世界」への「新世紀エヴァンゲリオン」の咆哮が、若者たちに響いたように。
答えは「新世紀」に示されたではないか。
「何とかしなさいよバカシンジ」
「私のことは助けてくれないんだ」
2012年「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」より
アスカの言葉、それが僕には「愛して」と確かに聞こえた。
咲こうが摘まれる、もはや逃げ場すらない時代に生きる僕たちに向けられたラヴソング。それこそが"ネオメロドラマティック"なのではないだろうか。
暗喩について
というわけで「"ネオメロドラマティック"は新世紀エヴァンゲリオンだ」という結論が出た。ほとんどの方に「こいつ入院した方がいいじゃないか」と思われたことと思う。
しかし、それだけでもなんなので、あまり他のサイトで指摘されてない暗喩をおまけに紐解こうと思う。もしかしたら、よりごちゃごちゃに絡まってしまうかもしれないが。
なお、深読みではなく「こじつけ」なのでご容赦を。
「地下鉄」
地下鉄がモチーフとして登場する曲で思い浮かぶのが"EXIT"だろう。
"ネオメロドラマティック"における「街の胃袋」とされるのは、街の内側、つまりは歌詞にある「地下鉄のホーム」なのだ。
途切れない地下鉄に吸い込まれ吐き出され
ああ 他人ばかり
"EXIT"はそんな唄い出しである。電車が来るたびに人は乗降してそれぞれに消えていく。電車に吸い込まれていく人々を胃袋に呑み込まれていく姿に重ねている。
なお、久しぶりに読んで「吸って吐き出されるなら胃ではなく肺では?」と自分でツッコんでしまったが、そうするとこの後のこじつけに支障が出てくるので見てみぬふりしていただきたい。
細かいことは気にするな、気になるから。
そして「胃」「消化」とくれば思い浮かぶのは"IN THE DARK"である。この曲で「胃」の中で主人公が語りかけるのは「暗闇」である。
地下鉄が光を求めるように暗いトンネルの中を駆け抜けるイメージにも見える。胃液に溶けるもの、それは「暗闇に溶ける」という言葉に重ねることもできるのではないだろうか。
暗闇がすべてを包むのであれば、自分せえもそこに溶けて消えてしまうことができる。
そんな地下鉄=胃袋というイメージを思い浮かべた。
「情熱の歌」
サビで繰り返し登場するが、この歌の真意を掴むのは難しい。「どこから聞こえる」という言葉のように、フワフワとしている。
こういう場合であれば、ほぼ間違いなく「自分の心の中で鳴っている歌」なのだ。
それは過去に聞いた曲なのかもしれない、もしくはこれから生まれるはずの音楽なのかもしれない。
そこにある情熱。情熱とは得てして自分の中から生まれるものである。記号化されていない、唯一僕が「聞こえた」のが君の「助けて」という言葉。その言葉によって内面が沸き上がってきたものが情熱の歌となる。
なぜその歌がどこから聞こえてくるのか、それは主人公がまだ胃の中(=地下鉄)にいるからである。自分の心に気付きかけている証でもある。
"EXIT"において主人公は「乗るはずの電車」をいつまでも見送ってしまう。そして"IN THE DARK"において光を求める心に暗闇は「悪いもんでも食ったような顔」をする。
「行こうか逃げようか」「電車に乗ろうか見送ろうか」「暗闇とまだ戯れるかどうか」君によってとどまっていた心はついに動き出す。
情熱の歌が僕の中にあるならば、「泣こうとしている 君へと寄り添う」のならば、君のそばに寄り添うのは、僕自身だ。
寄り添い、行き先も君が君が決めればいい、というメッセージ、それはまるで"ブレス"の歌詞のようではないだろうか。
背中を無理に押すものではない、そっと寄り添い、優しい肯定をくれる存在。まさにポルノグラフィティそのものではないか。
そう、君と僕の関係は、何も恋愛だけでない。
これはラヴソング。
愛は、どこにでもあるのだから。
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