2018年5月10日木曜日

「渦」歌詞解釈~合わせた指先が繋ぎ止めてしまったもの





シングルレビューを書いた際に宣言した"渦"の歌詞解釈を書きたいと思う。

歌詞としては、なかなか抽象的な部分やメタファが多いので、あくまでも個人的な解釈の1つと思っていただけると幸いです。

長くなるのであらかじめご了承ください。



ガラクタ




最初のライン、

凍えたよ 空の下
裸のまま追い出して


白昼、本当に裸で放り出されたとしたら犯罪になってしまう。裸とはつまり何も纏わない姿、つまりはあなたへの想いをさらけ出した僕の姿ではないだろうか。

「追い出して」という表現からも僕にとっては望まざる結果であることが分かる。あなたへの純粋な気持ちをぶつけたが、あなたは僕を受け入れてくれなかった。

僕にその純粋さが宿っていたのはここまでである。
僕に残ったものは、もう何もない。

聞いててよ 頭ん中
軋んだガラクタの音


この辺りから既に難解で、以前歌詞解釈をやろうとした際に挫折したポイントでもある。

しかし時間が経ち、ある曲を聴いたことで少し氷解した。

ガラクタばかり My Head My heart My love


そう"MICROWAVE"である。

真夜中にただ低く唸るだけ、頭の中には冷えきったガラクタばかり。15年後の曲を引き合いに出すのもどうかと思うが、あまりに共鳴する部分が多いではないか。

"MICROWAVE"において冷蔵庫と冷凍庫にたとえた僕が望むのは"熱"。冷えきった記憶たちをせめて温め直して欲しいという願い。




スカイハイ



待っててよ 暮れるまで
ひとりきりにしないで
洗ってよ からだじゅう
息止めとくからさぁ


「洗ってよ」というのも「裸」と同じく僕の内面を指していると考えてみよう。汚れてしまった心を洗って清めて欲しいと願う。

「待っててよ 暮れるまで」というフレーズが印象的であるが、何故、何を暮れるまで待つのかという疑問にも繋がる。

ここであらためて、"渦"はドラマ「スカイハイ」のオープニングテーマであったことを思い出したい。





新藤晴一という人はタイアップであっても、そのモチーフをそのまま出すようなタイプの作詞家ではない。そこで書かれるのは作品の本質的なテーマだ。

それはこの前のシングル"Mugen"でも明らかだろう。ワールドカップのテーマソングでありながら、サッカーに関するワードは使われていない。

そのために、タイアップ作品のテーマを見なければならない。

スカイハイのあらすじを引用しよう。

非業の死を遂げた死者たちが、怨みの門番の導きによって自らの死の真相を解き明かしていく異色のミステリーホラー。不合理な理由で死にいたった者たちがたどり着く場所、怨みの門。その門番・イズコ(釈由美子)は、そんな死者たちに3つのうちのいずれかの選択を迫まる。現世の人間を一人呪い殺す、永遠に現世をさまよう、天国で再生を待つ…。


補足して書くと、事故や殺人などで命を落とした者が自らの死の真相と向き合い、

1.すべてを受け入れて天国へ行き、生まれ変わりを待つ。
2.現世をさまよい続ける。
3.許せない相手を一人だけ呪い殺すことができる。ただし、その後は地獄へ行き、永遠に苦しみ続ける。

の内のいずれかを選択するというオムニバス形式の物語だ。

たとえば1話の主人公は親友に殺され夫を奪われてしまう。自分の居なくなった世界、そこで幸せそうに暮らす夫と親友、最後に主人公が選ぶのは復讐であった。

これを踏まえて"渦"の歌詞を見てみると、僕のあなたへの想いは、決して叶わない。しかし、あなたへの想いは募ってゆくばかりであった。憎むほどに。

それでも僕が欲しかったもの、それは「赦し」なのではないだろうか。その「赦し」こそが「スカイハイ」のテーマであるのだ。









赦し



話してよ 深い底
エンディングは眠りで
触っててよ その下を
後ろから裏側から


僕はあなたへ多くを望む「待っててよ」「洗ってよ」「話してよ」「触っててよ」。

こうして見てみると「触っててよ」というフレーズが目につく、これは決して「触ってよ」ではない。音数や歌詞の流れからいっても「触ってよ」の方がハマりそうなものだが、あえて「触っててよ」にしているということは、そこには作詞家としての強い意図があるからだ。

その触れているものはなんだろうか。それは「合わせた指先」に繋がるのではないだろうか。

合わせた指先から かすか僕に届く甘い鼓動
塞いだ唇から 不意にこぼれ落ちる甘い吐息

合わせた指先は何を指しているだろうか。僕とあなたの指が合わさったのか、それとも。


考えているうちに、ある曲のフレーズが思い浮かんだ。それは。

冷えた指先を温めようと
自分の両手を合わせてみても
僕の悲しみが行き交うだけで
それは祈りの姿に似ていた


本当はあなたは僕に触れていない、いや"触れられない"のではないか。

それでも「触っててよ」と願うのは、それが"祈り"だからなのだ。あなたの両手の指先が触れている間だけは、あなたは僕を想っていてくれるから。

「触っててよ」に続く「その下を」というフレーズ。これはずっとリビドーの叫びに聴こえていた。

「スカイハイ」について考え、あらためて歌詞に向き合った時に浮かんだ画がある。それは、棺桶に手を組んで横たわった僕の身体、横で手を合わせるあなた、そして"それを見つめる僕"の姿である。
棺桶の中で手を組むかどうかというのは宗教や宗派によって色々あるようなので、あくまで僕の頭に浮かんだイメージなのでご了承ください

あなたの指先を合わせ、もしかしたら眠る僕の手に触れたのかもしれない。その下にあるもの、それはハートだ。

僕の心に触れて欲しかった。「後ろから裏側から」もっと、もっと。
だが、それはもう叶うことはない願いであった。

しかし、あなたの合わせた指先、それこそ僕に与えられた「赦し」なのではないか。







僕のあなたへの感情は溢れ、ぶつかり合いながら排水溝へ渦となって流れていく。

「渦」という言葉、それは水が作り出す渦もあるが、もうひとつ意味がある。


めまぐるしく動いて入り乱れている状態


入り乱れているものはあなたへの感情だ。純粋なるあなたへの愛情、それが行き過ぎてしまった故の憎悪、あなたとの甘い刹那の記憶。それらがまるで飴細工のように絡まりあい、渦をつくる。

僕は流れて消えてしまうつもりだったのかもしれない。
排水溝は僕という存在にとっての行く末であったのだ。

しかし、それを塞いでしまったのが、あなただ。
長い髪、その合わせた指先。それが消えようとしていた僕の心を揺さぶってしまう。髪というのは「情念」が篭りやすいといわれている。

本当は、あなたも僕を想っていたのではないか。

それに気づいてしまった刹那。だが時間はもう戻らない、排水溝に渦となって呑み込まれてしまった水のように。

あなたの想い、祈り、赦しが、消えてしまうはずだった僕を繋ぎ止めて"しまった"。あなたの指先が合わせること、それは僕を想っているということ、心に触れていてくれること、だからこその「触っててよ」。


「何故、あの時」


僕は彷徨い続け、夜ごとにあなたを想い続ける。

人は儚いものに なぜかこんな惹かれ続けてしまう


※補足

分かりづらいと思うので、自分の考えたストーリーの流れを簡単に。


僕はあなたを想っていて、それを打ち明ける。しかしあなたと僕の関係は"許されざる関係"だった。

あなたのところを離れた僕は、何らかの拍子に命を落としてしまう。
霊体となった僕は現世を漂い、自らの行く末を考えていた。

あなたへの想いは叶わない、そう知った僕は現世を離れる決意をしていた。

しかし、僕は見てしまう。自分の亡骸に手を合わせて祈るあなたの姿を。
もしかしたらその時に僕への本当の想いが口からこぼれたのかもしれない。

消えてしまう(転生する)と決意していた僕だったが、その一瞬の出来事が忘れることができなくなってしまう。
そんな"甘い刹那"に惹かれてしまった僕は、現世であなたを求め続けてしまう。

というようなイメージです。




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