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2019年4月7日日曜日

ポルノ全シングルレビュー15th「シスター」








(あれ、まだ「シスター」…?)


春は旅立ちと別れの季節だ。

人は出会い、別れを繰り返す。

それは翌日までのバイバイかもしれないし、もう会うことのないサヨナラかもしれない。

その出会いと別れが確かに心に残すもの、それが"シスター"が描く悲しみだ。


ポルノ全シングルレビュー15th「シスター」











シングルについて




云わずもがなだが、ポルノグラフィティにとって大きな意味を持つシングルである。

3人で活動していたポルノグラフィティだが、5周年のベスト発売を期にベースのTamaが脱退、以降2人体制での活動となった。

その脱退の報と同時にアナウンスされたのが、この「シスター」の発売だった。脱退について公式ホームページで何度も文面を読み返し、2人になったアー写を見た。そのアー写は今は見れないが、目に焼き付いている。

当然、メンバーが脱退を受け入れたのとファンが知るには大きなタイムラグがある。ファンがショックを受けている間にポルノグラフィティは決意を新たに、先へ進んでいた。

シングルのジャケットは海岸で、マジックタイムの数分の間に撮影された。マジックタイムとは夜が朝に変わる瞬間の空。つまり、新しい夜明けである。

もちろん"シスター"を表す上で最も適した表現が、それだったのもあるが、やはり色々なことを重ねてしまう。

このシングルに収録された3曲が、今に繋がるポルノグラフィティの歴史にとって、欠くことのできない重要な意味合いを持っている。

前にも書いた気がするが、"シスター"が初めてラジオでオンエアされたのはベストアルバム発売の週であった。
当時、MDに録音して翌日の火曜日に八王子から、渋谷までベストアルバムを買いに行った(抽選イベントがあったから)。その京王線の車内で延々と繰り返し録音した"シスター"を聴いていたのを今でも覚えている。



1. シスター









悲しみ、喪失の慰め、悠久の刹那。僕らはいつも悲しみと喜びを胸に生きている。

本当に失われてしまうものは、この世にはない。それを書いたのが、現時点の最新シングル"フラワー"である。確かにそこに、種を残して、次へと繋がる。

舟は旅立ちの象徴であるが、別れの象徴でもある。

歌詞については、いつものことながら、長くなりそうなので別途記事を書きたい。

今思うことは、朝から始まり、たそがれへと続く時間の移り変わりが、もっと大きな、人生とかそういうものを表しているように感じて仕方ない。

たそがれへと消える太陽、それは終わりでもあり、新しい朝へのスタートラインに立つということでもある。

イントロのスネアのロールのアレンジが絶妙だ。
新たなポルノグラフィティの旅立ちのマーチングのようにも聴こえる。

マイナー進行でアコギの音色が哀愁を誘う、ポルノグラフィティ、本間昭光ならではの異国情緒たっぷりの情景。
決して派手な曲ではないが、こういったエキゾチズムを遺憾なく発揮しつつJ-POPらしいポップネスに昇華できるのは、ポルノグラフィティならではないだろうか。

ほとんどの楽曲にいえることなのだが、特に"シスター"はカバーしたとしても、その魅力を引き出すことが難しいはずだ。何本も重ねたアコギをはじめ、そもそも楽器の数が多過ぎて、なかなか選びにくい曲ではあるが。

哀愁のある展開となるが、Cメロで鐘の音とともに一気に決意の歌に変わる。だからこそ一番と同じサビが繰り返されても、違って聴こえるのだ。

悲しみと寄り添っていくこと、それを受け入れた上での「永遠に寄り添って僕らは生きていく」という決意。

いきなりハルカトミユキの話になって恐縮だが、代表曲に"ドライアイス"という曲がある。そのコメントを少し長いが引用したい。





「ドライアイスは、冷たすぎて触ると火傷するよ。」と幼い頃に聞いたとき、とても衝撃的だったのを覚えています。冷たくて火傷する?
今はそのことがよくわかります。実際ドライアイスに手をつけたわけではなく、生きていく中での実感として。

どこにも出口がないような絶望に陥ったとき、気持ちも体もボロボロに成り果ててしまったとき、一体どうしたらいいんだろう。そしてそれを傍から見ている立場だったとしたら、 一体何ができるんだろう。そんな中で書いたのがこの曲です。
どんな希望の言葉も、安っぽく中身のない綺麗事のようで、ただただ唸るようにして泣いたとき、喉の奥から絞り出てきた言葉が「ただ生きていて」という願いでした。
それはなまぬるい希望ではない、ドライアイスのように極限まで凍りついて初めて生まれる熱、焼け付くように熱い命の熱だと感じました。
それこそが最後に私達が見つけられる、闇の中の本当の希望なのではないかと。


「それはなまぬるい希望ではない、ドライアイスのように極限まで凍りついて初めて生まれる熱、焼け付くように熱い命の熱だと感じました。」という言葉が"シスター"を聴いた時に感じる、静かだけれど力強く歩み出す決意と通じたような気がする。











2. Human Being




ポルノグラフィティにとって初めての試みその①にあたる。

新藤晴一作曲×岡野昭仁作詞は、これが初めてである。

アコギの音色を主にした"シスター"から一転してソリッドなエレキギターがイントロでぶちかまされる。

岡野昭仁が歌詞にしてきたテーマのひとつが「自分と世界」である。いしわたり淳治のよく言う良い歌詞の条件に「距離感」がある。


距離感っていうのは、0メートル、1メートル、10メートル、100メートルって言い方をよくします。
0メートルは自分の心の中。1メートルは自分の1メートル手前にあるものの描写。10メートル先の描写。100メートルは、自分の手ではどうしようもないもの、手の届かないものの描写。


たとえば"夕陽と星空と僕"が名曲たる所以はこの距離感が絶妙ということもある。
君への想い、落ちる涙、地面、道路、空の星という視点の移り変わりが鮮やかだ。

しかし、もっと大きな意味でいけば、岡野昭仁という人は、アーティストとして作品全てを通してそれを表現しているように思えてならない。

世界とは自分であり、君であり、人類なのだ。

ある時は自分の内面を徹底的("朱いオレンジ")に、ある時は君と僕の間を徹底的("見つめている")などのように、岡野昭仁の楽曲はトータルで見ることで「僕と世界」の距離を表現している。

そして描かれた「人類」というテーマ。それはある種、究極的なテーマと言える。"東京ランドスケープ"もそうだが、5年という歳月がそれを表現できる、していきたいという自然(じねん)を生んだのではないだろうか。

本当にわからないものは自分自身=人類というシニカルな目線、そして邪魔なものはすべて排除するということ、それはリリースされた2003年より、今の2019年に更に強まっているように感じてならない。

実はこの曲にも「斜陽」のような印象を受ける。




3. 天気職人




ポルノグラフィティにとって初めての試みその②。

今度は岡野昭仁作曲×新藤晴一作詞としての初めての作品である。現ポルノグラフィティにとって本間昭光×新藤晴一に匹敵する黄金の組み合わせとなった。それは"天気職人"から既に発揮されている。

2人になったポルノグラフィティへ、当時ファンの間でも不安視する声があった。しかし「シスター」のタイトルリストが発表された時、作詞作曲の組み合わせと共に「天気職人」というタイトルで、その不安がなくなったという声が多かった。

改めて「天気職人」という発想が秀逸である。タイトルだけで勝ちだ。

人生や未来をキャンバスに例える歌詞はよくある。たとえば"君は100%"、"ゆきのいろ"などのように。そしてまたハルカトミユキで恐縮だが"17才"の「その窓を開けたなら/すべて今キャンバスになる」という歌詞を思い浮かべてしまう。

しかしキャンバスのように世界の空を描いている男、というのは、未だかつてないのではないか。

そこに「職人」とつけることで、寡黙で真面目な男という姿が一瞬にして浮かぶ言葉の選択、センスが新藤晴一という歌詞職人の為せる業だ。

新藤晴一という人は、言葉を巧みに使い、天気職人のように自分にしか生み出せない世界を創り上げた。

そんな素敵な世界観を、1人の女の子を誘えない男の妄想に着地させてしまうのが恐ろしいところである。


そんな風に思いを巡らせたそがれに


ここでも直接的に「たそがれ」という言葉を使って明日を描いている。そして、この次の曲が「黄昏ロマンス」になるということが、とても興味深い。

ここからは推察になるが、「たそがれ」という言葉は5周年を迎えたからこそ何度も使われたのではないだろうか。

ライヴDVD「Purple's」の副音声でも5周年で振り返ることが多かったが、それでも未来を見せるために未発表曲を3曲演奏したという。

そのバランスはまさに「シスター」のシングルを通して描かれてきた「たそがれ(黄昏)」を体言していないだろうか。

ポルノグラフィティにとって、これまでの歩みを踏まえて、新たな旅立ちを決意する。夜の向こうの明日へと歩み出す、それこそが「シスター」というシングルなのだ。

シングルというフォーマットが廃れつつあるご時世であるが、こうして見ていくと、シングルというものがアーティストにとって節目を作ってきたのかが分かるものであると、今回再認した。


シスター歌詞解釈〜あなたのために祈る事なら今の僕にも許されるでしょう


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