音楽好きをしていると大抵1曲は「人生を変える1曲」と出逢う。
自分にとってそれがポルノグラフィティの"アゲハ蝶"である。
中学時代に初めて聴いて、その後の人生を決定づけてしまった曲である。
"アゲハ蝶"の素晴らしさは挙げると枚挙に暇がない。
その中で今回は歌詞について、掘り下げてみたいと思う。
ポルノグラフィティ"アゲハ蝶"歌詞解釈
アゲハ蝶の"行間"
なぜ突然そう思ったかというと新藤晴一の著作であるエッセイ集「自宅にて」を読み返したからだ。
その中で"アゲハ蝶"の歌詞について書いている箇所がある。
少し抜粋する。
そして今回の「アゲハ蝶」。「アポロ」とは違う創り方だった。"行間"を感じて欲しいって。むしろ言葉にできることも"行間"に託して、聴き手が自由に広げてくれたらいいって。
シングルでありながら、しっかりと行間を含ませることが出来るようになってきた時期だからこそ、"アゲハ蝶"は生まれたのだ。
つまりはデビュー当初は少しでも引っ掛かる言葉やフレーズを詰め込んでいたが、そうしなくてもしっかりと曲を聴いてもらえるようになってきた、という状況である。
それを表すように歌詞では
詩人がたったひとひらの言の葉に込めた 意味をついに知ることはない
と歌われる。
上でも触れているが新藤晴一は「歌詞については個人の解釈に任せる」というスタンスの人である。
だからこそ今まで僕はあれこれ書いてきたんだけど。
その上、新藤晴一の歌詞には行間を読み取りたくなるような魅力が秘められている。
では具体的に歌詞を見ていこう。
旅人
主人公は旅人に問いかける。
この旅人は、その後で自分自身だということが判るのだが、その問いかけは、
「どこまで行くのか」
「いつになれば終えるのか」
「いつになれば終えるのか」
というものである。
「終える」という言葉にもあるように、主人公は自分自身の行く末を見定められていない。
そんな中で"アゲハ蝶"と出逢う。
主人公と"アゲハ蝶"は対象的である。
宛もなく道を歩いている主人公、一方"アゲハ蝶"は自由に空で舞い遊んでいる。
後に新藤晴一は"メリッサ"を書くことになるのだが、そこでも「地を這うばかりの俺」と「宙に舞うメリッサの葉」を対比させている。それにも近いと思う。
蝶は風水的に「美」や「喜び」を表す。
そして、もう1つ「生まれかわり」という意味もある。
主人公が"アゲハ蝶"に惹かれるのは、自分にはないものを"アゲハ蝶"が持っているからである。
だからこそ、主人公は"アゲハ蝶"に魅了されるのだ。
詩人
2番に出てくる詩人は何を表しているだろうか。
詩というものは限られた文字数の中で想いをこめる。
先にも挙げたように、そこに"行間"があるのだ。
2000年以降、歌詞の行間を読み取るような曲が減ってきた、とはよく言われることである。
想いを表面化させて、読み取るではなくて直接感じさせる歌詞だ。
この歌詞は「込めた想いが上手く伝わらない」ということを示している。だが、同時に「詩(歌詞)を表面的にしか受け取ってくれない」という書き手の心情も込められてはいないだろうか。
表面の先、行間にまで込められた想いが伝わらないという葛藤である。
詩(詞)を書くものとしての葛藤はその少し後に、「幸せについて本気出して考えてみた」のカップリングとして世に出る"TVスター"で更に色濃く描かれている。歌詞を抜粋すると、
君だけの歌は今
CDショップに並んでる
CDショップに並んでる
一人部屋で書いた
白い紙に書いた
言葉が街に舞い散る
気付いてくれるといいな
白い紙に書いた
言葉が街に舞い散る
気付いてくれるといいな
と表現されている。
できればフルで聴いてほしい。
新藤晴一は2009年に発売したシングル曲"この胸を、愛を射よ"辺りからシンプルな言葉を使った歌詞を書くことを意識する機会が増えた。
もちろん全てではないが。
そこに意識がシフトしたのは、こういった側面を感じたのかもしれない。
2番のサビは人気が高いフレーズだが、この部分は新藤晴一としては「サービス的に書いた」歌詞であるという。どこで言ったか失念してしまったが、カフェイレだっただろうか。
そこばかりが注目されてちょっと悲しい、というニュアンスの発言だったように聞こえたのを、
よく覚えている。
エッセイでも書いているが、シングル曲はサビの頭数秒で心を掴むようなものを目指しているという。
エッセイでも書いているが、シングル曲はサビの頭数秒で心を掴むようなものを目指しているという。
"アゲハ蝶"はサビではそういった"キャッチー"さを強めた歌詞だけど、メロ部分は比較的しっかり読み込んでいくような歌詞というバランス感覚だと思う。
夜の蝶
最後のサビ。これこそが"アゲハ蝶"の歌詞の世界を紐解く上で重要なものである。
歌詞の最初で「夏の夜の真ん中 月の下」とあること、そしてそこに"咲いた"アゲハ蝶。
つまり"夜の蝶"である。
「夜の蝶」という映画がある。1957年に公開された映画で、吉村公三郎が監督である。
この作品は銀座の酒場に生きる女性、つまり水商売の女性を描いた作品である。
ここまで書いたが、僕はこの作品を見たことがなくて完全なるWikipediaの受け売りである。この世でWikipediaに書いてあることで間違っていることは何一つないので問題ない。
しかし、手の届かぬ存在、愛されたいと願っても叶わないこと、バンドが売れて新藤晴一も経験したであろう、夜の世界。
ふざけた解釈と取るかもしれないが、自分としてはわりと真面目に考えている。
たとえばわ「冷たい水をください」はチェイサーではないか。
すみません。こちらはふざけました。
さて、蝶は花から花へ蜜を吸うため飛び回る。
そしてその身体には花粉が付いている。
羽ばたいた蝶はその花粉を撒き散らしはしないだろうか。
最後に余談だが"アゲハ蝶"は昔、漫画化されたことがある。
描いたのは、なんと古屋兎丸である。
その作品の主人公は中年の父親であり、歌詞のアゲハ蝶は娘の友達という際どい設定で、ファンからそれはそれは大層な批判を受けていた。
僕も先日読み返したのだが、なかなか残念な気持ちになった。
古屋兎丸は好きなのだが……
これは裏を返せばそれほど聴いた人の中のアゲハ蝶が生まれているということでもある。
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