2019年7月19日金曜日

【レビュー】BUMP OF CHICKENアルバム「aurora arc」全曲感想








正直、だいぶ久しぶりにアルバムを聴いた。

僕の世代(1987年生まれ)くらいは、多くが学生時代にバンプを通っている。なんせ、多感な中学時代が"天体観測"の時代だったからだ。

「ユグドラシル」を狂ったように聴いて、"カルマ"の辺りから記憶が薄れる。正直に白状すれば、ほとんどの人と同じような道を歩んでいた。

そして、またほとんどの人と同じように、またBUMP OF CHICKENへの熱が再来していた。
その熱を呼び覚ましたのが「aurora arc」というアルバムであった。


BUMP OF CHICKENアルバム「aurora arc」
全曲感想






aurora arc









BUMP OF CHICKENの熱心なファンにとっては、どこかしらで発表されて聴いたことがある曲がほとんどを占めるアルバムというのは、物足りなさを感じるものと思う。

ほとんどの音楽好きにとって、アルバムとは好きなアーティストの新曲が増える機会だからだ。だからこそ、既出の曲が多ければ多いほど、ファンとしては複雑な気持ちになる。

それは、これだけ音楽好きをやってきた僕にとって、痛いほどわかる。

しかし、こうして恥ずかしながら帰って来たかつてのバンプファンたちには「aurora arc」は、あの頃の熱を呼び起こさせる特別な1枚になっているのではないだろうか。

BUMP OF CHICKENの魅力を再認できる1枚となっている。



1. aurora arc




インスト曲。

2019年3月にアルバムのタイトルが決まってから唯一書かれた曲だという。
アルバムの方向性を定めるインスト曲となっている。

エフェクトを効かせたアコギのアルペジオ。
そのサウンドが時を刻むように鳴り響くなか、優雅に漂うようなピアノが、空に浮かぶオーロラを思わせる。

それは次第に電子音に姿を変え、壮大なアルバムに相応しい幕開けになる。



2. 月虹

アニメ「からくりサーカス」オープニングテーマ&エンディングテーマ


バックのサウンドアプローチが少しアイリッシュのケルト風で、北欧を思わせる。

歌詞の端々に藤原基央らしさが感じられるが、BUMP OF CHICKENの中でも比較的わかりやすくストレートな想いが伝えられる。

歌詞の落し物も探し物も、もう見つかっているもの。
大袈裟にいえば生きていくことの意味、理由。それはあなたへの想いで、願いはただひとつ、あなたに一度だけでも頷いて欲しいということ。その願いは比較的アルバム全編通して感じられ、それがアルバムの世界観を創っている要因のひとつではないだろうか。

虹がなぜ「弧(arc)」を描いてアーチ型に見えるのかというと、細かいことは置いておくと水滴が太陽と視点の42°の位置にある時に見えるため。つまりは、虹は空と人の間の「特別な位置関係」にあるから見える。

そして、月もまた地球との間に釣り合う引力と遠心力によって、特別な距離関係となっている。



3. Aurora

ドラマ「グッドワイフ」主題歌


近年のBUMP OF CHICKENの特徴であるキラキラとした電子音とバンドサウンドの融合。

藤原基央は様々な距離を言葉にする人だ。"月虹"では過去と今を、"Aurora"では今と未来を描いている。

求める声、そしてそれを確かめられたら透明なハートに形が与えられる。

意図的にと感じるほど、"月虹"と"Aurora"は通じ合っている。



4. 記念撮影

カップヌードルCMソング



バンドサウンドというよりは、EDMテイストにバンドっぽさを混ぜ入れたようなバランス。

そこに込められた言葉は、やはり過去と今。
たとえ想像したものでなくても、確かに繋がってきた今がある限り、それは未来へ繋がっていく。

ジュブナイルの持つ神秘性、それは今は現実に見える世界も特別なものに見える魔法の中にある。



5. ジャングルジム




アコギによる、とてもシンプルな弾き語りナンバー。

歌声や曲がとても懐かしく、こうしたシンプルなバラードが大好きだった自分を思い返させてくれる。

こちらも少年期の記憶。
未来しか見えていなかったジャングルジムの中。その先にあったのは、ただ行き帰りをするだけの現実。

歌詞のテーマにはよく冒険性があるが、子ども時代のジャングルジムへ行って帰るだけの毎日でも、確かな日々がそこにあった。そんな自分を思い出して、また再び歩き出す。

「最新の涙」というフレーズがとても新鮮で鮮やかだなと思う。



6. リボン

「Galaxy S8」CMソング



「ガラス玉」など色々な過去の曲たちを意識させるが、それは本人は意識していない偶然だったらしい。逆にいえば、狙わないからこそ、本心からの言葉が並んでいるといえる。

しかしながら、Cメロでの切々とした歌声の表現は、昔のバンプでは成しえなかったサウンドである。

想像した未来と違っても迷子ではない、"記念撮影"から"ジャングルジム"と繋いできた記憶が、嵐の中でも導いてくれて、未来へ繋がっていく。

結ばれたままでなくても、また結び目をつくるかとができる。










7. シリウス

アニメ「重神機パンドーラ」オープニングテーマ



疾走感溢れる楽曲。

スカパーでMVを見て、あぁやっぱりバンプはバンプだと思わされた曲。ちゃんと聴いて来なかった自分を恥じた。

サビで低くなる歌声だからこそ、そこに強い信念が宿る。

シリウスといえば、地球から見える一番明るい恒星だ。
アルバムのここまででもかなり多く「灯り」という言葉が登場する。暗闇を照らしてくれるものであり、導くものであり、目指す未来でもある。

そうして考えるときに、恒星の光というのは遥か昔の光を見ている。たとえばシリウスは約7年前の光がようやく地球に届き、僕らのレンズに映る。それは藤原基央が描き続けてきた世界そのものではないか。




8. アリア

ドラマ「仰げば尊し」主題歌



アルバムのなかでは最も古い曲。

スペースシャワーの特番を見ていて、バラバラだったシングルたちが「aurora arc」というアルバムに入った時に、収まるべき場所に収まった感覚になったというようなことを言っていたか、流れで聴いてもアルバムへと確かに繋がるものを感じさせる。

それは、この3年という月日のBUMP OF CHICKENのモードを表す曲となっているからでもある。

イントロのオルガンやベルが神秘性を感じさせる。

どれだけ言葉を並べても、気持ちを全て表すことはできない。しかし見つめること、触れることで自分の想像以上に伝わるものがある。
見つめ返すことができなかった後悔、触れた記憶は確かなまま、ただ想いを馳せて涙をこぼす。




9. 話がしたいよ

映画「億男」主題歌



これはMステで聴いた印象が、とても強く残っている。
この曲が明確に自分の中でバンプやっぱりいいなと思わせてくれた曲である。

程よく力が抜けているのは、制作時に藤原基央が疲れて弾いたものがそのまま曲になったからだという。

ボイジャーが飛び続けていくことも、宇宙が拡がり続けていくことも、自分のポケットに広がっている宇宙も、風も、空も、匂いも、未来も、消えたとしても終わることはない。

そんな描写たちを見ていくと突然くる「お薬貰ったし」というワンフレーズにドキリとさせられる。

最後の方のギターソロで「俺の知ってる増川じゃない」と思って、大変申し訳ない。




10. アンサー

アニメ「3月のライオン」オープニングテーマ



ここまで何度か「迷子」というフレーズが出てきたが、ここで「二度ともう 迷わない」という力強いメッセージに変わる。

確かなものを見つけ、迷いは消える。
それは確かに生きてきた、生きている呼吸と、呼ぶ声。

どんな場所であれ、それがある限りは歩き続け、そこへ向かっていける。



11. 望遠のマーチ

「妖怪ウォッチ ワールド」CMソング



身も蓋もない話をすれば、「aurora arc」の中で藤原基央の描くテーマはかなり限られた狭い範囲のテーマを歌っている。たとえば希望と絶望というテーマは"シリウス"でも描かれているものだ。

もっと言ってしまえばBUMP OF CHICKENとはそうしたテーマをずっと歌ってきたバンドなのである。

しかしながら、そんな中で直接的に「全員ひとりぼっち」だったり、「いこう」ではなく「いこうよ」という言葉となむていたり、その目線は確実に変化している。

だからこそここでタイトルに「マーチ」と使われていることは大きな意味があるはずだ。



12. Spica

アニメ「重神機パンドーラ」エンディングテーマ



個人的な好みで言うと、一番グッときた曲。
特にサビのメロディと歌詞の流れが、初めてMVを見たときに、惹き込まれた。

「どこでも行ける」であったり、「未来」だったり広がっていくものを描くなかで、逆に自分の中心に向かう感情も強くなっていく。

それが中心にある限り、どこにいても、どこへ行こうと、確かな場所へ帰って来れる。

帰って来れる場所があるならば、それは人にとって大きな支えとなる。そして何より「いってきます」と言える存在の人が、そこにいること。

帰る場所とは物理的な家や寝床といった場所だけでなく、自分の信じるもの、愛しているものがあるかどうかだ。



13. 新世界

ロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーションテーマソング








「ベイビーアイラブユーだぜ」


「ベイビーアイラブユーだぜ」????

藤原基央どうしたと思った。テーマ性似てると書いてきた中で、これを放り込まれると、まさに新世界。

ここまでドストレートなラブソングが来ると、驚きである。さすがにこれは「ラブソングじゃない」とは言わないだろう。

本人はそこまで思ってなくて、周りからはよう言われるとインタビューで語っているが、BUMP OF CHICKENを知るものなら、驚かずにいられるだろうか。



14. 流れ星の正体




改めて、宇宙を描くほど人の内面を描いている、と感じるのだ。

アルバムを通して繰り返し語られてきたテーマにひとつの答えが当てられる。

流れ星の正体、それは自分であり、君であり、命そのものである。燃え尽きる瞬間に輝きを放ち、生まれては消えていく存在。

そんな光にいつしか、人は願いを重ねるようになった。

それは、オーロラもまた。


オーロラはローマ神話の女神アウロラに由来するという。アウロラが司るのは光である。古来の中国や西ヨーロッパでは緯度の関係で赤い部分が強調されて見えて、血を連想させることから戦争の兆しなどとされたという。

空の神秘に、人は想いを重ねる。

オーロラの正体が解明されるまで、人にとってオーロラはまさに魔法のような存在だっただろう。フィンランドのサーミ族ではオーロラを「聞こえる光」と呼ぶという。

オーロラは大気に帯電したプラズマが放電した際に音が伴うという説がある。自然が奏でる神秘の音楽だ。

BUMP OF CHICKENのメンバーとスタッフがイエローバンクスで見たオーロラ、それが"aurora arc"という曲に繋がり、アルバムに結実したことは、きっとオーロラの声に導かれたのかもしれない。

オーロラも音楽も形のないものだ。

そして、どちらも見た、聴いた人によって様々な受け方がある。藤原基央が描いた世界は、これでもかというほど徹底的に同じ世界を描いていて、その同じテーマの端々から細部の色を読み取っていく。

そうして出来上がった絵が、自分だけにしか見えないオーロラとなる。

放った音たちが、ツアーでどんな光を放つか、楽しみだ。

(友人が申込んだチケットが当たれば)



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