2021年3月29日月曜日

【ベストリリック】Radiohead ”True Love Waits”の和訳歌詞の意味を考察したら涙が出た







※2020年の夏くらいに書いたものなので最後の時系列がおかしくなってますがご了承ください


「NMEが選ぶレディオヘッドのベスト・リリック」という企画があり、そこで1位になったのが表題の” True Love Waits”である。

初披露から20年以上の時を経て音源化された曲は、何を唄っているのか、歌詞から紐解いていく。

考察した結果、人を取り巻く「運命」というものを、痛いほど考えさせられた。




歌詞




色々なブログなどを参考にさせていただきながら、歌詞とその和訳を引用する。



I'll drown my beliefs
To have your babies
I'll dress like your niece
And wash your swollen feet

Just don't leave
Don't leave

I'm not living, I'm just killing time
Your tiny hands, your crazy-kitten smile

Just don't leave
Don't leave

And true love waits
In haunted attics
And true love lives
On lollipops and crisps

Just don't leave
Don't leave


ぼくは信念を捨てよう
きみとの子供を持つために
きみの姪っ子のように着飾って
きみの腫れた足を洗おう

どうか、行かないで
行かないで

ぼくは生きていけない
ただ時間を無駄にしている
きみの小さな手
きみのじゃれる子猫のような笑顔

どうか、行かないで
行かないで

真実の愛は待っている
幽霊の出る屋根裏で
真実の愛は生きている
キャンディやチップスの上で

どうか、行かないで
行かないで




21年間未音源化だった曲





Radiohead、トム・ヨークの中でもとりわけ自分の心情をストレートに表現している曲だ。
ただ、ストレートなラヴソングではあるが、ストレートというのは、「素直」という意味でなく、「実直」「愚直」という言葉の方がニュアンス的には近いと思う。

紐解くにはまず、この曲の背景を知る必要があるだろう。


この曲がはじめて客前で披露されたのは1995年12月5日のフランス公演だと云われている。

トム・ヨークによるアコースティックギターの弾き語りで演奏された。
しかし以降ライヴで披露はされるものの、長年の間スタジオ音源としては収録されなかった。

唯一オフィシャルで音源化されていたのが2001年のライヴ盤「I Might Be Wrong」に収録された弾き語りバージョンだけであった。無論、ファンにはお馴染みだがRadioheadの特異性として、このようにライヴで披露しながら音源として未収録の楽曲は無数に存在する。

”True Love Waits”は何度も収録が検討されながらも、それが実現しなかったのは納得のいくアレンジが完成しなかったためとされている。だが、2016年に発表されたアルバム「A Moon Shaped Pool」で遂に初めてスタジオ音源化された。当初は同じく未音源化のままだった”Lift”が収録されるという噂だったが、”True Love Waits”が収録されると判明し、ファンたちの間で話題となった。
※”Lift”は翌年に発売された「OK Computer」の20周年記念盤の特典ディスクで初音源化された

初披露から21年あまり、なぜこのタイミングで音源化がされたのだろうか。
ようやく楽曲に見合うアレンジに辿り着いたという理由はもちろんあるだろうが、自分の中でもう1点の仮説が生まれた。この記事で書きたいのはその側面である。

それは、”True Love Waits”という曲が完成されるべきタイミングとなったという面だ。

ただ、その為には楽曲の背景だけでなく、トム・ヨークの人生そのものを知る必要がある。
前置きのような話ばかりで恐縮だが、続けよう。








レイチェル・オーエンス





トム・ヨークは大学時代に、後に妻となるレイチェル・オーエンスと出会う。
交際の末に結婚するが、2015年に離婚をする。

結婚した年について、2003年に極秘婚という記事もあったけど、一方で2015年に離婚した際に「23年の結婚生活」ともあって、どちらが正しいのだろう。ただ、2001年に長男のノア・ヨークが誕生しているので、1992年の結婚の方がしっくりくる(92年はRadioheadのメジャーデビュー年でもある)。

トム・ヨーク自身は気難しい性格で、趣味が「悩む事」というほどこじれた人間である。
1997年から2000年頃までは鬱病を患ってもいた。折しもバンドのキャリアとしては「OK Computer」(1997年)から「KID A」(2000年)の間の時期である。

2000年~2001年を境にバンドもトム・ヨーク自身も、大きな転換期を迎える。

ある記事によると”True Love Waits”はトム・ヨークが結婚する際に生まれたという。
ならば、曲の誕生は披露された95年よりも少し前、92年頃にはすでに原型があったと捉えていいかもしれない。それを踏まえると冒頭の、



I'll drown my beliefs
To have your babies
ぼくは信念を捨てよう
きみとの子供を持つために



というフレーズはまさに、これから始まる生活を唄っているように思える。
しかし、ならば繰り返し唄われる「don't leave(行かないで)」は何を意味するのだろうか。

「真実の愛」というタイトルのわりには、どこかネガティブな響きの言葉が多い。
推測になるが僕はこれが、トム・ヨークが結婚というものについて抱いた幸せとか希望というものの裏にあった感情なのではないかと思う。

人が何かを手にしたとき、同時にそれを失ってしまう可能性も生まれる。
「don't leave」というフレーズは、そこにある幸せだからこそ、その表裏にある自分から離れてしまうのが怖いという感情も抱かせているのではないだろうか。

2番で唄われる「時間」「小さな手」などは、失われていくもの、いずれなくなってしまうもののモチーフだ。「ぼく」はそうしたものに対して、どこかすがりつくように、求め続けているような印象を受ける。

ただ、この曲はそういったトム・ヨーク自身の心情もあるけれど、決して一面的なものを描いていないとも思う。Wikipedia(論文ではないので、このブログでは遠慮なく参考文献としている)を見ると、


And true love lives
On lollipops and crisps
真実の愛は生きている
キャンディやチップスの上で



というフレーズについて「Yorke read about a child who was left alone by his parents for days and survived by eating junk food」(トム・ヨークは、両親から数日間独りで放置され、ジャンクフードを食べて生き延びた子どもについての話を読んだ)とある。「愛」というものについて、側面的に描こうとしている。

同記事で歌詞の最初のフレーズ(I'll drown my beliefs~)に関して「when people grow out of childish behaviour; the narrator is offering not to grow up to keep someone they love」(幼稚な行動―互いを愛し続けるために幼いままでいること※)というニュアンスの言葉を残している。
※管理人は致命的に英語ができないので訳をあてにしないこと

これってつまりは、愛というものの純粋性(≒無邪気さ)について言っているのではないかと思う。

屋根裏部屋で、ジャンクフードを食べながら両親の帰りを待つ子ども。
置いてあったキャンディやポテトチップスが、この子にとっては愛であったのではないかと思えて仕方ない。

この子どもの話のソースまでは見つからなかったから、現実の話なのかフィクションの話なのかは不明だ。だから、ネグレクトなのか、何か理由があったのか(数日子どもを放置するという理由があるとは思えないが)は判らない。

「真実の愛」が孤独にも宿るということが、希望でもあって欲しいと願いたい。




真実の愛





アレンジについて、かなりのパターンを試したがうまくいかずに頓挫していた”True Love Waits”。 第6のメンバーとしておなじみのナイジェル・ゴッドリッチによると、「I Might Be Wrong」の弾き語りを収録したことも納得がいっていないほどのようだ。

結果的にギターではなくピアノが主体となり、晴れて「A Moon Shaped Pool」に収録されることとなった。

ここから(ようやく)冒頭に書いた、仮説について書こう。
かなり憶測と想像が強くなるが、考察なのでご了承いただきたい。このブログはそもそも妄想で成り立っているのである。

”True Love Waits”は時を経て、ようやくRadiohead――トム・ヨークがこの曲を完成させる運命に辿り着いたのではないだろうか。畏れ多くいえば、ようやくこの曲と真に向き合えるようになったのではないだろうか。

トム・ヨーク自身に”True Love Waits”と向き合うことへ起きた変化。

それは「喪失」の変化だ。

以前のバージョンは上記のように「手に入れたものを失う(喪う)ことの恐れ」を唄っているように聴こえる。
それが、本当の喪失を迎えた時に、人は真の失うことの意味を知る。

アコースティックギターの弾き語りは、ちゃんと肉体を感じるのに、「A Moon Shaped Pool」収録版では肉体を離れたような浮遊感がある。ピアノの余韻、それが中空を彷徨う亡霊となった魂のような印象を与えるのかもしれない。

2015年にトム・ヨークはレイチェル・オーエンスと離婚をする。
そこで、トム・ヨークは自分の人生を顧みたはずだ。気難しく、ネガティブで悩んでばかりの人間が見つけたもの。

それが残されたキャンディやポテトチップスのような、真実の愛だったならば。



Just don't leave
Don't leave
どうか、行かないで
行かないで



というフレーズは、あまりにも残酷で悲しいフレーズだ。
同時に、儚く美しいとさえも思えてしまう。

2016年5月にリリースされたアルバム「A Moon Shaped Pool」。


その7ヶ月後。


2016年12月18日にレイチェル・オーウェンは癌により逝去する。

享年48歳であった。


【追記】
そんなことを書いていたら、2020年9月にトム・ヨークが再婚したというニュースが流れた。 なんだよ。おめでとう。

※この記事は2020年夏頃に書かれたものです


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