2020年4月3日金曜日

何もかもに疲れ果てた時は星野源の「エピソード」を聴けばいい







疲れた。

様々なことに。

こんな絶望的な状況になって、それでも連日のように呆れるような発表がされていく。

頭を抱えるばかりだ。

そんな日々だからこそ、音楽に頼ればいい。

音楽は暗いトンネルにひとつの光をくれる。

たとえ出口が見えなくとも、足下を照らす明かりがあれば、人は希望を捨てないでいられる。

そんな光をくれるアルバム、星野源の「エピソード」から何曲か紹介したい。


こんな時だからこそ聴いたことない人は聴いて欲しいし、持ってる人は聴き返してみて欲しい。












"エピソード"




「エピソード」は2011年9月28日にリリースされた星野源の2ndアルバムである。

アコースティックな手触りの曲が多くて、まさか後にガッキーと共演して天下を取るようには思えない。


30分の一話の中で
先の見えない苦しみは
15分あたりにくるんだ


アルバムはこんな歌詞で始まる。
表題曲でもある"エピソード"だ。2分ちょっとの短めのオープニングナンバーである。

「30分」というのはアニメの放送時間のことだ。或いは短めで一話完結の海外ドラマ(「フレンズ」とかそういうタイプ)のことでもあるという。

「先の見えない苦しみ」

リリース日からもわかると思うが、このアルバムは東日本の震災の影響を大きく受けている。その上で自身の生活でも辛い出来事が重なって最も辛い時期に書かれたのが"エピソード"だという。

そんな時期にたまたま途中から見た作品で、CM前にピンチが来て、その後の15分で解決して次回予告が流れた。

そのストーリー展開に対して、このように思って書いたという。


で、その時思ったのが、本当に今1番辛いけど、たぶんこの辛さは終わるよな、と。絶対に一生続くわけじゃないから、大丈夫だろうなって変な確信が生まれて。
今話題の星野 源がセカンドアルバム『エピソード』リリース!!


それを踏まえて"エピソード"の歌詞を見ると、色々なことが腑に落ちるのではないだろうか。


お金の匂い 間にはさみ
ふと君のことを思い出す
未来が見えないな この世界でも

楽しい時間 あっという間だろう
どんな話でも大丈夫
15分もすれば 次のエピソード


まさに僕らは今「お金の匂い(=CM)」の直前のところにいる。未来が見えない場所で、絶望の足音しか聞こえなくても、いつか次のエピソードがやってくる。

聴き返して、"エピソード"を唄う星野源の優しい歌声が沁み込み、そこから溢れてこみ上げてくるものがあった。人はそうして心を整えていくのだ。






"未来"








9曲目に収録された"未来"という曲。

この曲は震災の2日後に書かれた。

風呂場にギターを持ち込み、唄うことと向き合って生まれた楽曲だ。

そこで唄われる「未来」とは。

夕暮れの風呂場に
熱いお湯 浴びながら
消えていく 記憶達
今日も生まれる未来


止まった心であっても、時間は容赦なく未来へ進む。

しかし、風呂場でギターを爪弾く星野源の姿を思い浮かべると別の側面が出てくる。

ここで鳴らされた音のひとつひとつ生まれた音たち、それもまた未来を紡ぐものだ。


何度も何度もなぜ うずくまる
何度も取り残され 今日が冷えていく
何ものでもないもの 起き上がり
小さな勇気を使い 空になる


歌詞では「何度も」という言葉が、文字通り何度も出てくる。

震災直後、全てが変わってしまった世界で、誰もが心に答えのない問い掛けを繰り返した。

「どうすれば」

2020年の春。まさに世界はまたこの問い掛けを、何度も何度も繰り返している。

「何ものでもないもの」、それは唄うことと向き合った星野源が自分の行っていることが仕事として本当に必要なものなのかと問い掛けながら生まれた言葉。

いま「不要不急」という言葉が叫ばれた。
たしかに音楽は不要不急かもしれない。けれど、音楽によってなんとか僕はここまで生きてこれた。

そして、最後のサビ。


何度も何度もなぜ うずくまる
何度も何度も見た 頬の雨がある
何度も何度も言うよ 始めから
たった一つだけを君は持っている
たった一つだけを君は持っている


何度も何度も聴いているのに、「何度も何度も言うよ 始めから」というフレーズを聴くと、どうしようもないほど泣けてしまう。

「たった一つ」のもの。それは愛するものかもしれない、或いは命そのものかもしれない。


曲中に「さよならは誰にでも」というフレーズがある。そして、この後に星野源は"知らない"という曲を書く。"知らない"にはこんなフレーズがある。







止まる胸の音に
高く高く響く 思い出がある
さよならはまだ言えないで
闇の中歩く 君がくれた
~"知らない"


"知らない"は星野源がプライベートで起きたショックな出来事がきっかけになったという。そこから苦悩の末に産み出された歌詞は、命が終わりを迎えた先を描いている。


星野:仮に今死んだとしても続きがあると思うんです。それは残された人の存在だったり、あるいは、「死んでもこのままだったらどうしよう? 幽霊としてずっとこのままだったら?」ということも考えられるし。そう考えたら辿り着くのは、「今、頑張るしかない」っていうことだったんです。そう考えたら前向きになるって言うか、前向きにならざるを得ない。
星野 源、ニューシングル「知らない」について語る。


インタビューではこのように答えている。

これは星野源が持つ信念を表していると思う。

だからこそ、"未来"も同じように絶望の先の未来を迎えるために歩み始める力強い命の歌となっているのだ。



"日常"と"予想"








アルバムの12曲目の"日常"、そしてラストナンバーの"予想"。この2曲の存在が、アルバムを聴くその者の心を、未来へ向けてくれる。


無駄なことだと思いながらも それでもやるのよ
意味がないさと言われながらも それでも歌うの

理由などいらない
少しだけ大事な物があれば それだけで
~"日常"


"日常"はトンネルを進む姿が印象的なMVが制作されている。

"未来"では自分の職業そのものの存在意義まで見つめ直した星野源。しかし、ここで「理由などいらない」というところにまで想いが昇華する。

歌ということにおいて、星野源にとってはもう一つ大きな意味がある。

星野源は元々インストバンドSAKEROCKをやっていた。
しかしながら、自身の中では「歌いたい」という想いが強かったという。






それが実り、1stアルバム「ばかのうた」が制作された。
その頃にはまだ「恥ずかしさ」があったという。

しかし歌うたびに、星野源の歌は大きくなっていった。

なぜなら、彼はいつだって音楽を、歌を愛していたからだ。
そして、生まれるもの。


日々は動き 今が生まれる
暗い部屋でも 進む進む
僕はそこで ずっと歌っているさ
へたな声をあげて
~"日常"


"未来"に打ちのめされた人間にとって、涙せずにいられるだろうか。

それが"予想"でこんなフレーズに繋がる。


予想もできない日々が
僕をただ 運んでいく
運命にも さよならできる
ほどに 遠い うねるところ
~”予想"


星野源にとって歌うこと、それこそが未来へ繋げるものだった。

いつまでも、この曲たちが胸を打ち続ける。それは、星野源がアルバムにこんな想いを込めたからだ。



それで出た答えは、3月より前も後も変わらない普遍的な、どっちにしろ書いていたであろう「大事なもの」を歌うってことだったんです。何十年前、何百年後の人が聴いても、多分この問題は変わってないんだろうなっていうところに行きついたんですね。さらに、僕なんかにできるとは思えないけど誰かを励ましたい、自分も含めて「大丈夫だよ」って言いたいっていう気持ちが出てきて。今が全然大丈夫じゃないのは重々承知なんだけど、この苦しみは絶対抜けられるっていう確信があったから。今までもどんなにしんどくてもだいたい抜けてこられたので、「これは抜けられるからな」っていう気持ちを歌いたかった。
星野源「エピソード」の裏舞台

絶望的な状況で、絶望的な想いをした人間がそれでも前を向くために書かかれた歌たちなのだ。「エピソード」に収められたのは、そんな歌たちなのだ。

だからこそ、こんな世の中になっても、その歌たちが愛しくなる。


最後に、インタビューから言葉を引用する。


なんとなく思ってるのは、たぶん、死ぬことを書きたいんじゃなくて、
生きることを書きたいんだと思うんですよ。
で、生きることを正直に書くと、死ぬことを書かざるをえないっていう。
死ぬってことをなしにして、前向きにはなれないっていうか。
それだと、なんかだましてる感じがしちゃうんです。
「死ぬことを、じゃなくて、生きることを書きたい。で、生きることを正直に書くと、死ぬことを書かざるをえない」


彼の歌を胸に。

"日常"のMVのように。

暗いトンネルを歩き続けるしかない。

胸の音を鳴らしながら。

いつか外に繋がる、その日まで。


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