雨が家を沈め 波が町ごとさらった 奪った
大地は揺れて裂けた 人はうろたえるだけの無力さよ
小さきこの存在
「未曾有(みぞう)」
という言葉がある。
言葉の意味を辞書から引用すると。
1 今までに一度もなかったこと。また、非常に珍しいこと。希有 (けう) 。みぞうう。「未曽有の大地震」
2 十二分経の一。仏・菩薩 (ぼさつ) による奇跡を記した経典。
元々は仏教用語の「adbhuta(アドゥブタ)」から来ていると云われ「未だ曾(かつ)て有らざる」と訳されたことに由来するとされている。
そこから「これまで一度もなかったこと」や「非常に珍しいこと」を意味する。
時折目にする言葉ではあるが、この言葉を頻繁に目にすることになったのは、2011年の東日本大震災以降だろう。
ポルノグラフィティに"∠RECEIVER"という曲がある。
この曲は2010年3月24日にリリースされた8thアルバム「∠TRIGGER」の1曲目に収録されている。
その出だしが冒頭に載せた歌詞である。
東日本大震災が発生した当時、この曲について「予言していたのでは」、「この曲はもう演奏されることはないかもしれない」などの憶測がファンの間で飛び交った。
それは同事務所の先輩であるサザンオールスターズの"TSUNAMI"が自粛になったように。
"TSUNAMI"は云うまでもなく、歴史に名を残すような名曲である。曲自体に何も罪はない。
しかしあの震災で、多くの人の命を奪い去った「TSUNAMI」という言葉は、曲の本来の意図でさえ坑がえない"意味"を持ってしまった。良し悪しではなく、本当にそれだけの傷痕となったのだ。
なので"∠RECEIVER"にもそんな声が上がったのだ。
それから半年が経ち、傷は決して癒えないなか、ポルノグラフィティは静岡県掛川市のヤマハリゾートつま恋で「つま恋ロマンスポルノ'11 〜ポルノ丸〜」を敢行した。
その初日。
夏の終わりを惜しむように、焼けつける日射しのなか、ポルノグラフィティは全身全霊で演奏し、ライヴはいつものように"ジレンマ"で盛り上がり幕を下ろすかに思えた。
しかし岡野昭仁と新藤晴一はギターを手に、ステージに残った。
そして語った。
「あの震災から半年が経ちました。半年というのは長いようだけど、まだ元通りにはなってなくて。この半年の間様々なことを学びました。現実は嬉しいことや、楽しいことばかりじゃなくて、辛いことや苦しいこともあって。今ある『幸せ』を確かめ合って、こぼれ落ちんように大切に守っていかないといけんと思う。こんな時、だからこそ僕らはこの曲をやろうと思います」
そうして演奏されたのが"∠RECEIVER"であった。
歌詞の内容から、その歌詞がまだ痛みに繋がると云われるかもしれない。それでもポルノグラフィティはこの曲から目を背けなかった、逃げなかった。
それは、この曲で最も伝えたいメッセージは最後にある、このフレーズだからだ。
僕たちがコントロール出来ることはほんの少し
ほとんどの出来事には関われないとしても
この星の裏側でも僕たちの足元でも
起こりうる出来事から逃げないRECEIVER(受信者)でいたい
豪雨も地震も、予言ではない。僕らにいつ訪れるかもしれない事象に過ぎない。
他人事ではない。たとえ遠くの土地で起こった災害であっても、それがいつ自分たちの生活に訪れてもおかしくない。
だからこそ逃げてはいけない。
受け止めなければならない。
あの日"∠RECEIVER"をやったことについて、凄い決断をしたなといつも思っていた。
しかし、今になってようやくその意味がわかった。
ポルノグラフィティは、僕らを信じたのだ。
曲の本質をしっかり理解してくれると思ったからこそ、あのステージで"∠RECEIVER"を演奏したのだ。
2018年の入ってからも「未曾有」と呼ばれる自然災害が当たり前のように立て続けに起こっている。
猛暑
豪雨
地震
台風
日本列島で相次いで発生している異常気象。
世界的にもインドのモンスーンによる被害は甚大で1459人の死者が出ているという。
他にもハワイをハリケーンが襲い、中国では洪水、北欧では猛暑による山火事、インドネシアでは地震など世界規模で、この夏だけでも数えきれない未曾有の災害が発生している。
そしてこれを書いている今朝、北海道で震度6強の地震が発生した。
そんな今だからこそ、僕らにはやはりこの曲が必要ではないか。
最初に書いたように未曾有とは「これまでに一度もなかったこと」を示す。
ネガティブな意味で用いられることが多いが、未曾有は悪い意味ばかりでない。
本来の意味からすれば"驚き"、つまりは"Wonder"な出来事について使われる言葉だ。
それって、まさに"LIVE"ではないか。
ポルノグラフィティは今回の「しまなみロマンスポルノ’18~Deep Breath~」で、また音楽の力を信じた。
そしてその収益を、全額寄付することを決断した。
災害の傷は永遠に残る。
たとえ復旧したとしても、人の心に、記憶に、永遠に消えない傷痕を遺していく。
僕は、何も生み出すことができない人間だ。
それでも出来ることはあるし、"∠RECEIVER(受信者)"で在り続けることはできる。
だからこそ、今回のライヴをしっかりと受け止めたいと想っている。
かけがえのない、未曾有のWonderを。
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