2019年5月13日月曜日

Buzy / パシオン(作詞:新藤晴一 作曲:本間昭光)の歌詞解釈を徹底的に語り倒す






Buzy(ビジー)というグループがいた。

現在はもう解散してしまっているが、本間昭光のプロデュースによる、とても素晴らしいグループであった。

活動の内シングル4枚が本間昭光作曲×新藤晴一作詞というゴールデンコンビによる楽曲なのである。

どれも素晴らしいのだが、とりわけデビュー曲"鯨"と、4枚目のシングル曲"パシオン"の完成度が、どうしようもなく高く、恐ろしさを感じるほどだ。

ということで以前に"パシオン"について書いたのだが、2年と少し前の僕は、全く語りきれていない。「このたわけが」と過去の自分に渇を入れ、今一度、徹底的に語り倒しておこうではないか。
※結果、引くくらい長くなりました

という記事である。"鯨"もいずれ触れたい。

ポルノグラフィティファン、とりわけ新藤晴一の歌詞を好きな人は素通り厳禁な楽曲だ。

もう解散はしてしまったものの、その魅力は消えることなく今も輝き続けている。






「パシオン」について









まず簡単にBuzyについて。





前身のグループとしてCOLOUR(カラー)という4人組として活動していた。

そこからメンバーの変遷を経て2002年にBuzyは結成された。

グループ名の由来はWikipediaが面白かったので、そのまま転載する。


グループ名は 「Blend, Unique, Zipping, You just wait」を意味するが、まず最初に音の響きだけでBuzyと決めたのちその頭文字の中でカッコイイ意味を持つ単語を辞書で見付け出して後付けした。そのため新藤晴一には「(You just waitの)JとWはどこへ行った?」とよくからかわれていた。


特にメインヴォーカル當山奈央の声は力強さの中に儚さも持ち合わせたような魅力を持っていた。






個人的に女性ヴォーカルは結構好みが極端に分かれてるんだが、當山奈央の声は随一と言って良いほど大好きな声質だ。

実力的にもかなり評価されていたが、結局はタイアップなどの甲斐もなくセールスが伸び悩み4年ほどで解散に至った。

なので、最近ポルノを好きになった人は知らない人もいるかもしれないので、是非触れてみて欲しい。

「パシオン」は4枚目のシングル、実質シングルとしては最後の作品となる。

僕は、稀にみる名曲だと思っている。

だから、この曲がこれほど届かなかったことが、本当に悔しかった。

Buzyが解散してしまった今、"パシオン"は過去の曲になってしまう。だから僕は、それを認めたくない。だから、ここに思いの丈を全て残して、今もこの曲が「UNFADED」なのだということを記したい。




"パシオン"の歌詞を紐解く




"パシオン"のタイトルはスペイン語で「情熱」を示す「Pasion」から取られている。


体ごと引き寄せる乱暴なキスに
身を委ねた背中が鳴らすクラクション
少し込み入った事情の二人の逢瀬には
カーステから流れる流行うたは似合わない


それを表すように、情熱的なキスからそのストーリーは始まる。狭い車内でクラクションが鳴ることさえ厭わない、あなたと私だけの世界。

しかし、それが純愛でないことが明かされる。いや、純愛でないからこそ、生まれた情熱なのかもしれない。

「カーステから流れるはやり歌は似合わない」という歌詞、これは今になって、ある歌詞とリンクした。


「簡単に重ねるんじゃない君を」
すぐに変わっていくヒットチャートなんかに
~"ブレス"


流行歌とは移ろいゆく定めの象徴であり、大衆的な共感を伴う。しかし、主人公である私が信じていたいのは、誰しもが共感するような愛ではない。

むしろ、普通であれば敬遠されるような、許されざる行為。それでもあなたを想うからこそ、それが唯一無二の愛だと信じていたいのだ。


恋の炎 消せずにいて 泣いているんだけれど
燃え尽きると知りながらも火に入る羽虫に


この歌詞で浮かび上がるのが"ジョバイロ"である。







あなたが気づかせた恋が あなたなしで育っていく


その恋の炎とは「闇に浮かんだ篝火」かもしれないし、或いは"サウダージ"においての、夜空を焦がして共に生きた恋心なのかもしれない。








共通して言えるのは、この恋心に対してあなたが同じだけの情熱を持っていないということだ。私の想いは募るばかりなのに、あなたは愛情は返してくれても、共に身を焦がすことを避けているような印象にある。

おそらく主人公はそれをわかっていて、それでもあなたを想ってしまう。だからこそ、想いは溢れてしまう。

ねえもっと愛を聞かせて 口癖のように抱いて
優しく傷つけて 決して謝らないで

会えない時間を全部あなたのそばにいられる一日に引き換えても構わない
親密な距離の外に広がる世界に今さら
まだ意味が残っているとは思えない


決して報われないとしても、その愛は変わらない。「会えない時間を全部あなたのそはにいられる一日に引き換えても構わない」という衝動は、所謂「会いたい」という気持ちの歌詞表現として最上位ではないかと思っている。

それほどの想いだからこそ、その想いが導く未来に、主人公は気づいてしまっている。

狭い車内、2人だけの世界の外に2人の世界はないのだ。










ひとつ身震いをしてエンジンが止まった
言葉探すあなたから逃げるように降りた

悲しくても悲しくても 気付かない振りをして
まだひととき あとひととき 夢を見ていましょう


エンジンはあなたの情熱を表している。
もしくは、ちょっと穿った見方だが、車内の情事で果てた姿かもしれない。

言葉を探すという姿に、迷いを見る。
私が見てしまった迷いに、私は想いの温度差を感じてしまう。

あなたの想いが一途にならないことは、もう気づいている。だからこそ、ひとつひとつにそれを見てしまう。あなたが辿り着くのが「許し」になるからこそ、私は聴く前に降りて去る。

それを聴かなければ、現実にはならない。

それを聴かなければ、想いはそのままでいられる。

それが、たとえひとときの夢であっても。


ねえもっと朝を遠ざけて 言い訳の前に触れて
さよならから遠い 夏の海の音が聞こえてる


謝罪も言い訳も要らない。私にとって必要なのはあなただけ。

そんなあなたの瞳の奥には何があるだろう、その目は何を見ているのだろう。

秘め事はいつまでも秘め事のままに、深い闇へ消えてしまう。そんな燃え尽きて消えてしまうものであっても、人はそれを求めてしまう。


恋心はなぜいつも悲しみを引き寄せるの?
そうじゃなきゃ恋とは呼べないのかな?
あなたと この恋心に 振り回されている私が馬鹿みたい
どこかへあなたが連れ去ってよ


この曲でずっと思い違いをしていた気がする。
今になって、それに気づいた。

僕はなんとなく、歌詞のあなたが不倫をして私と会っていると思っていた。それで、車で去った後、私は一人残されるという光景をなんとなく思い浮かべていた。

しかし、本当は主人公の私には帰るべき場所があったのではないか。

あなたともっと居たいのに、私はあの人のところへ帰らなければならない。

だから「どこかへあなたが連れ去ってよ」で終わるのではないか。

「少し込み入った事情」とだけ表現された関係がどんなものかはわからない。むしろ、そこで2人の関係を明確にしないからこそ、様々な2人の姿が思い浮かび、それによって歌詞の姿も変容する。

その作詞者である新藤晴一がわざと残した余白があるからこそ、様々な人が想いを馳せることができる。

おそらく本人の中では答えはある。しかし、それが正解ではない。正解は、ない。その聴く者へ託される余白のバランスが絶妙なのが、新藤晴一という人が書く歌詞なのだ。

そして新藤晴一が描く、この世界観のジャンルの歌詞には凛とした女性像が登場する。

その女性像の性格を端的に表しているのは"サウダージ"における「寂しい…大丈夫…寂しい」というフレーズだろう。

そんな女性の姿が當山奈央のヴォーカルによって、とても色濃く浮かび上がる。最初に書いた歌声の凛とした力強さの中にある儚さが、まさに歌詞に出てくる女性にピタリと当てはまるのだ。

もちろん曲が呼ぶ歌詞を書いているが、その上で當山奈央が唄うという部分にもかなり重きを置いているように思える。
それはある種、岡野昭仁への「お前ならなんでも唄えるから大丈夫だろ」という歌詞の書き方とは異なる。

だからこそ、岡野昭仁とは違う角度から新藤晴一の歌詞世界を体現してくれるのだ。

もちろん、今の岡野昭仁が唄う"パシオン"もとんでもないことになりそうなので、僕は東京ドームでBuzyのカバーを密かに期待して願っている。もちろん初日が"鯨"で、2日目が"パシオン"だ。

さて、締める感じがしてきただろう。
いや、まだ終わらない。

「語り倒す」のだ。まだ倒れてはいない。



泣きたい夜に聞きたい言葉




この曲は、是非シングルで聴いて欲しい。

それはカップリングである"泣きたい夜に聞きたい言葉"と対になっている印象だからだ。

曲調も違うし當山奈央の唄も"パシオン"と正反対ともいえる、可憐で可愛らしいヴォーカルとなっている。

しかし、そこで描かれる想いは"パシオン"に負けないほど、強いものだ。

本当は同じように全文引用しながら語りたいのだが、本当に倒れるので、歌詞は是非見てもらいたい。

恋に落ちること、そして「彼」を想うこと。

その中のフレーズ。


『彼の左隣に誰が似合うか想像して、そして図々しくも自分の姿が見えたら、君は負けやしない』


あなたの隣にいる自分をうまく思い描けない
はぐれないよう
絡めていたのは指じゃなく不安だった
~"ジョバイロ"


それが、車内であなたの隣にいても遠くに感じてしまう"パシオン"の主人公の切なさと呼応する構造になっている。

"パシオン"において、主人公はあなたの横に相応しいのは私しかいないと信じている。それでも叶わぬ想いだからこそ勝ち負けではなく、ただ切なさが増すばかり。

なぜなら、その想いは折れかけのペンで書かれた歪な喜劇でしかないからだ。

それでも、変わることはできる。
それが、とても優しく綴られるのが、このフレーズ。


メイクを少し変えるくらい
自分も少し変われば
世界も少し変わるでしょう 広がるでしょう



親密な距離の外に広がる世界に意味がないのなら、自分の世界を広げればいい。

もしかしたら、そこに残ったものこそが、本当の純愛なのかもしれない。



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