2021年7月26日月曜日

小林賢太郎のオリンピック解任について






元ラーメンズの小林賢太郎がオリンピックの開会式の演出チームの統括を解任された。

経緯などについては改めて触れるが、ご存じの方も多いだろう。

たしかに、過去のコントで選んだ言葉は誤った、非難されても仕方のない擁護しがたいワードだ。
けれど、あまりに一方的なジャーナリズムの暴力で小林賢太郎の人格を徹底的に非難している姿勢は、目に余るものがある。

個人的にとても尊敬している人だし、自分の人生に何度も笑顔をくれた人だからこそ、今回筆を取りたい。





解任までの流れの疑問点





改めて経緯を振り返ろう。

国際ジャーナリストの高橋浩祐氏が2021/7/22 4:12に“「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」五輪開会式ディレクターの小林賢太郎氏、芸人時代にホロコーストを笑いのネタに“というタイトルの記事をヤフーへ寄稿した。




「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」五輪開会式ディレクターの小林賢太郎氏、芸人時代にホロコーストを笑いのネタに

記事中でも触れているが、この話題が出たのは先般『実話BUNKAタブー編集部』が2021/7/21 22:45にツイートした動画が元である。



先に書いておくが、今回問題になったコントはVHSで発売されているのみで、DVD化も、YouTubeなどでの動画化もされていない。

この時点でツイートが無断転載だし、仮にもジャーナリストを名乗る記者が違法アップロードのツイートだけを見て、他に取材も裏も取らず記事を書いていることが判る。これ以外でツイートから数時間でVHSしかないはずのコントを全て見て記事が書けるわけがない。

コタツ記事で国際問題に触れている時点で、書いた高橋浩祐氏の意図が見えてくるだろう。アップされたのは開会式の前日だ。本来であれば小林賢太郎本人への確認や情報の裏どりなどが必要なのではないか。

それをせずにこの早さで記事をアップしたのは「オリンピックの開会式を問題視させるため、記事を早く出して間に合わせたかったから」に他ならない。これは憶測ではなく、高橋浩祐氏のツイートを遡ってもオリンピックの開催について好意的ではないのは明らかである。

賛成か反対かは個人の意思の自由なので非難することではないが、『実話BUNKAタブー編集部』のツイートの内容のみで国際的な問題を含む記事を上げることは、ジャーナリズムの姿勢として正しいものなのだろうか。高橋浩祐氏のツイートによれば「2時間悩んだ」ということだが、小林賢太郎への風評までも考慮し、もっと慎重になるべき事案ではないか。



高橋浩祐氏は自身の出した記事を受けて出された小林賢太郎のコメントには全く反応をしていない。SWCのコメントについては即座に反応して記事に追記までしているのに対してだ。

本当に過去の発言に対して問題提議をしたのであれば、張本人である小林賢太郎の今の姿勢と考えが書かれたコメントに触れないのは不誠実ではないだろうか。少なくとも自分はそう思う。これだけでも「炎上すればいい」と思って書いている感情が透けて見える(これは感情論)。

高橋浩祐氏の中で(もちろんあるはずないが)「東京オリンピックが世界から非難されればいい」という目的がほんの少しでもあったならば、(まともな神経をしてたらあり得ないが)小林賢太郎をスケープゴートにしてオリンピック批判記事を書くためだったなら、この記事で使われている「ホロコースト」という言葉はオリンピック批判のために"利用"したことになるため、より悪質とさえ言えるのではないか。

当然ながら本人は断固否定するだろうが、見ている限り自身のした過去の差別発言は消してなかったことにしているようだし(不快だったのでここには載せない)、とても人権意識が高いとは思えない。それでも本当にホロコーストを伝えたいならば、なぜ今までのオリンピックで声を挙げていなかったのか、疑問である(これは最後に書きます)

このように、オリンピックの開会式に間に合わせたいというだけで一方的な記事が瞬く間に作成されたのと並行して、もつひとつ起きていた問題もまた根深いので紹介しよう。


Twitterのあるアカウント(実名ではない)と中山泰秀防衛副大臣のやり取りが一部で問題視されている。
件の内容が当該アカウントより中山泰秀防衛副大臣へ相談したというツイートが2021/7/22 1:11にされ、中山泰秀防衛副大臣が米人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(以下”SWC”)へ相談したという返信が2021/7/22 2:17にされている。



わずか1時間程度の間に、SWCへ連絡が行ったのだ。
中山泰秀防衛副大臣は以前に「最初にロケット弾を一般市民に撃ったのは誰だったのか? 私達の心はイスラエルと共にあります」とツイートして問題になったこともある。

正直、僕は政治の世界は門外漢なので、どれが正しい情報伝達かは判らない。それでも副防衛大臣が実名ではないTwitterアカウントからの情報で1時間程度で、防衛大臣はじめ国内の機関をすっ飛ばし、海外の組織団体へスタンドプレーで意見を送るということは、果たして正しいのだろうか。

いま僕は総務の仕事をしているが、危機管理対策として問題が起こった時に、上長や社長への報告もないまま他の機関へ報告するなど、常識的に考えてまずあり得ない。それが国際問題へ発展しかねない事由であるなら尚のことだ。

実際こちらの件はいくつも記事が出ていて反応を見る限り、自分と同じように疑問視している声が多く見受けられる。

中山泰秀防衛副大臣も、件の記事も「ホロコースト」について、国際問題へ発展しかねないという危惧を表しているが、その割りには明らかに事実確認が希薄である。


【7/27追記】

読んでいただいた方のコメントで知りましたが、SWCがひっそりと声明文の修正をしていたようです。あまりにサイレント過ぎて気づいてませんでした。ありがとうございます。



【追記ここまで】

ついでに書いておくが、中山泰秀防衛副大臣へ相談をしたというアカウントが一連の中で呟いたのがこの言葉だ。




とツイートしているが、これが既に自己矛盾を起こしている。

これはまさに「してはいけない例」として「原爆落としごっこ」という言葉を使っている。これを受けた政治家が原爆被害者団体に通告したとしたら、今回と全く同じ構図になるのだ(オリンピックに関するかが違うと言いたいだろうが、人権として抗議を示している問題であるならばオリンピックか否かは問題の本質ではない)。

このツイートを肯定するのならば小林賢太郎の件を問題視する資格はないし、否定であっても同じだ。正直、このツイートだってかなり浅はかなだと思う。


小林賢太郎氏のアップデート




様々な意見が出ているが、コントの内容については当人である小林賢太郎のコメントに全てが表れている。


 ご指摘を受け、当時のことを思い返しました。思うように人を笑わせられなくて、浅はかに人の気を引こうとしていた頃だと思います。その後、自分でも良くないと思い、考えを改め、人を傷つけない笑いを目指すようになっていきました。



たとえば中山泰秀防衛副大臣が、記事を書いた高橋浩祐氏がこの言葉を受け、それを報告や記事に含んでいたら、SWCや記事の読者はまた違った印象を受けたのではないか。そのためには本人へ事実確認をする、たったそれだけやれば判ることなのだ。

それすら省き、性急に事を進めたのは、”問題にしたかった”からという中山泰秀防衛副大臣と高橋浩祐氏のエゴ以外の何ものでもない、数日掛けて様々な情報を見た自分が得た結論はそれだ(これに関してもかなり感情論です)。

当然ながら小林賢太郎本人の反省の言葉があったところで、過去の発言を消せるものではない(「やってはいけないこと」の例としてあのワードを使用したとしても、やはり使用してはならない言葉である)。しかし、こうした本人の弁明さえなく、一方的な物言いで世界へ発信したというのは、大いに疑問だ (小山田圭吾やのぶみはそもそも弁明の余地はない)。


過去を受け、今の小林賢太郎がどんな考えで笑いというものに向き合ってきたか。
女性自身の記事でちょうどいい内容のものがあったので紹介しよう。

小林賢太郎 解任でも辞任の小山田圭吾より批判が少ない理由

「ラーメンズとしてデビューした当時は、笑いを取ることで必死だったといいます。ですが『見えないところで誰かを傷つけているかもしれない』と気づき、“面白ければ何でもアリ”といった考えから脱却していったそうです。また表現活動を通じて、社会貢献をしていることでも知られています。17年1月以降、ラーメンズの映像ソフト化されている全17公演をYouTubeで配信。動画の広告収入を、災害復興支援のため寄付し続けているのです」(テレビ局関係者)



上にも書いたように、問題提起の記事でここまで触れられていたら、どうだっただろう。
女性自身でさえここまで取材しているのに……

過去の自身の発言などを省みて、人を傷つけない笑いを追い求めた男が、世界中の誰にでもわかるピクトグラムを使用して開会式を盛り上げた。そんなストーリーだって描けたはずだ。そこでなぜ過去に選んだ言葉が問題であったかを付け足して書けば、現在の人々に対する啓蒙も踏まえることができたのではないだろうか。


非難した人たち本当に人権意識が高いのか?という疑問をずっと持っているのは、今回の件でこれだけ人権や差別を訴えている人たちの中で、ロンドンやリオデジャネイロオリンピックで同じように声を挙げていたのかという疑問があるからだ。

ちょうど話題になっていたのでロンドンオリンピックの件を引用しよう。





「空飛ぶモンティ・パイソン」の出演者であり、モンティ・パイソンのメンバーであるエリック・アイドルが出演していたことで、「なぜモンティ・パイソンは非難されなかったんだ」という声が挙がっている。他にもいくつも指摘されているが本当にその通りで、今回の件で問題だと声を挙げた人たちの中で、2012年のロンドンオリンピックに抗議をした人はどれだけいたのだろうか。

今回問題になったラーメンズのコントはVHS化されているのみでファンでさえなかなか見ることができないが、「空飛ぶモンティ・パイソン」は国営放送のBBCで制作された上、日本でも放送され、VHSだけでなくDVD BOX、Bru-ray BOXで再販されている。



今回の件で非難の声を挙げている方々の人権意識が、20年前のコントの発言まで赦さないほどの意識でいるのならば、なぜ今の今までエリック・アイドルに対して同様(内容としては比にならない不謹慎さなので本来ならそれ以上)の、抗議が出なかったのだろうか。

個人的にはファンだけど、元オアシスのリアム・ギャラガーは過去のスキャンダルの宝庫だ。けれど普通に閉会式でBeady Eye(当時)として出演していたことへ、「リアムは人格的にオリンピックに相応しくない」という意見は記憶の限り見ていない。「出るならオアシスを再結成して出ろ」というのは見た。

ポール・マッカートニーでさえ、過去に人種差別の発言をして後悔していると発言している(2015年頃に記事になっていた)

斯様に今回の小林賢太郎へのバッシングが、過去にセンシティブな用語を使用していたからという理由なら、今までなぜ指摘して来なかったのか、それがある限り今回の件は納得することはできない。

だからこそ、もしこれが東京オリンピックを叩きたい、中止させたい、世界から問題視させたいという意図から生まれたものであるならば看過できない。

しつこいようだが、小林賢太郎の過去に選んだ言葉は決して正しくないものだ。

けれど小林賢太郎という男はそんな過去の自分の行いを反省し、「人を傷つけない笑い」を生み出そうとしてきた。世間の非難がなくとも、彼はずっと過去の自分を背負ってきたのだ。

今回の件で「小林賢太郎という男はホロコーストを笑いのネタにした酷い人間だ」と“なんとなく”思った人がいるならば、今の小林賢太郎がどういう想いで笑いと向き合っているのかをもっと知ってほしい。

過去を省みて未来を創る小林賢太郎は、炎上させたいがために一方的な記事を投げつけて終わらせた記者より、よっぽど信じるに値する人間だ。少なくとも僕にとっては。

たった一人でもいい、これを読んだ方の気持ちが少しでも動いてくれたら幸いだ。


※内容は僕個人の感想です
※いじめや差別によって傷つく人が一人でも減る世界になるよう祈っている


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