タバコに憧れる。
それは「吸いたい」ということではなく、喫煙という行為がとても詩的な行為だからだ。
アルコールに脳ミソが浸った自分が言うのはおこがましいにも程があるが、やはり身体には良くないし、電子タバコが普及したとはいえ、まだ紙タバコの副流煙の危険性は避けられない。
けれど音楽にとっていえば、タバコというモチーフは世界観を広げるとても重要なアイテムにもなる。
たとえば、今回は殿堂入り枠にしたが宇多田ヒカルの"First
Love"における「最後のキスは タバコの flavor
がした」という、これはもはや歴史だ、みたいな金字塔のフレーズがある。
ということで、今回はタバコにまつわる個人的に好きな曲たちを紹介したい。このブログはポルノファンが読んでる率が高いので、最後にそちらからも紹介するので読んでいただければ幸いです。
1. "染まるよ" チャットモンチー
こちらも、もはや殿堂入り枠でいいのではと思ったけど、やはり有名どころは最初におさえておきたい。
"染まるよ"は2008年11月5日にリリースされた、チャットモンチー9枚目のシングルである。
作詞はベースの福岡晃子によるものだ。
夜道を歩く展開から、Bメロにあたる部分でいきなりこのフレーズがくる。
あなたの好きな煙草わたしより好きな煙草
音数を落とすアレンジなのもあって、ここで少しゾクっとさせられる。
あなたの真意は分からない、けれど現実(ここ)にあるのはあなたのいないわたしの日々と、変わらずタバコを吸っているであろうあなただけ。
それからサビで「プカ プカ プカ プカ」というフレーズが出てくる。
「プカ
プカ」ってどちらかというと日常では、プールとか海みたいなとこで浮き輪で浮かんでるようなイメージが強いと思う。あまり"煙"という存在と直結しないオトマトペだ。
"染まるよ"において浮わついた恋心を重ねるのに「プカ
プカ」という表現があまりに絶妙で、もはやこれ以外は考えられない。優勝。
そして更には、最もゾクッどころかゾッとしてしまうようなフレーズが終盤にまだ待っている。
あなたのくれた言葉正しくて色褪せないでも もう いら ない
Cメロに当たる部分で、この強烈なフレーズのあと転調して1番と同じ歌詞のサビが歌われる。しかし、そこに響くのは決して同じではない悲痛な、叫びにも似た歌声。
エモーショナルとはこのためにある言葉なのではないかと思う。
なんでここまでエモーショナルになるかというと、この曲って五感の全てが詰まっていて、その全てがあなたに繋がっているからだ。
あと個人的には歌詞を"読む"と気づく仕掛けが好きなので、1番サビの終わり。
煙が目に染みるよ 苦くて黒く染まるよ
ここで「染みる(しみる)」と「染まる(そまる)」を並べているところとか、堪らない。
これ以上やると"染まるよ"だけで終わってしまうので次に行こう。
2. "癖" なきごと
次に紹介したいのはなきごとの"癖"。
なきごとにとって最初期からある楽曲である。そのためもあるのか、なきごとの中でもかなりストレートに失恋を描いている曲だ。
空き缶にタバコを捨てる癖が治らないあなたがこんなにも 好きなくせに嫌いって言っちゃう癖が治らない
癖といえば無意識でついやってしまう行動で、思わずあなたを思い浮かべたり、缶コーヒーを2本買ってしまう主人公の"癖"がまた切なさを増長させる。癖とはつまり、悲しい日常の延長でもあるのだ。
洗濯物に 煙が染み込んでもあなたの匂いがまだするうちは好きでいさせて いさせて
ジム・ジャームッシュの映画「コーヒー&シガレット」やオアシスの"Cigarette
and
Alcohol"とか、コーヒーやアルコールとの相性もいい(らしい)が、タバコと失恋はなんと相性がいいのだろうか。
"癖"ではタバコの匂いがフィーチャーされている。
タバコって基本的には「臭い」と書きがちなんだけど、ここでは「匂い」にしていて、漢字ひとつであなたへの想いを描いている。
歌詞ではなく音の話になってしまうが、岡田安未のギターソロがその感情を何倍にも膨らませてくれて、これこそがなきごとの魅力であり、僕がなきごとを大好きな理由である。
あと、すごく自然に描かれているが、歌詞の中で換気扇とか洗濯物(ベランダ)とかが出てくるので、そこでタバコを吸っているイメージってやはり00年代以降のミュージシャンには当たり前の光景なのだろう。
無理だとわかっていても、最後に残される言葉が「待ってる」なのが、なんと切ないことだろう。
この切なさってポルノグラフィティの"カメレオン・レンズ"で、新藤晴一が最後のフレーズに「Love
or Not 待ち続ける」と描いたことに通じるほどのものだと思う。
3. "ヘビースモーク" にしな
ここ1年くらいでポルノグラフィティを除けば最も再生数が多くなったのが、SSWのにしなだ。Twitterとかではちょくちょく騒いでるけど、このブログでちゃんと触れるのは初めてになる。
曲、歌詞、歌声、自分にとって全てが致命傷。完全に持ってかれてしまった。
もうすでにハルカトミユキや印象派、なきごとと同じくらい大切な存在のミュージシャンになっている。
少し前にTHE FIRST
TAKEにも出ていたので、見たことある人もいるかもしれない。というかいずれにしても可及的速やかに見て欲しい。
さて、紹介していると終わらなくなってしまうので、曲に移ろう。曲ごとに歌声の表情が全く違うので、是非色々聴いて欲しい。
にしなにとって代表曲でもあるのが"ヘビースモーク"だ。
僕もこの曲にやられた。
主人公の女性が想いを寄せるヘビースモーカーの貴方。
綺麗なその声もしゃがれて空っぽの煙をただ見つめて彼女ができたらやめるって笑って言葉は宙に待った
このBメロのラインが2人の関係性を全て物語っている。
なきごとの"癖"と根底にある感情は通ずるものを感じるが、こちらは貴方との日々が叶わなかった歌だ。終わってしまった恋、始められなかった恋、どちらもなんと切ないか。
あえて語るのは野暮になってしまうけど、たとえば「綺麗なその声もしゃがれて」は2人がそれほど長い付き合いであることを示しているし、「空っぽの煙」には私や貴方の様々なメタファが込められている。
そんな憧れに似た想いは、サビで「貴方色に私もなりたい」と爆発する。
ヘビースモーク口寂しいならばその口に私がちゅってして拘束するヘビースモークそれか深く吸い込んで貴方以上に身体を蝕め
2番サビの「貴方以上に身体を蝕め」が強烈だ。僕はこのフレーズで堕ちたと言っても過言ではない。こんな切ない恋情があるだろうか。
それが溢れるように「拘束するぅ」といった歌い回しの語尾の部分が絶妙で、間違いなく計算ではなく天性のものでやってのけていると思っている。
このフレーズがあるからこそ「ヘビースモーク」という言葉が何重もの意味を纏い、私も貴方も蝕む感情を膨らませてゆく。
それは、聴いている僕らさえも。
では最後に。
4. "別れ話をしよう" ポルノグラフィティ
女性から見たタバコの曲が続いたので、最後にポルノグラフィティの曲を紹介しよう。
他にも迷った曲はあるが、思い入れの強さを優先した。
この曲は2001年にリリースされたシングル「アゲハ蝶」のカップリングである。僕は「アゲハ蝶」でファンに堕ちたので、とても思い入れが深い。
タイトルのとおり「別れ話」の曲である。
男目線で描くタバコのモチーフってどうしても、不良とかハードボイルドみたいな方向に行きがちで、自分はそういった世界観と一生無縁の男なので、あまりハマるものが少ない。
その中で新藤晴一がこの曲で描くタバコは未練そのもので、今回紹介した中で最も女々しい存在として描かれる。
この煙草を消したら 席を立とう二人の時間が終わる 灰になってく
「このこおり溶けるまで 恋人でいようよ
モウヒトトキ」というフレーズや灰になっていく煙草は、そのまま2人の関係のタイムリミットとなっている。
惨めさを恋情のロスタイムに引き換え、それでも残された時間を噛みしめる。目の前の君が、記憶の中の君になるその時まで。
きっと燃え上がるほどの恋を過ぎた2人だからこそ、早く燃え尽きてしまったのだろう。
ちなみに取り上げようか迷ったもう1曲は"夜間飛行"でした。
こうして見ていると、今回紹介した曲は「叶わなかった恋」「終わってしまった恋」を歌っているなと感じる。ポジティブなものが少ない。
(電子ではない)タバコは時間ごとに短くなっていく。
それでいて、吸い終わった後もなかなか鼻を離れない匂いを残す。
未練というほどではないけれど、どこかボンヤリとその人を思うのに、タバコのゆらゆらとした煙がまた相性がいい。
タバコが詩的なモチーフに使われるのは、こういったことが大きいのだろう。
詩的な世界で、僕はヘビースモーカーだ。
あなたのタバコソングはなんですか?
子どもを一流のポルノグラフィティファンに育て上げるたったひとつの方法
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