2024年7月23日火曜日

【音楽文 加筆改訂版】オアシスがイギリス"国歌"になった日





※この記事はrockin' onが運営していた音楽文に加筆修正を加えて再掲したものです。サービス終了に伴い、当ブログへ移行しました。





2017年5月22日、イギリスのマンチェスターで行われたアリアナ・グランデのコンサート終了直後に自爆テロが発生した。

8歳の女の子を含む、22人が死亡し、59人が負傷した。あまりにも痛ましい事件である。

若者に人気のアリアナ・グランデのコンサートを狙ったということもあり、子どもや若者が狙われたといってよいだろう。

メイ首相も「無邪気な子どもたちを意図的に標的にしたものだ」と会見で発言している。

コンサート会場でのテロといえば、2015年11月にフランスで発生した同時多発テロが記憶に新しい。

商業施設やライヴハウスなどが襲撃され130人の方が亡くなった事件である。

 

「ライヴやコンサートは誰も不幸せにならない素敵な場所である」

これは僕の好きなアーティストの発言である。ライヴは日常から離れ、ただ音楽に身を委ねる場所である。そんな場所が無惨にも破壊されたのである。

フランスのテロ発生時にはU2のヴォーカルであるボノが、

「考えてみれば、昨夜の被害者の大半は音楽ファンだったわけだ。いわゆる"テロへの戦い"というやつの中で、初めて音楽が直撃されたことになる。とても動揺している」

というコメントを残している。

ロックはいつだって体制と戦い、ポップミュージックは常に人々を楽しませてきた。

そんな場所で起きた悲惨なテロ事件はボノだけでなく、多くのミュージシャンに大きな動揺を与えた。


このテロの追悼会場で、集まった人々の中で自然発生的にオアシスの"Don't Look Back In Anger"の大合唱が起こった。







ある女性が歌い出した声が、会場全体に広がったのだ。

なぜ追悼会場で"Don't Look Back In Anger"がこんなにも大きな歌声となったのだろうか。

「怒りを振り返ってはいけない」

曲中で何度もそう歌う。これだけ陰惨な事件の後にイギリス国民が唄い叫んだのは国歌ではなく、オアシスの"Don't Look Back In Anger"だったのだ。


それに感化されて追悼コンサートではアリアナ・グランデとコールドプレイが"Don't Look Back In Anger"をカバーした。

そんな曲もノエル・ギャラガーが書いた時にまさかこれほど強い言葉の意味を持つなんて思ってなかったのではないだろうか。


ノエルは"Don't Look Back In Anger"の歌詞に、おそらく何のメッセージ性も込めていない。

だってこの人は1stアルバムで言いたいことなんて全て言い切ってしまったんだから。


追悼コンサートではリアム・ギャラガーがサプライズで登場し"Live Forever"をコールドプレイのクリスのアコースティックギターに乗せて歌った。

ノエルが登場してオアシスがこの日限りの再結成、なんてことは勿論なかったが、お兄ちゃんはしっかりと"Don't Look Back In Anger"の収益を寄付していたという。


音楽を愛する者に向けられた攻撃を、音楽で返したのだ。

決して癒されるためでない。

ただそこに音楽を鳴らすのだ。


悲惨な事件を受けて、ミュージシャン達は今一度音楽の力を信じた。

いや、ミュージシャン達だけではない。

イギリス国民をはじめとした民衆もである。


それこそが追悼会場で自然発生した"Don't Look Back In Anger"の大合唱だっのではないか。


身も蓋もない話だが"Don't Look Back In Anger"のイントロはジョン・レノンの"Imagine"まんまだし、歌詞にはジョン・レノンの発言を引用したものも含まれている。


歌詞には意味を込めてない(と思われる)曲がこれだけの人間の胸を打つのは、曲の中にジョン・レノンが訴え続けた反戦メッセージが魂となって受け継がれているからではないだろうか。

"Don’t Look Back In Anger"の中にはこんな歌詞もある。

お前の人生を他人なんかに委ねないでくれ
ロックンロールバンドなんてのは
全部投げ出しちまったような奴らなんだから

何もかも傷ついた場所で、僕らはそれでもロックンロールにすがるしかないではないか。

全部投げ出した奴らが鳴らした音楽だからこそ、何でも背負いすぎてしまう世界にいつまでも、いつまでも鳴り響くのだ。

例えそれがこじつけだとしても、それくらい信じてもいいではないか。


※記事中の歌詞については自身で和訳したものを引用しております




ノエル・ギャラガー暴言集「俺の眉毛はどこまでも自由でワイルドなのさ」
 


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