※かなり長い記事なのでご了承ください
ポルノグラフィティのニューシングル「ブレス」について書こう。
ここで前置きの駄文を書いていられないほど、本編の駄文の文量が多いので、早速取りかからせていただくことにする。
先に一言断りとして書いておきたいのだが、このシングルはポルノグラフィティからの「挑戦状」である。
ポルノグラフィティ 47thシングル「ブレス」
1. ブレス
『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』主題歌
作曲:岡野昭仁 / 作詞:新藤晴一 / 編曲:tasuku、Porno Graffitti
先日、歌詞解釈記事を書いたので詳しい感想はそちらを参照いただきたい。
そこに書いていないことを、今回ここに記しておこう。
あらためてCDで歌詞カードと向き合って聴くと、その魅力がさらに上がる。
軽快でポップな曲であるのに、フレーズのひとつひとつが刺さる。
それとあらためて"アゲハ蝶"や"ネオメロドラマィック"をさらっと歌ってしまう人に「ブレスのできない歌は誰も歌えやしない」と言われても説得力ない。
これは「ブレスのできない歌は(俺以外)誰も歌えやしない」という挑戦状なのではないか。
「背中を押す」ということは、即ち自分の意思と無関係に前へ進ませるということでもある。
人によっては踏み出せなかった後一歩が踏み出せるかもれない。しかしもしかしたら、人によって一歩先は崖かもしれない、駅の黄色い線の向こう側かもしれない。
必要な人もそうでない人もいる。
だからこそ「そのままでいいんだよ」というメッセージは、息苦しい現代に最も適したメッセージなのではないだろうか。
格差も差別も偏見も、全ては世界に散らばっている欠片だ。
たとえば「君の目はクリッと大きくて可愛いね」と女性を褒める男がいたとしたらどうだろう。
「ありがとう」と素直に喜ぶ女性もいるかもしれないし、大きな目がコンプレックスかもしれない。
個性は差別なのだろうか。
差別は個性なのだろうか。
だからこそ「ありのまま」。
それを認め合えれば、この世界はもうちょっと生きやすくなるんじゃないかな。
破片は人を傷つけるためじゃなくて、組み合わせるためにあるから。
そんなことを最近、真面目に考えてしまう。
2. 海月
作曲:岡野昭仁 / 作詞:岡野昭仁 / 編曲:tasuku、Porno Graffitti
イントロのピアノが秀逸だ。
タイトルのバイアスももちろんあるが、このピアノの音色だけで、深い蒼の海が思い浮かぶ。
伝わる人には伝わると思うんだけど、このピアノのミスチル感が半端じゃない。
重厚なAメロから少しずつ光が射し込むBメロ、そして赫灼(かくしゃく)たるサビへ繋がる流れが面白い。
tasukuによるアレンジがとても良い。サビのフックの利かせ方などとても"今っぽい"アプローチで、それをポルノグラフィティに置き換えて嵌め込むという手順があまりに見事で、さすがメンバーからの信頼が熱い男である。
歌声でいくと、これだけ低音をしっかり使った曲は久しぶりではないだろうか。
低音が中心になることで、サビでも浮きすぎないテンションが続く。ある意味"ブレス"の軽やかさと対照的になっている。
歌詞の中で気に入っているのが「辿れば僕らは一つだから」というフレーズ。
このフレーズはクラゲの生態を知ると更に楽しめると面白くなるのではないかと思う。なので、しばしクラゲの生態学にお付き合いいただきたい。
海月(クラゲ)には二種類いて、オスとメスで生殖活動を行う有性生殖と、自らの身体を分裂させて繁殖する無性生殖だ。
「種類」と書いてしまったが厳密には種類ではなくて、成長過程によって異なってくる。
卵はたくさん生んでも、その大半は食べられたりして生き残れない。その中で生き残った数少ないクラゲ(数千~数万分の卵でも生き残るのは一握り)が底生生活へと移る。
この時期をポリプ(無性底生期)と呼ぶ。ここの時期に身体が分裂する。
そんなクラゲの中にはベニクラゲという種類がいる。このベニクラゲ、「不老不死」とも言われてるのだ。
普通のクラゲは生殖活動をすると死んでしまう。しかしベニクラゲは「生殖活動をしたあとにポリプに戻る」という特性がある。
もちろん補食はされてしまうので、そうしたら死んでしまうが、補食されなければ事実上「永遠に生き続ける」ことができるのだ。なので、中には古代から(まさに歌詞の「古の道」から)生きている個体がいてもおかしくないのだ。
その事実もポリプ時期に分裂するという事実を踏まえてあらためて「辿れば僕らは一つだから」というフレーズを見ていただきたい。
壮大な旅の途中という気持ちにならないだろうか。
すっかりクラゲ豆知識コーナーになってしまった。
だからこそ最後のサビで「この地球(ほし)」とまで大きく出る。
そんな壮大さを海月に重ねながら、主人公の想いはキミへと向かう。
世界にどれだけ音が鳴っていようと、求めるものはキミの声、ただひとつ。
岡野昭仁にとって光とは、導くものだ。
たとえば"うたかた"で旅人の道しるべのように青く光る夜光虫のように、そこら中に溢れている光のストーリーのように。
そして「輪廻転生の 消えない記憶で/何度も出会っているのだろう」というフレーズ。
それは"wataridori"において「何度生まれ変わっても/何度もまた君に巡り会う」ように。
「BUTTERFLY EFFECT」ツアーにおける新藤晴一の言葉を思い返してしまう。
「海底から見た魚は空を飛んでいて、雲の上から見た鳥は海を泳いでいる」
ここからは妄想だが、海に浮かんで死に行く男が思い浮かんだ。海を漂う海月のように、ポツリと漂う男。
海の月と書いて、クラゲ。
放つ光が月光であるならば、その海面には月も反射していないだろうか。そこに並んだ二つの月。
月が魂を運ぶ舟ならば、たゆたうクラゲと月にそれを重ねてみた男は。
また新たな旅へと消えていく。
3. ライラ
作曲:新藤晴一 / 作詞:新藤晴一 / 編曲:宗本康兵、Porno Graffitti
感想を見ていてみんな「ヤバい」しか言わない曲。
聴く前だったので何がヤバいのか想像つかなかった。
何にしても、僕がこのブログで「ヤバい」なんて表現で終わるわけにはいかないのだ。伊達にこんなブログを2年以上書いてきたわけじゃない。
歌詞を読み解き、上の"海月"の解釈のようにいらない深読みまでしてこそ我がブログ。やはり「ヤバい」だけで終わるわけにはいかない。
それが僕の(与えられてもない)使命なのだ。
では、聴くぞ。
♪ライララライララライライライライライ
ききおわったー!
ヤバい。
これは、
ヤバい。
なんだ、これは。
ヤバい。
頭の中がずっとライララライララライライライライライしている。 しすぎて「ライ」がゲシュタルト崩壊している。耳でもゲシュタルト崩壊ってあるんだ。
ファンの間で「ライラやばい」とみな語彙力を失くしてしまうのは、それしか適切な言葉がないからである。
分かりやすくいえば「マッドマックス 怒りのデスロード」が公開された時に、名だたる評論家たちが「V8!V8!」しか言えなかったのに似ている。
ちょっと落ち着いてきたので、冷静に聴こう。
今年リリースされたドレスコーズの「三文オペラ」を聴いて、そのツアーを見届けた。
その後には「銀河鉄道999 GALAXY OPERA」を観劇し、音楽と演劇の融合を立て続けに体験していた。
それにまさかこんなオチがつくとは。
完全に劇団ポルノグラフィティ。
唄い出しはアコギの刻みとしゃくったような歌が、四畳半フォークを彷彿とさせる。
しかしながら、出だしのサビが終わりフィドルの音色が効いたロシア民謡のようなイントロに入った瞬間に完全にfly awayだし、into the stormである。
しまなみロマンスポルノのために創ったとしか思えない、コーラスとクラップの応酬。ライララライララライライライライライの千本ノック。
もはやファンへの挑戦状と言えるだろう。
それだけでもお腹いっぱいのところに、終盤でまさかのポエトリーリーディングである。こうした朗読は岡野昭仁に今までなかったので、ライヴでどうなるか楽しみだ。
表題曲"ブレス"で「視線向けた方角には明日があると信じる」と書いたのに、"ライラ"では「明日があるも慰められても 土台/しょうもない今日の続きのわけで」と言ってしまう辺りの対比が面白い。
明日に希望を抱く人、明日にも希望を抱けない人、世の中には様々な人がいて。どんな人にも明日は、未来は否応なしに平等にやってくる。
だからこそ僕らは今この瞬間を生きて、踊り、唄い、泣き、笑う。
それは星野源が"SUN"で歌った「僕たちはいつか終わるから/踊る いま いま」を思い起こさせた。
同時にこの曲って"ブレス"の主人公の故郷ってイメージが頭に浮かんだ。もしくは旅の途中で立ち寄った第二の故郷のような存在。
つまりは「君が君でいられる場所」なんじゃないかな。
Bメロで歌詞表記ないコーラスが入る。
一応なりとも大学を出てるので、これくらいの(たぶん)ロシア語くらい聞き取れるはずだ。スペイン語専攻だったけど。
注意して聴けば、ちょっとくらいなら余裕だろ。
ふんふん。
なるほど。
えーと。
日本語でおk
「スパシーバ」とか「◯△※ハラショー」的な言葉はなんとなく言ってるように聴こえる。
その他は何度聴いても分からん。
文脈から使いそうな言葉を狙って調べてみるまでしたがしっくり来ない。
挨拶とかお礼の言葉とか飲み屋で使う言葉とかも調べた。
最後には「ロシア女性の口説き方はどんな方法を使うべき?ロシアンパブにいるロシア女性の口説き方」というページまで見ても解決しなかった。
もうロシア行ってウォッカ呑みながらロシア美女口説くしかない。
もうワールドカップ終わっちゃったよ。
↑間奏の元ネタは云わずもがな
さて、余談タイム。
「ライラ」は人の名前でも使われるし、僕は真っ先にオアシスの曲が頭に浮かぶ。
さて、「ライラ」は「こと座」のことでもある。
こと座には、音楽家オルフェウスが死んだ妻のために冥神ハーデース(ハデス)に琴を弾きながら妻を甦らせることを懇願した。そしてその音色の美しさにハーデースはそれを了承した。「帰るまでの間、後ろを振り返ってはならない」という条件だったが、オルフェウスは妻がちゃんとついて来ているか心配して振り返ってしまい、妻は冥界に戻されてしまった。失意のオルフェウスは歩いていて、祭りに紛れこむ。そこの女性たちに演奏をせがまれるが、演奏する気力がないオルフェウスは断る。それに怒った女性たちはオルフェウスを殴り殺し、琴と一緒に川に捨ててしまった。ゼウスがその琴を拾い、星座にした。
という神話がある。その辺のホラー映画より救いがない。その琴なのだけど、発音は色々あるが「ライアー」(他の読みはリュラー、リラ)とも呼ばれている。
つまり、祭りの音楽を断られて死したオルフェウスが使用していたライアー(琴)が、こうして"ライラ"という楽曲になり、その上歌詞では祭りめいていて「踊り、唄え」と叫ぶ。
ここまで意図しているとは思えないが、円環のような結末は、なんともアイロニーだ。
4. ブレス instrumental
作曲:岡野昭仁 / 作詞:新藤晴一 / 編曲:tasuku、Porno Graffitti
(インストゥルメンタルでも作詞表記あるんだ)
ポケモン仕様の期間生産限定盤のみに収録されている表題曲のインストバージョン。
常々言っているが、近年のポルノグラフィティの楽曲はトラックを聴いているだけで楽しいので、どんどんinstrumentalを入れて欲しい。
ただし、今回のインストは意味合いが違ってきた。
あまりに強烈な"ライラ"の一撃の後にこのインストがくることで、文字通りの「ブレス」となっているのだ。
なので、個人的には期間生産限定盤の方がよりまとまってシングルを聴き終えられるのでオススメだ。
もちろん内容も素晴らしく、楽器それぞれのサウンドを堪能できるし、こうして聴くことで特にアコギが顕著だが、如何に素晴らしいサウンドでレコーディングされているのかが、よく分かる。
プログラミングのトラックもとても丁寧で、どの音に注目しても楽しい。
そして思うのだが、これが期間生産限定盤にしか収録されてないということは、これを買ったキッズに唄えということなのだろうか。
キッズが気軽に口ずさめるような平易で容易い曲じゃないぞこれ。ブレスちゃんとあるのに。
「歌ってみてね」じゃくて「歌ってみろ」と言わんばかりだ、これはもはや挑戦状なのではないか。
ベストアルバムもう要らないとあちこちで書いてきたが「インストゥルメンタル・ベスト」だったら、買う。
特典映像について
長くなったけどこれだけ最後に書いておきたい。特典映像である。
ROCK IN JAPAN FES 2017(以下RIJF)の模様が全曲収録されている。
このブログでも書いたが、昨年のRIJFはポルノグラフィティとハルカトミユキという僕の一番大切なアーティストが同じ日に登場という夢の日となった。
しかし、タイムテーブルが発表になり、ポルノグラフィティの後半とハルカトミユキの前半が完全に被っていることが判明し、僕の夢は悪夢になった。
文字通り、死ぬ程悩んだ。
最終的に僕はポルノグラフィティを途中で出て、ハルカトミユキをフルで見ることを選んだ。
経緯はRIJFライヴレポを読んでもらいたい。
そんなRIJFの映像が、初回盤のDVDに収録されたのだ。欲を言えば、あの観客の凄さを味わうためにはblu-rayが良かったが。
映像で見てもやはり圧巻だった。
"アゲハ蝶"で6万人が合唱する姿。クラップなどを見れば分かるが、大半がポルノグラフィティのファンではない。
そんな6万人が、あれだけ1つになるのである。
先日の記事でも書いたが、あのrockin' onが創り上げた舞台で。
長いファンほど、この事実が胸に迫るだろう。
そして"Mugen"が終わり、あの日背中で聴いたガットギターの音色が流れる。
そう、ここから先は僕の知らない景色。
"オー!リバル"
"ハネウマライダー"
"アポロ"
たった3曲。
されど、3曲。
またしても大合唱の"オー!リバル"、"ハネウマライダー"で縦横無尽に回るタオル。
そして"アポロ"。
「"アポロ"が始まったときの歓声がとても大きくて驚いた」とその後コメントしていた。その言葉のとおり、歌い出しから地の底から沸き上がるような歓声。
全てがここから始まって、全てがここに繋がった。
あの日、僕が見れなかった光景。
もちろん、ハルカトミユキを見たことに何の後悔もない。本当に素晴らしいライヴだった。
何一つ後悔せず、RIJFが終わった。
そう思ってた。
なのに、こんな景色を見たら、ダメだよ。
やっぱり終わってなかった。
"アポロ"の音が鳴り止んだ時、本当に僕の中のRIJF2017が終わった。
約1年を経て。
そんなの、泣くって。
歳だから涙腺緩いんだ。
それでもいい。
やっぱりあの夏は、僕の人生で一番大切な夏だったから。
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