2019年7月5日金曜日

ポルノグラフィティ「VS」歌詞解釈〜夜ごと君に話した約束たち







あの日の少年と現在地。


ポルノグラフィティ新曲"VS"を聴いた。

アニメ「MIX」の主題歌というタイアップも去ることながら、20周年、50枚目のシングルというひとつの大きな節目でリリースされるポルノグラフィティにとって重要な曲である。

パッと聴いた印象では「爽やか」という面が強いけれど、爽やかだけでは終わらない楽曲の魅力を紐解こう。

※歌詞表記については聞き取ったものなので、正式な歌詞がわかったら訂正します



ポルノグラフィティ「VS」(バーサス)歌詞解釈
〜夜ごと君に話した約束たち

読売テレビ/日本テレビ系テレビアニメ『MIX』7月期オープニングテーマ







MIX












"MIX"
作曲:新藤晴一/ 作詞:新藤晴一/ 編曲:近藤隆史、田中ユウスケ、Porno Graffitti


近藤隆史と田中ユウスケによるアレンジは、キラキラとした瑞々しいサウンドもありながら、かなり凝ったドラムや、コラージュしたようなギターフレーズなど、一筋縄ではいかない妙を潜めたアレンジだ。

イントロのピアノから、乾いたドラムが絡むAメロ。
Bメロに入ると空間系のエフェクターが効いたロングトーンのギター(レスポールとのこと)。
それがサビでは絡みつくようなメロディを奏でる。

岡野昭仁の声も、その声がとても活きるような音域で、1曲の中で様々な表情を見せる。
今までの曲を感じさせる要素もありながら、今までになかった曲。

結果的に、ただ爽やかなだけでは終わらない想いが詰め込まれた曲にとって、絶妙なバランスと云えるだろう。


過去と今。

思い描いた未来が今日になった時、人は何を思うだろう。

タイアップである「MIX」は「タッチ」の続編として書かれている。正直、野球に関しては門外漢だけれども、Wikipediaなどで見ていると、恐ろしいほど符合があることに気づく。


当初あだちは乗り気ではなかったものの、明青学園の校舎のモデルであり自身の母校でもある前橋商業に久しぶりに赴き、時間の変化のようなものが描けるかもしれないと思ったことから、現在の明青学園を舞台とする連載を引き受ける『MIX』は「古豪復活の物語です」という。

「血の繋がらない兄妹という『みゆき』の要素とか、もういろいろとぶち込んでおきました」とし、『タッチ』以外からも要素の取り入れを明言。タイトルの『MIX』とは過去作の要素のミックスを意味する。


つまりは「MIX」という作品自体が"過去から今に繋がる話"であり、あだち充という漫画家のこれまでの軌跡を詰め込んだものともいえる。

それに対して(野球だからか)珍しくタイアップに寄り添うような歌詞の裏に、新藤晴一は己を重ねた。それについては長々と後述する。

野球まったく分からない僕であっても『タッチ』の概要くらいは知っている。

タイトルの『タッチ』の由来は交通事故で死んでしまう和也から達也への「バトンタッチ」の意味が込められているという。

そして、そのバトンとは「浅倉南を甲子園へ連れていく」という夢である。

夢を叶えること、夢を実現すること。

あの日の約束。



衝動




バーサス 同じ空の下でむかいあおう
あの少年よ こっちも戦ってんだよ


空は気持ちを写すものだ。
空はずっと変わらないのに、それを見つめる自分は変わっていく。

同じ空の下。
空はどこまでも繋がっているという意味で、そこで向き合うのは、たとえばライバルかもしれない、もしくは友かもしれない。

或いは。

変わらない同じ空の下、向き合うのは昔の自分なのかもしれない。たとえ成長し、変わってしまったとしても、今の自分も闘っている、闘っていく。

昔の自分に、昨日の自分に負けないために。

20年の活動と50枚というシングルという地点においても、ポルノグラフィティはまだ走り続ける。


思春期に少年をたたせたのは、オーヴァードライヴ・ミュージック。ヘッドフォンの中に広がった宇宙は少年を虜にした。

それから時は経ち、少年はステージで人々を魅了している。掲げた右腕に、あの日の自分が見た姿を確かに重ねて。

夢を叶えた場所は、果たしてあの日の少年と同じだろうか。


かつてロックが発明された時代
混沌とした世界が敵で

勝負の見えてきた現代は
立ちはだかる壁も探せない
~"プッシュプレイ"


それは5周年ライヴであり、2人体制になったポルノグラフィティがスペシャルライヴ「Purple's」で披露した新曲のひとつ。その新曲はポルノグラフィティの未来を示すために披露された。





「Purple's」とはベスト「Red's」と「Blue's」がMIXされた色。


反抗こそがロックだった。

ステージから「目覚めろ」と叫ぶロッカー、突き上げる拳。

衝動。


そして、それはあの日の大それた夢と約束に繋がる。


夜ごと君に話した約束たち
今も果たせずにいて


2番冒頭の、このフレーズでやられたファンは多いことだろう。

それは2000年に書かれた"ダイアリー 00/08/26"、そして2015年にリリースされた10枚目という節目のアルバム「RHINOCEROS」に収録された"AGAIN"。ちなみに"AGAIN"も田中ユウスケによるアレンジである。






君に語った夢、それが何かは語られない。
しかし、確かなことがひとつある。


ワンカットで撮影されたというMV。それは下北沢を舞台に、東京で初めてライヴをした場所CLUB251へ向かうというもの。

このコンセプト。


"あの日"の自分に会いに行ったんだ。

今の自分を見せるために。

抱いた野望と信念、夢が、あの時の自分にどう写るのか。

ただロックを信じ、故郷を離れ、辿り着いた東京。
憧れを抱き、希望を描き、嬉しくて眠れなかった夜。


そして"AGAIN"を思わせるフレーズは、まだある。


無邪気に描いた地図

というフレーズは、"AGAIN"にいくつか登場する「地図」を思わせる。


遥かな昔 海に沈んだ架空の街の地図で 旅をしているみたい


本当のこと言うよ 時間と共に 地図は掠れていって 今では読めもしない



それは、かつて小僧の頃イメージした壮大な人生プランかもしれない。それは、子どもの頃に歌を褒められてから続く壮大な勘違いかもしれない。だが少なくともまさか44歳でクレープを小学生に奪われたり、ファンに臼と杵を買わせるアーティストになるとは思わなかっただろう。


将来とか夢とか、好き勝手に描いてきた未来図。
それがいつしか、自分の歩む地図となる。

時代に流され街の様相が変わっていくように、自分で描いた地図も変わっていく。しかし。

だからこそ見えてきた新しい夢もあって。それがかつての自分が描いた理想像と違ったとしても、歩んできたからこそ見えてくる景色もある。その景色に僕らもいる。


大切なメンバーが抜け、一度は解散まで視野に入れた2人。
それでもポルノグラフィティはまた歩き出した。

夜と朝が混じる空の下、新たな決意と変わらない夢を胸に抱いて。





そして「MIX」の作品のテーマもまた「もう一度(AGAIN)明青学園を甲子園に」という構想から生まれたというリンク。











憧れと理想と現実




先日SEKAI NO OWARIのライヴを見て、久しぶりにちょっと色々と聴き返していた。ライヴではやらなかったけど、Nakajinが唄う"TONIGHT"という曲がある。そこにこんな歌詞がある。


自分はなんにもできないと思っていた
でもそれはなんでもできるって事みたいで
望んだ人にはなれないかもしれないけれども
僕は僕になる事だけはできるんだ
~"TONIGHT" (SEKAI NO OWARI)


そして、先日のライヴのMCでこんな話があった。


9年前にデビューしたんですけど、その時にミュージシャンとしてこうありたいっていう理想があったんです。その理想と現実と闘う日々で。おかしいんですけど、自分の理想に苦しめられるって。でも今になって考えてみると、そういう苦しみがあったからこそ、前に進むことができたんだと思います。そんな想いを唄った曲です。


キラキラとしたステージで演奏するミュージシャンたちは、多くの葛藤の中を生きている。理想と現実、憧れと限界。

抱いた信念を100%叶えることなどできないだろう。

その姿は、かつて憧れたハチャメチャに生きたロッカーとは違うかもしれない。


夜ごと、君に話してた未来についての言葉は、
いくつかは本当になって、いくつかはウソになってしまった。
~"ダイアリー 00/08/26"



それは、岡野昭仁も同じだ。


憧れには近づけてはないけど
仰ぐ東京狂詩曲(ラプソディ) 夢は続いてる
~"東京ランドスケープ"


これもまた「Purple's」で新曲として披露された"東京ランドスケープ"。

ライヴで披露された時は違っていた歌詞は変化し、アルバムに収録された際にこの歌詞となった。
アーティストにゴールはない、けれどだからこそ夢は終わらない。

ポルノグラフィティにとっても、多くの葛藤があっただろう。いくつもの妥協があっただろう。それでも自分たちの信じる音楽を伝えようとしてきたポルノグラフィティ。そして、今いるこの場所は多くのミュージシャンが、夢見て届かなかった場所なのだ。


理想が姿形を変えたとしても、戦っていく。

それがもたらした景色。

2017年夏。青空の下、ROCK IN JAPAN FESで5万人を沸かしたポルノグラフィティ。

DVDを入れてボタンを押すとき、そこに映る姿はファンが「どうだ、ポルノグラフィティは格好いいだろう」と胸を張って叫んだ、誇り高きロックスターではなかったではないか。

理想を100%叶えるではなく、理想が叶わないからこそ100%以上の姿になることができる。


VS




あのロッカーまだ闘ってっかな?
~"プッシュプレイ"



バーサス 同じ空の下で向かいあおう
あの少年よ こっちも戦ってんだよ


かつての少年は、今の自分を笑うだろうか。
破天荒なロックスターになれずに、壊すべきこの世の中と、それとなくうまくやれてる自分を。


最後の英語の歌詞。


Come on winner.Come on loser.
That is a vision.
Don't hind it behind the cloud.
It’s a shinning rainbow gate.



雨の日も晴れの日もあるように、朝と夜が今日も巡るように、勝つ日もあれば、負ける日もある。

そして、「Vision」とは。
いくつか意味があり、「将来像」とかそういう意味もある。MCUにもいる。

それだけでなく、次のような意味もある。


「幻想」


幻想とじゃれ合って 時に傷つくのを
あなたは無駄だと笑いますか?
元より この世こそが夢幻だとしたら
空架ける虹を行こう
~"Mugen"

誰かの瞳に映る姿。

幼き日の幻のような夢。

色褪せない色たちが混ざりあい、今ひとつの虹をつくる。


「BUTTERFLY EFFECT」ツアーで「希望を感じてもらう曲を」と演奏されたのは"Rainbow"。


走る 走る 今日も走る 我を忘れ大地を蹴って
過去の自分よりも速く走る
辛い日々にひたすら耐える 理由(わけ)は一つ 負けないためだ
風に 山に 太陽に そして君に


「It’s a shinning rainbow gate.」


虹色のゲートを駆け抜けていく。

闘い続けていく。

無邪気に描いた地図の先へ。

掠れて消えた地図の向こうへ。

あの日、確かに感じた衝動を胸に。

オーヴァードライヴ・ミュージックをもう一度。もう一度。

たとえば本気で月に行こうとした人々のように、音楽と言葉に向き合ってきたからこそ、途方もない夢物語は現在地となった。


散りばめられたカケラたちが、ひとつの大きな風になる。






あの日の誓い。

「一生懸命」

何度でもめぐるもの。

「青春」

少年が抱いた初期衝動は。

今も。

「UNFADED」


色褪せないもの。

色褪せてはいけない約束たち。

あの日の少年と今の自分。

10年前と今。

2019年9月。

東京ドーム。

それは過去を振り替えるノスタルジーに浸るものではない。

あの日の自分との闘い。

八百万の神がいるこの国で。

闘いの幕は切って落とされる。


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東京ロマンスポルノ'09 ~愛と青春の日々~ ライヴレポ 回顧録前編
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